第1話 冒険者パーティーと工房主の動き
イーリスクランに、エアハルトが持ち帰った冒険者プレートが渡される。この冒険者は、ダンジョン・クレバスに落ちて行方不明になっていた。
アルフレートがクルトとアライダに言う。
「また、エアハルトに世話になってしまったな。礼を言いに行かなくてはならないな。」「無用なトラブルはやめてくれよ。」
「なぜトラブルになる。」「エアハルトとはいろいろと因縁があるだろ。」
「そういうことか。心配しないでくれ。イーリスクランの代表として会って来るだけだよ。」「ならいいが。」
アングラートの食卓では、エアハルトとエルメンヒルト、アルノーが食堂に詰めていた。3人は来客の応対をしている。
セクメト・クランに入りたいという冒険者パーティーが訪れるため、断るために応対をしていたのだ。
アロイスたちと相談して、今、他のパーティーを加えるとバランスが悪くなり、新参のパーティーがウイークポイントになると結論に至ったのだ。
腕の立つ冒険者パーティーは、セクメト・クランが有頂天になっていると断じて怒って帰って行く。アルフレートが到着した時にも高レベルの冒険者パーティーが断られて大声で怒鳴り散らしていた。
「俺たちは、セクメト・クランがゴルドベルクで1番のクランだから参加を希望したんだそ。イーリスクランではなく、あなた方をだ。なぜ断るんだ。」「いま、クランでは新規の入会を断っているんです。」
「後悔するぞ。」「大丈夫ですから、お引き取りください。」
「こんなチャンス二度とないからな。」
冒険者たちは怒って帰った行く。アルフレートはその光景を見て、セクメト・クランは正しい選択をしていると考える。
「アルフレートさん、こんにちわ。」「エアハルト、大変だね。」
「まあ、新しい入会は断ることにしたんです。」「正解だと思うよ。高レベルの冒険者を入れるとスタンドプレーに走りやすいからね。」
「今日は、どんな用件ですか。」「お礼を言いに来たんだ。仲間のプレートをよく持ち帰ってくれたありがとう。」
「僕たちが助けられたんです。僕たちは死体から剣とポーションを取りました。すみません。」「謝ることはないよ。おかげで生きて帰って来られたんだろ。」
「はい、ぎりぎりですけど生きて帰ってきました。」「それでいいんだ。仲間も喜んでくれるよ。」
アルノーが割って入る。
「今日は、礼を言いに来ただけですか。」「ああ、イーリスクラン代表として礼を言いに来ただけだよ。」
「そうですか。私たちセクメト・クランは次の遠征を考えています。」「そうだろうね。今、一番勢いがあるのは君たちだ。クラン全員がレベル5以上なんて他のクランでは太刀打ちできないよ。」
「イーリスクランも遠征を考えているのではないですか。」「聞くまでもないことだよ。私たちが何も準備していないと思われては困るよ。」
「40階層をどちらが踏破するか競争になりますね。」「イーリスクランの力を見せてあげるよ。」
アルフレートは帰って行く。エルメンヒルトがアルノーに文句を言う。
「なぜ、挑発するようなこと言うんですか。」「イーリスクランがおとなしくしているか、知りたかったのさ。」
「イーリスクランが黙っているわけないでしょ。」「エル、その辺で・・・」
エアハルトがエルメンヒルトを止める。セクメト・クランのメンバーは装備をカミオ工房のフィンに修理と調整を頼んでいるので休憩をとっている。
セクメト・クランのメンバーを狙って、冒険者の装備を作る工房から勧誘が来る。アングラートの食卓の食堂にも工房主が訪ねてくる。
「エアハルトさん、カミオ工房の装備を使っているそうですがやめておいた方がいいですよ。あそこは殺人クランと関係があった所だ。」「フィンは大丈夫ですよ。」
「しかし、不屈のエアハルトの名にキズが付きますよ。」「僕はポンコツと言われてきたんですよ。うわさなど気にしません。」
「どうか、うちの工房と取引をお願いできませんか。」「お帰り下さい。僕の装備はカミオ工房製です。」
工房主たちはエアハルトだけでなく、アロイスたちやディータたちの所まで押しかけていた。
「エアハルト、工房主たちがうるさくて困るよ。」「アロイスさんの所も来ましたか。」
「これは、フィンの所に邪魔が入るかもしれませんね。」「僕、明日顔を出してみます。」「その方がいいでしょう。」
アルノーの言葉にエアハルトはフィンの様子を見に行くことにする。翌日、出かけようとするとエルメンヒルトがついて来る。さらに通りに出ると偶然にアルマと会う。
3人はフィンの工房を訪ねる。
「エアハルト、彼女を2人も連れて来て見せびらかしに来たのか。」「そんなことしないよ。心配で来たんだ。」
「心配?」「僕たちの所に工房主が来て取引をしてほしいというんだ。」
「取引するのか。」「そんなことしないよ。僕たちにはフィンがいるだろ。」
「なら、問題ない。」「他の工房から邪魔されたりしていないか。」
「大丈夫だよ。そんなことしたら、工房ギルドが黙っていないからな。」「ならよかった。たまにはアングラートの食卓に来てくれよ。おごるよ。」
「ありがたいがエアハルトの防具の修理があるからな。毎回ボロボロだな。」「僕は防具のおかげで死なずに済んでいるよ。」「ならいい。」
一瞬、フィンはうれしそうな顔をする。フィンは、エアハルトが大物になって、自分の目は間違っていなかったと思う。