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第1章:弑逆鬼神の髑髏杯 (1) はまみなと港上陸

漆黒の軍船が天鬼国首都のはまみなと港へゆっくりと入港した。曳航船に引かれて接岸するその姿はファーレンハイト海軍旗艦にふさわしくスマートで無駄のない船型を描いており、快晴の青い空に美しく映えていた。船から係留の綱が岸壁に渡され、しっかりと固定されると、船腹が開き漆黒の瀟洒な馬車が陸揚げされた。続いて大型の荷馬車が船体から降ろされると、すぐさま警護の兵士が取り囲み油断なく周囲を警戒する様子が見られた。同時に、船体から下げられたタラップから、正装したガイウスとルキウスが天鬼国へ降り立った。二人にはローバックを筆頭とした特使親衛隊のメンバーがぴったりと張り付き、野次馬や港湾労働者の好奇の目から遮断していた。上陸した二人は天鬼国領主の使者から挨拶を受けると、早速馬車へ乗り込み首都訪問における宿泊所である迎賓館へ向けて出発した。後に大型の荷馬車と警護隊の乗った馬車が続いている。


「やはり何か、妙な感じがしますね。」ルキウスが向かいに座ったガイウスに話しかけた。

「そうだね、その話は船内で何度もしたけどね。」馬車は密閉されていて声が外の御者に聞こえないことを確かめてから、ガイウスが答えた。

「上陸してからも極秘とまではいかないけれど、かなり情報統制がされているようです。我々をあまり歓迎していないようだなあ。」ルキウスは言った。

「まあ、運んでいるモノがモノだけに慎重にせざるを得ないのだろう。わからなくもないさ。」

「元々からして、兄上と私の2名も来る必要があったのでしょうか。国元ががら空きになってしまう。おまけにローバックまでいないし、父上はあの状態だから、心配にもなりますよ。」

「確かにそうだが、戦役も終わり騎士団も帰国している。変な動きが出る前に機先を制しておきたいのではないかな、父上は。」ガイウスは答えた。

「久しぶりに兄上とゆっくり過ごせて嬉しいのですが、どうもね。」と納得がいかない顔をしてルキウスが続けた。

「何かかなり厄介なことが起こるんじゃないかと思うんですよ。」

「それはそうだね。ずっと嫌な感じはしているよ。自分の身に大きな転機が来るような事件が起こるんじゃないか、ってね。」とガイウスが答えた。

「とにかく、まだ何も分かっていないから、敷かれたレールに乗って走るしかないだろうね。」

「そうですね。まあ、天鬼国にはおいしい食べ物が多いと聞いていますから、まずは楽しんでからですね。」ルキウスはあきらめたように言った。


迎賓館で準備をすまし、二人は領主との会談を行うため領主公館を訪問した。

「簡単な歓迎で申し訳ありません。事が事だけに大事にしたくないのですよ。ご察しください。」挨拶を済ませると天鬼国領主の朱雀王は語りかけた。

「いえいえ、ご丁寧なご対応痛み入ります。」ガイウスは返答した。

「貴国とは海を隔てているととはいえ隣国。さらに魔界制圧を国是とする世界を救う随一の強国。これからも末永く友好関係を維持していきたいと願っておるのです。」領主は続けた。

「鬼神退治の感謝の意から、この度の封魔神器の往復の通過と、わが国の至宝髑髏杯の貸与につきましては、わが国が保証致しましょう。必ずや、速やかな神器交換が実現されることになると信じております。」

「ご支援有難くお受けしたいと考えます。」とガイウス。

「お聞き及びと思いますが、髑髏杯は強力な呪力を持つためここ新都にはおけず、旧都の鎮守城に封印しております。貴公には旧都で杯を受け取り、そのままセルシウス聖撰国へ向かって戴くことになっています。」

「封印されているとなると、我々には扱えないということですね。」

「そういうことですので、呪法の専門家と特別な護衛の者を付け、セルシウスまで同行させます。」

「それは、有難く存じます。」

「以上で、重要事項は終わりですな。」領主は相好を崩した。

「明日には出発されるとのことなので、今晩はここで晩餐会を催します。取れたての海鮮を準備しましたので、ゆっくりと楽しんで行って下さい。警護隊の皆さんもご一緒にどうぞ。」領主の言葉を聞いて警護隊からは感謝のどよめきが起こった。

「お気遣い戴き有難うございます。では、お言葉に甘えて出席させて戴きたいと思います。」ガイウスは感謝の言葉を述べた。


その夜、迎賓館の敷地の一角にしつらえられた臨時の車庫に音もなく入り込む黒装束の5,6人の影があった。目当ての荷馬車に近づくと頭目らしい影が中に入ると同時に、他の影は素早く静粛に扉を開け、荷物を運びだす準備を行った。頭目は目的の木箱を確かめると、部下を呼び運び出す準備を始めた。同時に他の馬車を探っていた別の影が頭目近づき、何かを報告した。頭目がうなずいたその瞬間、報告を行った影が崩れ落ちると共に、車庫の入り口から音もなく天鬼国の特殊警察隊が入り込み、荷馬車を取り囲んだ。その中にはファーレンハイト聖煌剣警護隊の姿もあった。

「うっ、貴様はローバック。なぜここに。」そうつぶやいた頭目は息を飲み込んだ。

「特殊任務であるならば、滅多なことを口にするものではないな。それでは、私がここにいるべきでないことを知っていることを白状するようなものだ。」

「警護の状況を把握するのは、基本中の基本だ。」影の頭目はつぶやいた。

「私はこのように狼頭のため、非常に目につく。逆に成りすましやすいともいえるのだ。晩餐会会場にいる私は作り物の狼頭を被った身代わりと言うことさ。さあ、種明かしの代償として黒幕を吐いてもらおうか。」

影の頭目はそれには答えずに、目にもとまらぬ早業で倒れた影を刀で突き刺すと、返す刀で自分の胸を突いた。

倒れた影たちを片付けさせながら、天鬼国特殊警察隊の隊長はローバックに話しかけた。

「ご協力ありがとうございました。生け捕りにできたとしても奴らは口を割ることはなかったでしょうが、証拠が必ずや見つかるでしょう。首謀者の見当はついていますが、確証がないので、このように一つ一つ証拠を積み上げることしかできないのです。馬車を汚してしまったことは陳謝します。朝までにはなかったことにできると思います。」

ローバックは黙って頭を下げると、部下に神器の警護を指示し、宿舎へ向かった。

交代制の部下は休むことができるが、隊長は休むわけにはいかない。出発までに可能な限り体を休めておく必要があるのだ。あの者たちに命に代えてまで守るべきものがあったのだろうか?自白のための拷問に合わなかっただけましな死だったのだろうか?

ローバックは陰鬱な考えを振り払い、これからのことにのみ集中することにして眠りについた。


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