第4章:結アウレリウス戦役 (3) 鬼神との対峙①
翌朝、準備を整えた二人は神殿の門の前に立った。神殿は外壁で囲われていたが、門はアーチのみで扉はなく、建物の正面まで見通せた。
二人が慎重に進んでいくと、神殿の前庭に入った。中央に石造りの噴水があり、龍と巨人が支える水盤から真っ黒い流れが噴水の池に流れ込んでいた。それは、水ではなく闇魔法エネルギーの流れであった。
二人が噴水に近づいていくと、正面に黒いモヤがかかり、だんだんとそれが濃くなって、人型を形作った。
「お前は、元治経義!!。現れたな。」ガイウスは言った。
「ひさしぶりだな、小僧。ずいぶん立派になったものだ、供一人で余に立ち向かうとはな。」
すっかり姿を現した鬼神が言った。兜に鎖帷子、具足を装備した煌びやかな武者姿をしているが、顔は骸骨であった。右手に抜身の大刀を持っている。
「いかにも、余は元治経義。生きとし生ける者のすべての怨念の集まりであり、この世に仇成す弑逆鬼神なり。余の進む道を塞ぐものは容赦なく打ち砕かれ、世界は破滅へ向かうのだ。」経義は言った。
「私は封魔族ファーレンハイト封魔国王太子ガイウス・アウレリウス・ファーレンハイト16世。ファーレンハイト闇刻魔法軍団長主席魔法術士、兼、闇刻魔法大賢者。あなたに恨みはないが、世界に害する魔物を討伐するのが我が種族の使命。大人の事情で一騎打ちとはなったが、前回渡し損ねた引導を今お渡しする。覚悟されよ。」ガイウスは返した。
「前回は聖煌剣と多勢に後れを取ったが、今回はそうはいかん。いくぞ!!。」
経義は大刀を振りかざすと、ガイウスに向かって突進してきた。
ガイウスは聖煌剣を背中から抜き放ち、打ち下ろされた大刀をがっちりと受け止めた。経義を突き放しすと、続く動作で横殴りに切りつけた。経義は、体をかわして大剣の攻撃を避けると、再びガイウスに打ち込みをかけてくる。経義が纏う闇魔法防御バリアと、セシリアがガイウスを防護する様にかけた聖魔法防御バリアが、二人が接近して打ち合う度にバチバチと火花を散らして弾きあっている。セシリアは二人の戦闘が始まる直前に後退し、安全な距離から聖護魔法を詠唱してガイウスを援護している。
ガイウスの聖煌剣が何度か経義の体を捉えて切り裂いた。しかし、そのたびごとに経義の体はくっついて再生し、元通りになるのであった。鬼神の体には実態がなく、闇魔法エネルギーが集まって、自在に形成されている。今まで戦って来た魔物と基本的には同じ構造であるが、闇魔法エネルギーの密度が桁違いに高いため、すぐ再生してしまうのだった。ガイウスが踏み込んで経義に攻撃を加えると防御の隙ができるので、経義はその隙をついてガイウスを攻撃するのだが、ガイウス自身の闇魔法防御に加えてセシリアの聖魔法防御がガイウスの体を強力に守っており、かすり傷を負わせることさえできなかった。バリアが大刀の刃を弾くか滑らせてしまうのだった。
十合程度打ち合うと、経義はするすると後退してガイウスとの距離を開けた。闇魔法噴水を背にして構えを解くと、大刀を鞘にしまって両手で縦に持った。
「魔法体であることを活かした、肉を切らせて骨を断つ戦法とは考えたな。いきなりの肉弾戦で意表を突かれたよ。」ガイウスは体制を立て直して言った。
「ふん、魔法使いのお前がそこまで剣術ができるとはな。この刀でなますにしてやろうと思ったのだが。まあ良い。所詮は魔力で勝負をつけねばならぬのは魔界での道理。見ろ、弑逆鬼神の力を!!」
経義は叫んだ。
「鬼霊流闇魔法(Devil Class Destruction)、詠唱(Spell)、大海嘯(Tsunami Flood)!!」
経義が挙げた大刀から闇魔法流があふれ出し、壁のような大波となってガイウスに打ち付けて来た。
「高位闇魔法(High Class Destruction)、詠唱(Spell)、愚者の光(Light of The Fool)!!」
「高位聖魔法(High Class Holy)、詠唱(Spell)、賢者の光(Light of The Wise)!!」
魔法攻撃が集中するガイウスに二人の防御魔法が作用して、押し寄せる闇魔法流がバリバリと裂けていく。
「高位闇魔法(High Class Destruction)、変形(Change)、聖煌魔法杖(Caduceus Ragnarok)!!」
ガイウスは聖煌剣をラグナロク魔法杖に変化させて右手に持つと、左手にユグドラシル魔法杖を構えた。
「高位闇魔法(High Class Destruction)、重複詠唱(Spell Double)、超新星爆発(Super Nova)!!」
鬼神の闇魔法流攻撃をバリアで防いだ後、二本の魔法杖をクロスさせると、ガイウスは反撃の闇魔法攻撃を放った。すさまじい大きさの暗黒の光球がクロスした魔法杖の前に発生し、急速に飛行して経義に激突した。経義はバリアを張り光球の衝撃を防いだが、衝突した瞬間のエネルギー衝撃がすさまじく、バリアは破壊され、さらにその勢いで経義の体の2,3か所が吹き飛ばされた。
「やった。!!」セシリアが喜びの声を上げた。