第7話 初ダンジョンからの生還
エアハルトは、回復ポーションで疲れをとると帰ることにする。まずは、コボルトとゴブリンの魔石を拾う。バッシュパーティーはエアハルトがダンジョンから戻り始めることを確認するとエアハルトに気づかれないように帰って行く。
エアハルトはゴブリンの魔石を拾い集めて、数えると23個ある。23匹のゴブリンと戦って勝った証拠だ。今考えても絶対的な危機だった。でも乗り越えたのだ。
帰る途中もゴブリンやスライムが襲い掛かって来るが行きの時より弱く感じる。バッシュパーティーがダンジョンを出てギルドの1階に戻ると冒険者たちに囲まれる。
「ダンジョンに行っていたんだろ。少年の遺体はあったか。」「冒険者プレートはどうした。」「どうだったんだ。」
みんな、エアハルトが死んだと思っているらしい。リーダーのアロイスは、機嫌を悪くして言う。
「坊主はぴんぴんしているぞ。残念だったなー。あいつは20匹以上のゴブリンに囲まれても勝ったんだ。すごい奴だぞ。」
「アロイス、見てたの。どうして助けなかったの。危ないでしょ。」
エルメンヒルトがアロイスに掴みかかる。
「黒水晶、離してくれ。坊主は戦っていたんだ。坊主の獲物を横取りしろというのか。」「ごめんなさい。私が間違っていたわ。」
「ああ、とにかく無事だ。もすぐ出てくるはずだ。」「ありがとう。」
アロイスはエルメンヒルトが笑顔を見せたので驚く。アロイスにとってエルメンヒルトは、冷静沈着で隙を見せない近寄りがたい存在だった。
エアハルトはダンジョンを出て地下1階から1階に上がって来る。みんなが歓声を上げる。
「生きて出てきたぞー」「くそー俺の全財産がー」「ポンコツやったなー」「小僧、おめでとう。」
エルメンヒルトがやじ馬をかき分けて前に出るとエアハルトを抱きしめる。
「良かった、良かったよー」
エルメンヒルトは涙を流して喜ぶ。エアハルトはエルに抱きしめられて赤くなって言う。
「僕は生きた帰って来るよ。」「危ないことしたでしょ。」
「うん、少し大変だった。」「ばかーーー」
「エル、そろそろ離してくれる。」
エルはエアハルトを離すと大声で言う。
「賭けは私の独り勝ちよ。勝ったお金で、エアハルトの生還パーティーをアングラートの食卓でやるわ。みんな祝ってくれるよねー」
「もちろんだー」「飲むぞー」「祝いだー」
みんな、喜んでエルメンヒルトを先頭にアングラートの食卓へ向かって行く。アロイスがエアハルトに言う。
「見ていたぞ。お前すごいな。自慢してもいいぞ。」「見ていたんですか、ちゃんと戦えていましたか。」
「ああ、戦い方は文句なしだ。ただ、回復ポーションを帰る前に飲んだだろ。ポーションは大事に使え。ほんとに必要な時に使うんだ。」「はい。ありがとうございます。」
「受付に行って驚かせてやれ。」「はい。」
受付嬢のアメリーが受付から出て来て、エアハルトに声をかける。
「エアハルト君、言いつけは守った様ね。生還できて安心したわ。」「ありがとうございます。」
エアハルトとアメリーは受付へ行く。
「こちらに行った階層と名前を書いてね。」「はい。」
「それから、鑑定するから魔石を出して。」「分かりました。」
エアハルトは受付の前に魔石の山をつくる。」
「エアハルト君、初めてだったわよね。」「そうです。」
アメリーは、この少年を放っておくことはできないと考える。
「ゴブリンの数が多いようだけど何かあったの。」「ゴブリンに囲まれてしまって、戦ったんです。」
「何匹いたの。」「23匹です。」
「23匹・・・よく生きていたわね。」「僕もそう思います。」
エアハルトが嘘をついている様子はない。それにこのゴブリンの魔石の多さの説明がつく。アメリーが難しい顔をしているとアロイスが言う。
「本当のことだぜ。見ていたからな。」「あんた、見ていたなら助けなさいよー」
「坊主の獲物をとったらだめだろ。」「冒険者のルールなんて知りません。それに坊主でなくてエアハルト君です。」
「分かった。エアハルトだな。」「・・・・・」
アメリーはアロイスを睨みつける。アメリーは魔石の鑑定を進めるとコボルトの魔石を見つける。
「なぜ、コボルトの魔石があるの。」「2階層に転げ落ちてしまったんだ。そこで、コボルトとゴブリンを倒した。報告にも2階層と書いたよ。」
アメリーが報告書を見ると2階層と書いてある。アメリーはエアハルトをじっと見る。エアハルトは目をそらす。
「仕方ないわね。私がいいと言うまで2階層に行ってはだめよ。」「はい。」
返事はいいけど言いつけ守るかしら。アメリーはゴブリンの魔石の中にも1階層の物でない魔石を見つける。2階層で討伐したゴブリンの魔石だろう。
アメリーは報告書にエアハルトの今日の魔物討伐数を書き入れる。
スライム16、ゴブリン45、コボルト1
これ新人の討伐数ではないわね。意見欄になんて書けばいいかなー、アメリーはこれからこの新人エアハルトに迷惑をかけられそうな予感がする。
受付が終わるとエアハルトはバッシュパーティーと一緒にアングラートの食卓へ行く。店に入ると生還パーティーはすでに始まっている。
主役の登場にみんなが拍手で迎える。エアハルトは、カリスパーティーとバッシュパーティーに囲まれて、今日起きたことを事細かに話すことになる。エルメンヒルトがみんなに言う。
「エアハルトはできる子なのよ。ずっと一緒にコトル村にいたんだから分かっているのよー」「少し飲み過ぎじゃないか。」
「私が酔っているというの・・・聞いてる・・・エアハルトはできる子なの・・・」「わかったから・・・」
イオンがエルメンヒルトをなだめる。エアハルトはエルメンヒルトが村にいたころと変わっていないことにホッとする。そして、いつか一緒に冒険者をやりたいと思う。