田中兄弟歯科ー1分で読める1分小説ー
男は以前から『田中兄弟歯科』が気になっていた。
兄弟でやっているのだろうか? じゃあ田中歯科でもいいじゃないか。そんなことを思っていると、歯が痛み始めた。
ちょうどいい。ここで診てもらおう。中に入ると、先生があらわれた。
「ここは兄弟でやってるんですか」
「はい。私が兄の田中一平です」
やはりそうか、と男はおかしくなった。
「あー、上にも下にも虫歯がありますね。まずは上の歯からやりましょう」と兄の先生は早速治療を開始した。
すると途中で、「弟の田中二郎です」と弟の先生に交替した。
「えっ、二人でやるんですか」
「ええ、兄が上の歯の担当で、弟の私が下の歯の担当なんです」
変なシステムだな……すぐに下の歯の治療も終えると、弟の先生は席を立ち、歯科助手の女性が尋ねてきた。
「噛み合わせはどうですか?」
男が噛みしめると、顔をゆがめた。
「なんだ、これ? 高さが全然あってない」
「やっぱり……」
「やっぱりってどういうことですか?」
女性が呆れ混じりに答えた。
「先生たち兄弟喧嘩をすると、噛み合わせが悪くなるんです」