第15話 転生者
セクメト・クランは陣形を整え上層の階層を目指す。49階層ではゴーレムが動かず襲ってこない。ベアトリスが説明する。
「私がいるので、このダンジョンでは襲って来る魔物はいませんわ。」「一応、警戒させてもらうぞ。」
アルフレートがベアトリスに言う。途中、魔物が襲って来ることはなかったが、陣形を保って進む。エアハルトの左側にはベアトリスが歩き、右側にはエルメンヒルトがついている。
アロイスがからかうように言う。
「エアハルト、もてるな。両手に花だ。うらやましい。」「変わりましょうか。」
「俺は1人で充分だ。アメリー嬢に振り向いてもらいたいだけだ。」「アメリーさんですか。お似合いだと思いますよ。」
「お前、本当にいいやつだな。」「出会いは最悪でしたけど、大切な仲間になりましたから。」「あの時のことは反省しているよ。」
セクメト・クランは3日でダンジョンを出る。その間、魔物との戦闘はなく。魔物がわざわざ道を開けてくれる状態であった。
地下1階の通路に出ると居合わせた冒険者たちが声を上げる。
「セクメト・クランが帰って来たぞー」「英雄の凱旋だー」
人が集まって来る。エアハルトたちは手を振ってこたえる。エアハルトとアロイスが受付に報告書を出しに行く。受付でアロイスはアメリーに言う。
「全員、50階層へ行って無事帰って来たぜ。俺とデートしてください。」「最初に言うことがそれですか。」
「俺にとっては大事なことなんだ。」「分かりました。よろしくお願いします。」「いやったー、デートだ!」
アロイスは小躍りして喜ぶ。冒険者仲間が声をかける。
「よくやったぞー」「うらやましいぞー」
アメリーは真っ赤になりながら言う。
「手続きを進めますよ。」「はい。」
エアハルトが報告書を出す。アメリーは報告書に目を通すうちに顔に汗がにじんでくる。
「これは本当ですか。」「はい、ベアトリスさんを救助して、ダンジョンを攻略しました。」
「攻略ですか!快挙ですよ。」
アメリーの声が他の人々に聞こえる。受付にギルト職員が集まると共にやじ馬が受付を取り囲む。世界で3つ目のダンジョン攻略である。大騒ぎになる。
セクメト・クランは別室に通されて、ギルド長のコンラートが事情聴取する。エアハルトたちはうそを交えながら説明する。
コンラートはゴーレムとドラゴンの存在に驚き、全員にアビリティの再測定を薦める。
測定結果は
アンカーパーティー エアハルト・レベル8 アルマ・レベル6 アルノー・レベル8 エルメンヒルト・レベル8 カンデ・レベル7 ベアトリス・レベル5
バッシュパーティー アロイス・レベル8 デニス・レベル7 エゴン・レベル7 カミル・レベル6
グーゲルパーティー ディータ・レベル7 カール・レベル7 クヌート・レベル7 ユリアーネ・レベル6
イーリスパーティー アルフレート・レベル8 クルト・レベル8 アライダ・レベル8 ヨル・レベル7 シリノ・レベル5
となっているが、ベアトリスは魔力を抑えて測定している。彼女はアンカーパーティーの魔法使いになる。
コンラートはセクメト・クランのメンバーに言う。
「このことは領主に報告することになるが、おそらく、全員、貴族の地位を授けられるだろう。」「獏たちがですか。」
「そうだ。」「そんな地位はいらないぞ。冒険者は自由なんだ。」
「そういうな。もらっておけ、歳をとったら役に立つ。俺のようにな。」「コンラートさん貴族だったのですか。」
「準男爵だ。」「似合わないぞ。」「ああ、私もそう思うが、おかげでギルド長をしている。」
手続きが終わるとアロイスたちは当然のようにアングラートの食卓へ向かう。ベアトリスが食堂に入ると案が駆け寄ってきて抱き着く。
「あんたー、ベアトリスが帰って来たよ。」「本当かー」
2人は涙を流して喜び合う。エアハルトが席に着くとエルメンヒルトとアルマが両隣を陣取る。ベアトリスはエアハルトに後ろから抱き着く。エルメンヒルトは疑問を口にする。
「ベアトリスはなぜ、エアハルトが好きなの。」「あなたたちもエアハルトさんがいいのでしょ。」
「そうだけど、他にいい人がいてもおかしくないと思うの。」「エアハルトさんが黒髪に黒い瞳だから興味を惹かれて見ているうちに好きになったのよ。」
「どういうこと。」「私は転生者なの。悪魔に生まれる前は、みんな黒髪に黒い瞳の国に住んでいたの。」
「生まれる前の記憶がるということ。」「そうよ。信じられない?」
「信じるしかないでしょ。」「ありがとう。」
エルメンヒルトは、自分たちのような黒髪に黒い瞳の人々が暮らしている国を想像するがイメージがまとまらない。
エアハルトはエルメンヒルト、ベアトリス、アルマに囲まれているが、話に加われず放置されている。転生者か、生前の記憶があるだけで僕たちと何か違いがあるのかな。
ベアトリスが悪魔であることを忘れて考える。そこへアロイスが話かけてくる。
「エアハルト、次の冒険はどうするんだ。ゴルドベルクのダンジョンは攻略したから新しい目標が欲しいよな。」「僕は、他のダンジョンに行こうと思います。」
「どこのダンジョンだ。」「トリーゼンのダンジョンはどうでしょう。」
「みんな聞いたか。次はトリーゼンだー」「「「おー」」」
みんなやる気満々である。ところがベアトリスが言う。
「トリーゼンのダンジョンはまだ手に負えないわよ。」「どこかおすすめのダンジョンはないかな。」
「スレイプのダンジョンはどう。難易度はゴルドベルクと大差ないわよ。」「ベアトリス、街が廃墟だろ飲めないじゃないか。」
アロイスが宴会が出来ないと苦言する。アルフレートが言う。
「俺たちセクメト・クランが行けば、人は集まるさ。当然、イーリスクランも行くからな。」「ギルドが無いから冒険者ギルドに掛け合う必要がありますよ。」
アルノーが根本的な問題を言う。するとベアトリスが渋々と言った感じで言う。
「アウスバッハのダンジョンはどうかしら、街は服飾が盛んで女性が多いわよ。」「よーし、アウスバッハに行くぞー」
「おーっ」「もてたりするかな。」「彼女作るぞー」
アルマがバカを見るように言う。
「それじゃ、いつもと一緒だろ。」「みんなが楽しければいいよ。」
「ほら、エアハルト、代表なんだから何か言えよ。」「次の冒険が決まりました。アウスバッハに遠征します。」
みんなが拍手する。するとベアトリスがアルノーに言う。
「ゴーレムを倒せるように訓練が必要です。攻略法を教えるので、みんなに訓練をしてください。」「任せてください。1人でゴーレムを倒せるようにして見せます。」
アルノーの言葉にみんなのテンションは下がる。エゴンとクヌートは抱き合って泣きだす。場の空気を読まないエアハルトとエルメンヒルトが目を輝かせる。