第3話 冒険者登録
エアハルトは16歳の朝、コトル村を旅立つ。両親は自警団に残ることを願った。ヤエン団長他、親しい人は皆「自警団に残れ」と言う。
みんなは魔法を使えない者が冒険者になれないことを分かっている。それが何だと言うんだ。努力を続けて腕を上げてきた。今ではヤエン団長より強くなっている。
これからも努力して前に進むんだ。強く決心してゴルドベルクへ歩いていく。
エアハルトは、2日目の夕方、ゴルドベルクに到着する。街の中には帯刀した冒険者が歩いている。あちらの人は耳が長いエルフかな。街の中心に向かって歩き続ける。
すると黒髪の少女を見つける。エルかもしれない、エアハルトの足が速くなる。遠目に少女の横顔が見える。やはり、エルだ!
「エル、エルーー」
エアハルトは走る。声が届いたのかエルメンヒルトが振り返る。そして、エアハルトに気づくと笑顔になる。
「エアハルト!」
エルメンヒルトは手を振る。エアハルトが追い付く。
「エル、僕、来たよ。今付いたんだ。」「エアハルト、落ち着いて。話聞くから。」
「へえ~、こいつがエアハルトか、エルメンヒルトから話は聞いているよ。」「はじめまして。あのう。」
「俺か、俺はイオン・アーレス、カリスパーティーのリーダーをしている。イオンと呼んでくれ。」「私はブリキット・ゲアル、弓使いよ。」「わしは魔法使いのケープ・ゴスリヒじゃ。」
「エアハルト、俺たちのパーティーに入るんだろ。」「入れていただけるなら、頑張ります。」
「今から夕食に行くところなんだ。付き合えよ。」「はい。」
カリスパーティーとエアハルトは冒険者ギルドに近いアングラートの食卓に入る。
アングラートの食卓は1階が食堂になっているが、2階と3階は冒険者の宿になっている。エアハルトは今日はここに泊まることにして部屋をとる。
イオンは、エアハルトの歓迎会と称して食事会をはじめる。カリスパーティーの面々はエアハルトの腕前が知りたくて興味深々だ。
「自警団に入っていたんだろ、大きな仕事はしたか。」「ゴブリンの巣をつぶしました。」
「小さな巣だろ。」「大きさは分かりませんが、ゴブリンキングがいました。」
「ゴブリンキング!よく無事だったな。」「巣には4人で入りましたが、仲間が2人亡くなりました。」
「私、聞いていないわよ。誰が死んだの。」「カインとロイだよ。」
「2人とも腕が立ったわよ。」「毒矢にやられたんだ。」「残念だわ。」
「ゴブリンキングは誰が倒したんだ。」「僕とヤエン団長の2人で何とか倒したよ。」
「とどめは団長か。」「いや、僕です。」
「そうか、頼もしいぞ。明日の冒険者登録はついて行ってやる。」「イオン、エアハルトのアビリティが気になるんでしょ。」「楽しみにしていると言ってくれ。」
食事が終わるとエアハルトは2階の部屋に行き、眠りにつく。冒険者登録が楽しみで寝られないかと思っていたが、旅の疲れが眠りにつかせる。
エアハルトは朝早く目覚めると日課の剣の素振りをして体を動かし、体を目覚めさせる。食堂に行くと他に客はおらずエアハルトだけだった。
厨房にいる。主人のヨルと女将のアンに声をかけ、朝食を頼む。朝食を食べていると看板娘のベアトリスが話しかけてくる。
「エアハルトさん、ゴブリンキングを討伐したことがあるの。」「うん、昨日の話を聞いていたの。」
「ええ、今日、冒険者登録すると聞いて興味があったの。」「僕はこの日をずっと待っていたんだ。」
「おかしなの。冒険者になるのはスタートでしょ。」「そうだね。僕はエルに追いつくつもりだよ。」
「エル?誰の事。」「エルメンヒルトのことだよ。」
「彼女は黒水晶と呼ばれているのよ。」「どうして。」
「ゴルドベルクで最速のレベル2よ。黒い瞳と黒髪からそう呼ばれるようになったのよ。」「そうか。僕も頑張るぞ。」
「朝から元気だな。ベアトリスちゃんを独り占めかい。」
エアハルトが振り向くとイオンたちカリスパーティーがいる。エルが言う。
「エアハルトは1年で女の子と話をすることがうまくなったのね。」「違うよ。たまたまだよ。」
イオンが意味ありげに言う。
「アングラートの食卓の看板娘は冒険者たちのあこがれだから、夜道に気をつけるんだな。」「えっ・・・」
エアハルトが食堂を見渡すと何人かの冒険者と目が合う。冒険者の目が言っている「殺す」。冷や汗が流れる。最後にベアトリスがとどめを刺す。
「エアハルトさん、応援しているわ。」
ウインクして去っていく。イオンがエアハルトの肩を叩く。ちょっと痛かった。
エアハルトはイオンたちと冒険者ギルドに行く。エアハルトは書類に必要事項を書く。最後にアビリティを測定する。
水晶玉に手をかざすと水晶玉に繋がれた宝具がアビリティを書きだしていく。エアハルトにアビリティを書いた紙が手渡されるがイオンが取り上げて読み始める。
適正 剣士 俊敏40 力32 剣技70 持久力24
「すごいな、今日から前衛を任せられるぞ。」「本当ですか。」
イオンは続きを読むが顔色が変わる。
「イオン、どうしたの。」「エアハルト、お前、村へ帰って自警団を続けろ。俺のパーティーには入れられない。」「えっ・・・」
イオンがアビリティを書いた紙をエアハルトに返す。エアハルトはアビリティを読む。
毒耐性2 魔力0 スキル・・・
魔力0だって、僕は魔法が使えないのか・・・・・
エルメンヒルトがイオンに問いただす。
「イオンどうしたの。なんでそんなひどいこと言うの。」「エアハルトのためだよ。」
茫然と立っているエアハルトからアビリティを書いた紙を取って読む。エルメンヒルトが涙目になりながら言う。
「エアハルト、村へ帰って、自警団なら十分活躍できるよ。」
エルの言葉はエアハルトに重くのしかかる。僕は冒険者になるんだ。活躍して、エルに並んで・・・・・