終章:封魔神器の行方(3)
次の日、教皇応接室には天鬼国代表として朱雀瑞鬼が招かれた。彼女が一緒に招待されたルキウスと共に部屋へ入ると、そこには教皇カール9世だけでなく、ガイウスとセシリアも待ち構えていた。
「天鬼国髑髏杯奉遷祭主、朱雀瑞鬼様、この度は一方ならぬご協力いただき感謝します。」
教皇は慇懃に礼を述べた。
「貴国より貸与戴いた髑髏杯は、弑逆鬼神を滅ぼすために利用され、役割を終えて消滅してしまいました。代わりに、鬼神が所持していたこの刀を貴国へお渡したいと思います。」
教皇がそう言うと、侍従が天叢雲刀をソファのテーブルに置いた。
「これは、我が国の失われた宝刀、天叢雲刀ではないですか!!。」瑞鬼は驚いて目を見張った。
「この刀を依り代として、弑逆鬼神は魔力を蓄積し、強大化していたようです。強力な呪力を持つこの刀を扱えるのは貴殿の一族しかないと聞きますし、もともと貴国の宝刀だったもの。正当な持ち主へお返ししたいと思います。」教皇は言った。
「我が国では500年以上前に失われていて、存在さえ危ぶまれていたものです。まさか弑逆鬼神が持っていたとは。ありがたく引き取らせて戴きます。」瑞鬼は答えた。
伝説の国宝を前にして珍しく感動を隠せない瑞鬼に、ガイウスは今際の際に弑逆鬼神が語った経緯を説明した。
「経義は領主の座の権力争いに敗れ、弑逆者の汚名を着せられて一族もろとも皆殺しにして滅ぼされたことを恨んで、弑逆鬼神になったと語っていました。真実はどうあれ、彼も戦乱の世の犠牲者だったのでしょう。」
ガイウスは語った。
「経義は、ハイト卿を守り、彼の攻撃を妨害した私を、一切攻撃しませんでした。戦いに慣れていない私を標的にすれば、ハイト卿は苦境に陥ったでしょう。世界に対する甚大な恨みはあれど、根は家族思いの人だったのではないでしょうか。」セシリアは鬼神をそう語った。
「元治経義は我が領主一族に仇成した逆賊と聞かされてきました。そんな経緯があったとは…。」
瑞鬼は感極まって、すすり泣きを始めた。
「世界の平和という条件が成立したため、闇刻盾をファーレンハイト封魔国へ引き渡し、我が国も聖煌剣を受領して護国の礎とします。これで、すべての神器があるべきところへ戻ることになりましょう。素晴らしきことです。」教皇は言った。
「凱旋式の挙行は1週間後になります。平和の再来を神に感謝し、盛大に祝おうではありませんか。」
皆は教皇の言葉に拍手で賛意を示したのであった。
凱旋式は二日間にわたって壮麗、かつ盛大に実施された。セルシウス聖撰国は二日間祝日となり、各地で戦勝のイベント、宴が繰り広げられた。
初日は開式宣言の後に祝勝パレードがあり、聖煌剣、闇刻盾、天叢雲刀が見物客の前に披露された。それに続いて、教皇等のセルシウス政府要人が通過し、鬼神討伐の立役者であるガイウスとセシリアの馬車が大歓声の中で続いた。その後には、魔物撃退に功績のあった護国の将官達と共に、ルキウスや瑞鬼らの車列が続いて行った。パレードが到着した国立競技場では、聖煌剣、闇刻盾、天叢雲刀が展示され、参加者は遠巻きながらそれら封魔神器を見ることができた。その間、競技場に設けられた舞台上では弑逆鬼神元治経義との戦いの経緯が物語られ、各戦場における戦果が発表された。夕方からは関係者多数を招待した、大晩餐会が開かれ大いに盛り上がることとなった。一般市民も競技場前の広場に設置された会場で共に戦勝を祝した。
二日目には戦いにおける功労者の表彰式があり、多くの人々が表彰の栄誉を受けた。セルシウス聖撰国神官聖魔法軍団の要員だけでなく、事務方の要員や、魔物撃退戦に参加した、ルキウス、ローバック傘下のファーレンハイト封魔国特使親衛隊や聖煌剣警護部隊、瑞鬼以下の天鬼国髑髏杯護衛部隊も対象となった。
表彰式の最後に教皇カール9世は、セシリアに聖魔法最高魔術士を示す「大賢者」と最高位神官位である「大聖女」の称号を授与し、ローゼンハイム郡の正式な領有権を与えた。さらに、ファーレンハイト封魔国とセルシウス聖撰国の連携強化策として、ガイウスとセシリアの婚約を発表した。それぞれ、大きな賛同の歓声で迎えられた。
「最後に、ガイウス・アウレリウス・ファーレンハイト16世様に邪神を打ち破った英雄としての称号『魔王アスタロト』を献上したいと思います。若き英雄、魔王アスタロト様に感謝の拍手を送ろうではありませんか。」
教皇のこの言葉に、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれたのだった。
一週間後、ローゼンベルクへ向かう馬車の中にガイウスとセシリアの姿があった。凱旋式の後始末が終わり、政務や外交の仕事が一段落してからの出発となったので、時間がかかってしまったのだ。二人はファーレンハイト封魔国の父国王、議会の婚約の正式決定を待ってから、ファーレンハイトへ向けて出発するつもりであった。セシリアがローゼンベルクの地を離れるにあたって、やっておくべきことはたくさんあった。きっと忙しい日々が待っているであろう。二人は肩を寄せ合って未来に思いを馳せていた。
そのセシリアの胸元には闇刻盾のキーであるペンダントが忍ばせてあり、ガイウスの左腕には聖煌剣のキーである腕輪が隠されていた。そして、魔法杖に変形された聖煌剣エクスカリバーが闇刻盾の下に隠れるように安置されて、一緒にローゼンハイムにむけた荷馬車に揺られているのであった。
=終=
 




