第3章:セルシウス教皇の策謀 (4) 闇刻盾の開封①
翌朝、ガートルード主席秘書官が総監執務室に出仕するとセシリアはおらず、待機していた侍女から執務開始が2時間ほど遅れるとの連絡を受けた。昨日の活躍の疲れが出たため少し休んでから出勤するとのことだった。体が丈夫でないセシリアが執務に遅れることは度々あることだったので、首席秘書官は一旦執務室を退去し、自室で様々な事務作業を片付けた後、頃合いを見て総監室へ戻った。
「おはようございます、皇女様。」ガートルードは挨拶した。
「おはよう、ガートルード。昨日はお疲れ様でした。」セシリアは返答した。
「お体の方は大丈夫ですか?」ガートルードは心配そうに尋ねた。
「ありがとう。おかげ様でゆっくり休めたので回復したわ。古代城の冒険と晩餐会の疲れが重なったみたいね。」セシリアは答えた。
「本日は、闇刻盾の開封の儀と出発が重なりますが、大丈夫でしょうか?。体調によっては延期も可能と思いますが?。」ガートルードは重ねて聞いた。
「大丈夫。晩餐会のお偉いさんの対応には辟易したけど、朱雀姫ともお話しできて楽しかったし、古代城からは貴重な魔法具を手に入れることができたから、すごく充実した一日だったわ。」
セシリアは嬉しそうに話した。その笑顔を見て、ガートルードは安堵した。
「それはなによりです。ですが、健康が第一ですので、ご無理はなさらないように。」
「わかっているわ。ところで、昨日見つけた魔法具アクエリアスはどうしたかしら?」
「そちらについては、総合魔法治療院の研究センターへ回しておきました。貴重な魔法具の可能性が高いので、高位神官と護衛を付けています。彼は国立古文書館で古代聖魔法史の関連文献を当たってみると言っていました。これだけの品はめったにないので、必ず歴史に現れているはずだと言っていました。追って調査結果が送られてくると思います。」
「ありがとう。相変わらず仕事が早くて助かるわ。」
そのような会話や仕事の打ち合わせをしていると、しばらくして着替えを持った侍女が部屋に入って来た。
「皇女様、お仕度の時間です。」侍女がかしこまった様子で告げた。
「あら、もうこんな時間。準備をしないと。」セシリアは言った。
「ガートルード、シャルロッテ、申し訳ないけれど、ちょっと席を外してもらえないかしら。終わったら呼び鈴をならすから。」セシリアは二人に告げた。
二人が部屋から出てゆくのを確認してから、扉に鍵をかけ、窓のカーテンを閉めて中の様子がわからないようにしてから、セシリアは執務デスクの引き出しの鍵を開け、中からずっしりとした鍵を取り出した。その鍵を持って部屋の片隅の戸棚に行き、扉を開いて中の大型の金庫の鍵穴へ差し込んだ。何回か鍵を回すとカチリと錠が開いた音がした。ノブをひねってから重い金庫の扉を開けると、様々な書類や貴金属、印鑑、魔法具が収められた棚の中段から、平たい丈夫な黒い木箱を取り出した。
執務デスクにその木箱を置き、小さな鍵で錠を開け、蓋を開けると、中には黒光りするメダルが収められていた。手のひら程度の大きさの円形のメダルの表面には、逆十字に鷲と獅子の模様が描かれていた。
セシリアがメダルをそっと持ち上げると、つけられた金の鎖が垂れさがった。身につけるための鎖のようだった。メダルを裏返してみるとそちら側は白く輝いており、正十字に剣と斧、本と盾が描かれていた。一瞬息をのんだセシリアだが、鎖を首にかけてメダルをペンダントのように身に着けた。少し迷って、黒い面を表に、白い面を内側にしてメダルを法衣の中の胸元に入れた。