第1章:弑逆鬼神の髑髏杯 (3) 髑髏杯合流①
九条城は漆黒に金色の縁取りをした巨大和風建築であった。政務を取り仕切る広大な平屋建ての棟に加えて、軍事要塞としての天守閣が旧都の外に向かって威圧するように建てられている。城主一族が暮らす居住棟も隣接して建てられていた。
ガイウス一行は政務棟の板張りの広間に通された。絵画や掛け軸、生け花で飾られた豪華な部屋で、会議が出来るように長机と椅子が置かれていた。
しばらく待たされた後、先ほどの鬼娘が副長を連れて正装で現れた。基本は巫女装束らしく豪華な紅白の衣装を纏っているが、頭には包帯をこれ見よがしにまいていた。真っ白な白衣の胸には真っ赤な朱雀の文様が染め上げられている。
「先ほどは大変失礼を致しました。九条城城主 朱雀瑞鬼でございます。ようこそいらっしゃいました。」みるからにふくれっ面で歓迎の挨拶を述べる瑞鬼にルキウスは吹き出しそうになってしまった。
「色々な意味でご歓迎の儀、有難うございます。当方はファーレンハイト国より特使として参りました、ガイウス・アウレリウス・ファーレンハイト16世です。こちらはお見知りおきと思いますが、弟のルキウス・アウレリウス・ハイランド、特使親衛隊長フェンラント、外交副大臣ロートレックになります。」ガイウスがクソ真面目に感謝の意とメンバー紹介を述べた。
「魔界制圧と鬼神討伐のご大役を務められ誠にご立派な所業と存じます。わが国の領民も魔物からの恐怖から解放されて大変喜んでおり、感謝しております。」
「有難うございます。」真面目くさった態度でガイウスも礼を返した。
「さて、今回の髑髏杯ですが、鎮守封印を解いた上で輸送用の神輿に奉遷する必要があります。」まじめな表情に戻ると瑞鬼が本題に入った。
「そこまで強力な呪力を持っているのですか?」とガイウス。
「髑髏杯は、われらが先祖の領主の命を奪ってその位を簒奪しようとした元治経義を、当時の領主世継ぎの元治朝頼が討った際に、その膨大な呪力を封じるために頭蓋骨を切断して作らせたものとされています。」真剣な面持ちで瑞鬼が説明した。
「そのため、元治朝頼の血を引く天鬼一族でないと扱うことが難しいのです。」
「では、髑髏杯を一緒にセルシウス聖撰国まで運んでいただける方はご親族ということですね。」ガイウスは何となく嫌な予感がしつつ尋ねた。
「天鬼国領主より、鬼神神道後継者のこの天鬼瑞鬼が髑髏杯護衛の任務を仰せつかっています。貴公に随伴して皇都セレスブルクまでご一緒させて戴きます。」
満面の笑みで天鬼がそう宣言した。
「お、おお、それはありがたい。城主殿が総責任者とは心強い限りです。」かなり困惑しながらも作り笑いでごまかしながらガイウスは答えた。
「いや、楽しい道中になりそうですね。そろそろ飽きがきているところだったので、ありがたいなぁ。」ルキウスが茶々を入れた。
「あんまり浮かれると危険だぞ。遊びに行くんじゃないのだからな。」
「いやいや、私も毎日の事務に飽いていたところなんで。腕試しの旅、いや、将来の国の指導者の一員として世界を見聞するのもいいかなと思って。」と瑞鬼。
「いやいやいや、だから遊びに行くんじゃないって言ってるじゃ・・・、ゴホン、城主殿もあまり軽々しく考えておられると大変ですぞ。」とガイウスが慌てて指摘した。
「もちろん、危険は承知です。ですから、貴公の戦力を試させてもらったんじゃないですかぁ。ぜひご協力させてくださいよぉ。」瑞鬼の話し方がギャルっぽくなってきた。
「まぁ、城主殿の腕前は先ほどの立ち合いで十分見せてもらったので、安心はできますが…。」とガイウスは渋々認めた。
「じゃ、決まりね。解呪の儀式は明後日の正午になります。即日出立となりますので、今日明日は休息ください。」瑞鬼は満面の笑みでそう会談を終えた。
翌日、旧都は祭りの賑わいに包まれていた。城下目貫通りには屋台が立ち並び、朝から盆踊りや笛太鼓の演奏行進、神輿や山車の行列等のあらゆる見世物が演じられていた。収穫祭の祭日なのである。
「一度近くで見てみたかったのよね。」町娘にしては高級で派手な帯と羽織りを纏い、薄い覆面で眼だけを出している瑞鬼がとなりの人物に話しかけた。角は頭巾で隠している。
「さすがに旧都の収穫祭だね。スケールが大きくて賑わってるね。」これまた高級感が隠し切れない若者向けの洒落たスーツに異国風のマント、マスクで目元を隠したルキウスが答えた。どう見ても一般人ではないことがバレバレの二人であったが、祭りの縁日の見物客は知ってか知らずか適度に放置していた。
「お兄様もくればよかったのに。」瑞鬼が聞いた。
「ハイト卿・・・、ゴホン、兄上は明日の準備が忙しいと言ってるからね。元々あんまり人混みとかは好きじゃない人なんだ。」とルキウス。
「ご兄弟で仲がいいのね。羨ましいわ。」
「基本学校までは一緒に暮らしていたからね。良く遊んでもらったよ。武術はまるっきりだめだけど、魔法では一度も勝てたことがないんだ。」
「私なんか兄弟はいるけど、それぞれの領地に住んでいるから、滅多に会わないの。お母様も別々だしね。」と瑞鬼。
「だからこんな風にお祭りに一緒に行ける人がいなくて・・・。明日は儀式の日だし、終わり次第出発しないといけないから、今日は十分楽しみましょ。」