第2話 ゴブリンキング
エアハルトとヤエン団長は先鋒を交代しながらゴブリンと戦う。狭い通路では1対1の戦いになるので疲労を防ぐために交代しながら戦う。
ヤエン団長がゴブリンの剣を弾き飛ばし、剣で心臓を貫く。
「スイッチ。」
ヤエン団長とエアハルトが交代する。エアハルトは低い姿勢から剣を突き上げ、前に出てきたゴブリンの下あごを突き上げる。ヤエン団長が感心する。
実戦ではエアハルトが自警団最強だろう。それだけにエアハルトが魔法が使えないことを惜しく思う。
2匹目のゴブリンが剣を振りかぶって、力いっぱい振り下ろす。エアハルトは、軽々と剣を受けるとゴブリンの腹に蹴りを入れる。ゴブリンが悶絶してかがむ。
エアハルトは剣を首に突き下ろして止めを刺す。3匹目のゴブリンが剣を横に振って切りつけてくる。エアハルトは剣でゴブリンの剣を上にはじいて、ゴブリンの腕が上がった所を心臓を貫く。
「スイッチ。」
エアハルトはヤエン団長と先鋒を交代する。こうして、エアハルトとヤエン団長は奥へ進んで行く。
突然、広い空間に出る。そこは、木が燃やされて、明るくなっている。装飾品で体を飾ったゴブリンが5匹いる。群れの中で地位が高いのだろう。
しかし、エアハルトとヤエン団長の目はその奥にくぎ付けになる。二回りは大きいゴブリンが座っていた。
「ゴブリンキングだ。」「ゴブリンキング。」
「ああ、昔、1度あったことがある。」「強いのか。」
「5人がかりでやっと倒したよ。」「僕たちは逃げなくてはならないのかい。」
「いや、俺もお前も十分に強い。2人がかりなら勝てるさ。」「じゃあ、雑魚を掃除して、やる気にさせるか。」
エアハルトは、装飾品で体を飾ったゴブリンに向かって行く。ゴブリンは斧を手にして待ち構える。斧のスピードではエアハルトをとらえることが出来ない。
5匹のゴブリンを余裕で討伐する。ゴブリンキングの目が見開かれる。立ち上がるると威嚇するように吠える。
「ごあああああああーーーー」
「吠えたって怖くないよ。」「エアハルト、やる気になったみたいだぞ。」
ゴブリンキングの手には長さ2メートル位の鋭い黒曜石の剣を持っている。ヤエン団長が注意する。
「あの剣を受けるなよ。折られるぞ。」「ああ。僕から行くよ」
エアハルトはゴブリンキングの間合いに入る。黒曜石の剣が襲って来る。ぎりぎりでかわすと中に入って心臓を狙って突きを繰り出す。しかし、剣は心臓に届かない。
ゴブリンキングは、剣を掴み引き抜くとそのまま裏拳でエアハルトに殴り掛かる。かわせないと判断したエアハルトは後ろに飛んで衝撃を和らげる。そして、壁まで飛ばされる。
ヤエン団長は、ゴブリンキングがエアハルトに注意をひかれていたうちにうろに回り込み背中を切りつける。硬い!ゴブリンとは比較にならない。それでも切り裂く。
ゴブリンキングは背中から出血する。ヤエン団長は、何度も切りつけて体力を奪うしかないと判断する。
「エアハルト、大丈夫か。無理せず体力をそいでいくぞ。」「大丈夫です。切り殺してもいいですよね。」
「奴は固い無理するな。」「任せてください。」
エアハルトはゴブリンキングの後ろに回り込む。ゴブリンキングはヤエン団長に気を取られている。エアハルトは剣速を速めて右足の腱を切る。さらに左足も腱を切る。
ゴブリンキングは立てなくなりしりもちをつく。
「ヤエン団長、動きを封じましたよ。」「なんて奴だ。」
ヤエン団長はエアハルトの実力を過少評価していたことに気づく。自分が皮一枚切ることがやっとだったものを一撃で足の腱を切って見せたのだ。今の自分ではエアハルトの実力を計ることはできないと知る。
今度はヤエン団長がゴブリンキングを攻める。だが、黒曜石の剣を振り回して近づけない。エアハルトが叫ぶ。
「スイッチ!」
エアハルトは黒曜石の剣を足場にしてゴブリンキングに迫り、右目を剣でつぶす。エアハルトにゴブリンキングの左手が迫る。
「スイッチ!」
ヤエン団長が飛び込みゴブリンキングの腹に剣を突き立てる。手の動きが鈍り、エアハルトは手から間一髪で逃れてゴブリンキングから離れる。
ゴブリンキングの右腕がヤエン団長を弾き飛ばす。ヤエン団長は剣を手放さない。剣は腹を裂きながらぬける。ヤエン団長は地面を転がる。
「スイッチ!」
エアハルトはがら空きになつている心臓に突きを入れる。剣は深々と刺さって心臓を貫く。エアハルトは剣を手放してゴブリンキングから飛びのく。
「がああああぁぁぁーーーー」
ゴブリンキングは雄たけびを上げると糸が切れたように崩れて静かになる。エアハルトはヤエン団長の所に駆け寄る。
「大丈夫ですか。」「ああ、大丈夫だ。やったか。」
「はい、心臓を貫きました。」「そうか。大した奴だ。」
ヤエン団長とエアハルトは外で警戒していた団員5人とカインとロイの遺体を運び出す。そして、村人の協力を得てゴブリンの巣の調査をする。
巣の中からはゴブリンにさらわれてきた女性5人と財宝が見つかる。財宝は換金され、3割が自警団の取り分になる。ヤエン団長は取り分を9等分にする。
ヤエン団長は、エアハルトに言う。
「このまま自警団に残るつもりはないか。」「僕は冒険者になります。」
「お前は強い。しかし、魔法が使えない。剣の腕が立っても魔法がなければ、冒険者として大成しないぞ。」「僕は冒険者となってエルに追いつくんだ。」
ヤエン団長は首を振ると諭すように言う。
「エルメンヒルトは剣だけでなく魔法も秀でていた。追いつくなんて無理だ。魔法がなかったら追いかけることもできないんだよ。」「何、分かったようなこと言うんだ。」
「俺は冒険者を目指したことがある。魔法が使えていればゴブリンキングを1人で倒していたさ。だが、あのざまだ。」「僕の決心は変わらないよ。」
エアハルトにもわかっていた。上級の魔物は魔法を乗せた剣でなければ切ることが難しいことを・・・
魔法が使えない。でも、諦めることはできなかった。足りなければ剣技で埋めればいい。冒険者に必ずなるんだ。