第14話 ダンジョンの主
セクメト・クランのメンバーがダンジョン攻略に浮かれる中、エルメンヒルトは視線を感じていた。視線に敵意は感じない。しかし、放っておくことはできない。
エルメンヒルトは視線に向かってナイフを投げつける。ナイフは空中に止まる。
「出てきなさい。いるのは分かっているわ。」「察しがいいのね。気配を殺して。魔力も最小に抑えているのにすごいわ。」
「その声、まさか・・・・・」「驚いてくれるのね。」
みんながよく知っている金髪の美少女が姿を現す。アロイスが目を丸くして声を絞り出す。
「なぜここに・・・・・ベアトリスなのか。」「はい、お久しぶりです。」
アルフレートが警告する。
「みんな、うかつに近づくなよ。彼女は危険だ。」「酷いわ。私は静かに見送るつもりでしたのよ。」
「信じられない。君のことは以前から脅威に感じていたんだ。まともな人間なわけがない。」「ええ、私は悪魔です。でも恋する少女に過ぎないのですよ。」
「エアハルトを狙っているのか。」「私の気持ちはエアハルトさんに伝えてあります。心の底から好きなのです。」
エアハルトが前に出てベアトリスの前に立つ。ベアトリスは黒色のレースのフリルをふんだんに使った黒いドレスをエアハルトに見せるようにして言う。
「エアハルトさん、どうですか似合いますか。」「似合っていますよ。きれいです。」
エアハルトの言葉にベアトリスは金色の目を潤ませて笑顔になる。アルフレート、クルト、アライダが前に出てエアハルトを引き戻す。
「エアハルト騙されるな。相手は悪魔だぞ。」
アライダが業火でベアトリスを焼く。ベアトリスの黒いドレスは灰になるがベアトリス自身は焼けることがなく、裸体をさらす。
「私に対する仕打ちがこれですか。」
ベアトリスは涙を流す。そして、アルフレート、クルト、アライダを睨みつける。するとアルフレートたちは立ったまま動けなくなる。
「ベアトリスさん、アルフレートさんたちに何をしたんだ。」「戦いたくないので、動けなくしました。無事ですので心配なく。」
「なぜ、ここにいるの。」「私はダンジョンの主だからです。」
「僕たちはこのダンジョンを攻略してないということか。」「いいえ、ダンジョンを攻略しましたよ。魔法石が証拠です。」
「なら、僕たちと帰らないか。」「エアハルトさんが私をそばに置いてくれるのなら一緒に行きます。」
「僕はエルが好きなんだ。」「私に事は嫌いですか。」
「好きです。」「なら、問題はありませんわ。」「問題あるわよ。私のエアハルトをとらないで。」「こら、俺もいるぞ。」
「僕はエルを選んだのだけど。」「考えが硬いですわ。奥さんが1人とは限らないでしょ。」「なっ。エアハルトは貴族じゃないのよ。冒険者よ。」
「冒険者の妻が1人とは決まっていないでしょ。」
ベアトリスはエアハルトに抱き着く。エアハルトは顔があかくなる。
「ベアトリスさん裸だよ。せめて何か服を着てください。」「こちらの方がうれしいでしょ。」
ベアトリスは空間からドレスを取り出して着る。アルノー、カンデ、アロイスたちは相手にしていられないと帰りの相談を始める。
ベアトリスとエルメンヒルトは討論を続けるがエルメンヒルトがベアトリスに言い負かされてしまう。エアハルトの意見は最初から相手にされていなかった。
ベアトリスはセクメト・クランのダンジョン攻略について1点説明する。
「本当は炎竜を倒して攻略達成だったけど、49階層のゴーレムに刃が断たないのに50階層に逃げて来たから、全滅は確実だったのよ。このままではエアハルトさんが死んでしまうから、炎竜に引き上げてもらったのよ。」
「俺たちの攻略はお情けか。」「特別よ。」
相談して、ベアトリスは悪魔ヴァルにさらわれていたことにする。悪魔であることも秘密だ。さらにベアトリスはアンカーパーティーの魔法使いとして参加することになる。
アルフレート、クルト、アライダは、話がついたところで解放される。しかしアルフレートたちは警戒を解いていない。