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第3章:セルシウス教皇の策謀 (6) 計画の破綻②

「封魔神器、髑髏杯を操る同志よ、配置につき給え。」教皇は指示した。

 ガイウスは聖煌剣のそばの祭壇に上がった。左腕にはキーである腕輪を着け、右手にはユグドラシル魔法杖が握られている。髑髏杯のそばの祭壇には大幣を持った瑞鬼が上がっている。と、その時、闇刻盾側の陣営からどよめきが起こった。


「セシリア!?」ガイウスは口から出そうになった言葉を飲み込んだ。

 人々のざわめきの中から現れたセシリアは、闇刻盾のそばの祭壇に上った。その表情は緊張のため少し強張っているようだった。胸にはアポロン魔法杖を抱き、腰には魔法瓶アクエリアスを装備している。

「セシリー!!。大丈夫?」

 驚いた瑞鬼が声をかけると、セシリアは瑞鬼の方を向いて軽くうなずくと、ガイウスの方をちらりと見てから総司令官である教皇の方を向いた。


 教皇は三人を見渡し、彼らを支援するために取り囲んでいる軍団を見回して準備が整っていることを確認した。その時、正午を告げる鐘の音が礼拝堂の塔から都中に響き渡った。


「諸君、時は来た!!。攻撃開始!!。」

 教皇の号令と共にその場の魔法軍団が一斉に魔法の詠唱を始めた。

 同時に、礼拝堂の正面のバルコニーにいた伝令兵が国旗を掲げ、それを合図に前庭にいた魔法軍団が一斉に詠唱を始めた。

 魔法の詠唱の大合唱が始まるとすぐに、聖闇混ざり合った膨大な量の魔法力が二つの封魔神器に集まって来ているのが分かった。瑞鬼も大幣を振って祈りを捧げている。


「すごい魔法力量だ。これなら鬼神を倒せるはずだ。」ローバックはつぶやいた。

「何という闇刻魔法力量だ。全聖煌魔法軍団が放つ聖煌魔法力量に負けないどころか、しのぐ勢いの闇刻魔法力量が兄上から発生している。」

 ルキウスは詠唱しながら感嘆の声を上げた。

「これならいける!!。」


 大音量の詠唱が続き数分が経つと、その膨大な魔法量を浴びた聖煌剣、闇刻盾が小刻みな振動を始め、ついには空中に浮かび上がって交差すると、聖煌剣の先端が明るく輝きだした。詠唱が最高潮に達し、あふれ出して来た魔法力が細かな稲妻となって聖煌剣と闇刻盾を覆い始めた瞬間、教皇は叫んだ。


「最高位聖魔法(Extreme Class Holy)、砲撃(Shooting)、最後の審判(The Last Judgement)!!」


 その瞬間、明るい光球が聖煌剣と闇刻盾を覆うと、髑髏杯が浮かび上がりスゥッと中に吸い込まれた。そして聖煌剣から雷鳴と共に魔法力の流れがほとばしり、ガイウスの左腕に巻き付いた。

「兄上!!。」

「次代様!!。」

 魔法力の流れは、長く伸びたばねが勢いよく縮む様にガイウスの体を捕まえて光球の中へ引きこんでしまった。身構えたり、抵抗する間もない程の一瞬の出来事だった。


「セシリー!!」

「皇女様!!」

 反対側で起こった悲鳴をかき消すほどの雷鳴がして、闇刻盾から同じように魔法流がほとばしり、セシリアの胸に巻き付いた。魔法流が彼女を引き込もうとした瞬間、そばに控えていたマルクス・マクシミリアンが巨大な盾で魔法流を防ぎ、その隙にガートルード主席護衛官がキーを取ろうと手をかけた。しかし次の瞬間、勢いを増した魔法流が二人をふっ飛ばし、一瞬のうちにセシリアを光球の中へ引きこんでしまった。

 二人を飲み込んだ光球は空中であっという間に小さくなり、ついには消滅してしまった。


 あまりの出来事に、一瞬の間静まり返った礼拝堂であったが、ざわめきがあちこちで起こり始めた。ルキウスは持ち場を離れ、教皇に詰め寄った。

「兄上は、どこへ行ったのですか?無事なんですか。聖煌剣は?。闇刻盾は?。攻撃は成功したんでしょうね?。どうなんです!!」

「セシリーは無事なの!?」瑞鬼も駆け寄って来た。


 教皇は、ローバック隊長や副長に、引き離されている二人を無言で見やっていたが、教皇侍従の一人が足早にやってきて耳打ちすると、動揺している軍団に向かって語りかけた。

「諸君、静粛に!!。結論から言うと、この攻撃は半分失敗し、半分成功した。」

 礼拝堂は静まり返った。


「我々は、弑逆鬼神元治経義に遠隔で魔法攻撃を仕掛けた。しかし、複雑な術式のうちにミスが入り込んでいたらしく、聖煌剣、闇刻盾、髑髏杯自体をタンタロスに送りこんでしまったと思われる。そして、その使い手であるファーレンハイト卿とローゼンブルク公女が巻き込まれてしまった。我々の軍は貴重な神器を手放してしまった。大変申し訳ない。」教皇は続けた。

「しかし!!。諸君も見た通り、先程の攻撃で膨大な量の闇刻魔法量を提供し、圧倒的な魔法力を持ったファーレンハイト卿であれば、聖煌剣、闇刻盾、髑髏杯の力を得て、必ずや、鬼神を打ち倒してくれるはずだ。かの勇者を信じ、神のご加護を祈ろうではないか!!。」


 説明を聞いた軍団はザワザワとざわめいていたが、やがてどこからともなく祈りの言葉が流れ始め、礼拝堂内部を満たし始めた。現実問題として、聖煌剣、闇刻盾、髑髏杯が存在しない今、できることは祈ることぐらいであったのだった。


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