第10話 デート?の終わり
アロイスはフィンを見て言う。
「あれは、カミオ工房のフィンじゃないか。」「カミオ工房といったら殺人クランと手を組んでいたんでしょ。」
「もう、5年も前になるがな。」「エアハルトにカミオ工房はふさわしくないわ。」
エルメンヒルトは隠れていたことも忘れて出ていく。こうなるとイオンにも止められない。エルメンヒルトは防具の調製をしているフィンに近づくと憤りを隠さずに言う。
「あなた、エアハルトから離れて、エアハルトにふさわしくないわ。」「俺がカミオ工房の職人だからか。」「そうよ。関わらないで。」
「エル、ひどいよ。フィンはカミオ工房を立て直そうとしているんだよ。」「エアハルト、カミオ工房が何をしたか知っているの。」
「うん、知っている。フィンはどん底から這い上がろうとしている。僕と同じだよ。」「防具なら私が買ってあげるから。」
「要らないよ。武具は自分で買う物だ。」「私が嫌いになったの。」
「そんなことない。今でも一緒に冒険者をしたいと思っている。」「なら、カリスパーティーに入りなさい。一緒にダンジョンに行けるよ。」
「違うんだ。僕はエルの横に並びたいんだ。最高の冒険者になりたいんだ。」「エアハルトは私のライバルになりたいんだね。追いつけるなら来なさい。」
エルメンヒルトはその場から去っていく。フィンがエアハルトに言う。
「あれでいいのか。」「あまり良くない。エルと仲良くしたいのに。」
「・・・まあ、がんばれ・・・調整終わったぞ。どうだ?」「わあ、ぴったりだ。僕に合わせて作られたみたいだ。」
「当たり前だ。これからは、武具は全部、俺が作るから何でも要望を言ってくれ。」「うん、これで思うように戦えるよ。」
フィンはこれからいぞがしくなると言って店から出ていく。店員がエアハルトに言う。
「良かった。フィンに理解者が出来たんだからな。お客さん、フィンのことを頼むぞ。」「世話になるのは僕の方だよ。」「それでいい。いいんだ。」
エアハルトとアメリーは店を出ると昼近くになっている。アメリーはエアハルトに言う。
「お腹減らない。」「減りました。」
「いい店知っているから、おごってあげる。」「僕が払います。払わせてください。」
「おごってあげるのにー」「いいえ、こういう時は男が払うんです。」
「誰かに入れ知恵されたのね。」「そんなこと無いですよ。」
エアハルトは昨夜、冒険者たちにデートのレクチャーをされている。アメリーには、お見通しだった。食事代はエアハルトが譲らず代金を払う。
エアハルトがアメリーに言う。
「僕、行きたいところがあるのですが案内してもらえますか。」「どこに行きたいの。」
「ゴルドベルクの街が一望できるところがいいです。」「分かったわ。ついてきて。」
アメリーはエアハルトの手を握ると機嫌良さそうに歩いて行く。エアハルトは見慣れた建物に連れて来られる。
「ここ、冒険者ギルドですよね。」「そうよ。いつも地下に向かって、上に行ったことがないでしょ。」
アメリーは冒険者ギルドの上へ向かう階段を上り始める。冒険者ギルドの建物は10階建てで、ギルドの部屋とクラン「トラの爪」の部屋が混在している。
トラの爪はイーリスクランが力をつけるまでは最大最強のクランだった。頂点の座をイーリスクランに明け渡したが強力なクランなのは間違いない。
彼らは、ダンジョンがある建物に常駐してダンジョンを見張っている。
エアハルトとアメリーは屋上に出る。ここはゴルドベルクで一番高い場所だ。街を守る壁までさえぎる建物はない。
「どお、ゴルドベルクは。」「大きいですね。僕の村とは大違いだ。すごいよ。」
「君はこの街で一番になろうとしているんだよ。」「はい、もちろんです。もっと強くなって一番になります。」
エアハルトはアメリーから目をそらさずに言う。この後、エアハルトはアメリーを家まで送る。エアハルトが1人になるとアロイスたちが出てくる。
「エアハルト、帰る場所が違うだろ、どうして宿に誘わないんだ。」「僕、それは間違っているような気がして、家まで送ることにしたんです。」
「後悔するなよ。アメリー嬢とデートしたい奴はいくらでもいるがデートした奴は1人もいないんだぞ。」「僕もきっとデートではありませんよ。」
これはまず女遊びを教えなくてはならないなとアロイスは考える。エアハルトとアロイスたちは一緒にアングラートの食卓へ行く。
アロイスたちは食堂に入るとエアハルトを囲んで酒盛りを始める。ベアトリスがエアハルトに質問する。
「アメリーさんとのデートはどうでしたか。」「デートではないよ。防具を買いに行っただけだよ。」
「本当にそれだけ。」「うん。」
「ベアトリスちゃん、聞いてよー、エアハルトの奴、手をつないだだけで何もしなかったんだ。寂しいだろー、教育が必要だよね。」「アロイスさん、女遊びに連れて行くつもりではないですよね。」
ベアトリスがものすごい目でアロイスを見る。アロイスは気おされて酔いが覚める。
「い、いや。そんなつもりは・・・・」「怒りますよ。」
「しない、しないよそんなこと。」「なら、いいのです。」
ベアトリスが微笑む。アロイスの感が警鐘を鳴らしている。ただの宿の娘だろ。なぜ、俺が危険を感じるんだ。今日は飲み過ぎたのか・・・
それは、デニス、エゴン、カミルも感じていた。エアハルトはアロイスたちが急に静かになったので不思議に思う。ベアトリスは笑顔で働いていた。