第5話 ソロダイバー
ダンジョンは冒険者ギルドの地下1階に入り口がある。ダンジョンに冒険者ギルドが建てられたのである。冒険者ギルドはダンジョンから魔物が出てくることを防ぐ役割を持つ。
他にもダンジョンに潜る冒険者を管理する役目を持つ。冒険者がダンジョンに入るには、受付で申告しなければならない。そして、ダンジョンから出てきたら受付で報告する。
これでギルドは冒険者の誰がダンジョンに潜っているか把握している。戻ってこない冒険者は行方不明者となって張り出される。
冒険者が遺体を発見した時はその者の冒険者プレートを持ち帰ることになっている。こうして、ダンジョンで死んだ者を把握している。
受付嬢のアメリー・カロッサは、ギルドの雰囲気がいつもと違っていることに気づいていた。ギルドの出入り口では、カリスパーティーが陣取って誰かを待っているようだ。
そこへ昨日喧嘩をして袋叩きにあった少年が入って来る。少年はカリスパーティーを無視して行こうとする。
イオンがエアハルトの肩に手をかけて呼び止める。
「エアハルト、待てよ。話がある。」「僕は話すことはありません。忙しいので失礼します。」
「ポンコツと言ったことは謝る。しばらく、俺たちのパーティーで剣士をしないか。」「いいえ、僕は強くならないといけないんだ。」
「まさか、ソロで冒険者をするつもりか。やめておけ。」「僕は生き残って見せます。」
エルメンヒルトが顔色を変えて言う。
「やめて、死んでしまうわ。」「エル、僕にはこれしかないんだ。」
ギルド中がエアハルトに注目する。そして、少年は真直ぐアメリーの窓口に来る。えっ、私!厄介ごとが近づいて来る。どうするのよー
少年はアメリーの窓口に来ると強い意志を感じさせる目をして言う。
「今からダンジョンに行きます。手続きをお願いします。」「ここにダンジョンに入る人の名前を書いて。」
少年は用紙にエアハルト・アンカーと書いてアメリーに渡す。
「1人だけ、一緒に行く人は?」「ソロで潜ります。」
「待ちなさい。ダンジョンの知識はあるの。」「今日が初めてですから何も知りません。」
「死に行くようなものよ。今日は帰りなさい。」「いいえ、行きます。」
アメリーはエアハルトを睨む。しかし、全くひるまない。何を言っても言うことを聞かないだろう。仕方なくアドバイスすることにする。
「今日行くのは1階層だけよ。出てくる魔物はスライムとゴブリンよ。ゴブリンは棍棒を持っているから気をつけて。」「2階層にはどんな魔物が出るのですか。」
「ゴブリンとコボルトよ。でもゴブリンは剣や斧を持っているわ。絶対に2階層に行ってはだめよ。」「分かっている。1階層だけだね。」
「回復のポーションは持っているわね。」「ポーション?」「まさか、持っていないの。」
話を聞いていたエルメンヒルトが慌ててエアハルトに回復ポーションを5本手渡す。アメリーは頭痛を感じる。
「携帯食は持っているでしょうね。」「弁当を持っているよ。」
「まあ、いいでしょ。生きて帰ってくることが大事なんだから無理してはだめよ。」「ありがとう。必ず帰って来るよ。」
エアハルトは地下1階に向かってダンジョンに向かう。エアハルトが行くと賭けが始まる。
「小僧が生きて帰る方にかける奴はいないかー」「死ぬに決まっているだろ。」「どうせ、ゴブリンと戦ったこともないはずだぜ。」
エルメンヒルトがエアハルトが生きて帰る方に有り金を全てかける。
「黒水晶が生きて帰る方にかけたぞー」
ギルド内の騒ぎを無視して、バッシュパーティーがダンジョンにエアハルトを追って向かう。
エアハルトがダンジョンに入る。ダンジョンの壁はでこぼこして見通しが悪い。壁の影からスライムが飛び掛かってくる。剣を居合いのように抜きながらスライムを両断する。
スライムは地面に落ちるとダンジョンに吸い込まれるように言えて魔石が残る。エアハルトは魔石を拾いながら言う。
「ダンジョンでは死体は残らないのか。まあ、魔石を取り出す手間を省けるな。」
エアハルトはさらに進んで行く。途中、スライムを5匹討ち取っている。ダンジョンが曲がっている所でゴブリン3匹と会う。ゴブリンは棍棒を持っている。
剣ではないがまともに殴られれば助からないだろう。エアハルトは一気に距離を詰める。棍棒を振り上げたゴブリンをすれ違いざまに腹を一閃する。
2匹目のゴブリンはエアハルトの速攻に対応できていない。剣で首をはねる。3匹目のゴブリンが棍棒を横に振る。エアハルトはかわしながら、棍棒を振り切ったゴブリンの右目に突きを入れる。
右目をつぶされたゴブリンは痛みに耐えきれず、棍棒を捨てて転げまわる。エアハルトは心臓を狙って剣を突き下ろす。ゴブリンの死体も消えていく。後には魔石が残る。
エアハルトは順調にダンジョン探索を始めた。しかし、まだ始まったばかりだった。