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第3章:セルシウス教皇の策謀 (3) 二人きりの探検隊②

 二人の後方の扉が勢いよく開かれ、武装が触れ合うガチャガチャという音と、石畳を駆けてくる人々の足音が部屋全体に響き渡った。

「次代様、ご無事で?。」

「皇女様、ご無事ですか?。」

 ローバック隊長と、ガートルード主席秘書官の声が同時に響いた。

「扉の中から激しい戦闘の物音が聞こえて来たのでヤキモキしていたのですよ。」とローバック。

「物音が止んだと思ったら急に扉が開いたので、突入した次第です。」とガートルード。

「護衛の石像を倒し、台座の紋章に触れたので、この部屋の封印が解けたようだ。」ガイウスは答えた。


「紋章はファーレンハイト国章に似ているので、闇刻魔法にゆかりのある場所のようですね、ここは。ほら、あそこにも飾られているわ。」

 セシリアが正面の壁の高いところを指さした。今まで薄暗くて気付かなかったが、部屋は天井の高い大広間になっており、台座の向こうの壁には広い階段があり、上った先には大きな扉があり、両脇の回廊へつながるとみられる廊下がある。その扉の上に台座と同じ紋章が刻まれていた。円形の紋章は中に逆十字が描かれ、縦棒の左に鷲、右に獅子の立像が彫られている。そこまではファーレンハイト国章と同じだが、さらに円の上部で2頭の龍が向き合っていて円の両側の淵に龍の長い尾が巻き付いている。逆十字の下には岩山や海を示すと思しき文様が描かれている。


「ファーレンハイト封魔国の封魔族は天使族から分かれた種族とされているから、我々のご先祖様が建立した城に違いない。闇魔法発祥の証拠が残っているかもしれない。もう少し調べてみよう。」

 宮殿警備隊が注意深く石像の残骸を片付けている横で、ガイウス達は大広間の中を探索した。両脇には倉庫や物置部屋、奥には大食堂や厨房につながっているアーチがあり、それぞれの部屋の様子をみることができた。ただし、結界が張られているようで、通り抜けることはできなかった。壁のところどころに武器や甲冑、壺や彫像などの美術品が飾られていた。それらを簡単にチェックした後、彼らは正面の広い階段を上り、紋章が彫られた立派な扉の所へ到着した。


「古代ルーン文字で「謁見の間」と書かれている。」扉の上の文字を指さしてガイウスが言った。

「今度はもっと強力な護衛が現れそうだ。」とガイウス。

「まだ、タイムリミットまで1時間ありますわ。」とセシリア。

「よし、行こう、セシリア。準備はいいかい。」

「ええ。大丈夫よ。ガイウス。」

 ガイウスが扉を押すと、大きな扉が内側に開いた。

「また我々には中が見えません。重々お気をつけて、すぐお戻りください。」

 ガートルード主席秘書官が祈るように声をかけた。

「大丈夫、すぐに戻るから。」セシリアが答えた。


 部屋に入ると、そこもかなり広い空間が広がっていた。二人が入ると壁の松明に火が着いたが相変わらず薄暗いままだった。正面に一段高くなった場所があり、玉座らしきものが設置されていた。両側の壁には甲冑のようなものが整然と並べられている。


 二人は死角ができないように寄り添って、玉座に続いている赤い絨毯に沿って慎重に進んだ。ちょうど玉座までの中間地点に来た瞬間、二人を攻撃が襲った。

「高位闇魔法(High Class Destruction)、詠唱(Spell)、愚者の光(Light of The Fool)!!」

「高位聖魔法(High Class Holy)、詠唱(Spell)、賢者の光(Light of The Wise)!!」


 二人は同時に高位の防護魔法を詠唱した。防御バリアが二人を包んだ瞬間、激しい魔法攻撃がバリアに反射されて光線が部屋中に散乱した。同時に高速で移動してきた甲冑が振り下ろした剣と大斧を激しく跳ね返した。

 二人は間髪を入れず、さらなる魔法詠唱を行った。

「高位闇魔法(High Class Destruction)、詠唱(Spell)、激甚震災M10(EarthQuake M10)!!」

「高位聖魔法(High Class Holy)、詠唱(Spell)、聖なる(いかずち)(Holy Lightning)!!」


 二人の高位魔法術士が放った強力な攻撃魔法により、武器で襲い掛かって来た2体の甲冑型魔法体は高速の衝撃波で体がちぎれ、壁に叩きつけられてバラバラに瓦解した。部屋の隅から魔法攻撃をして来た2体の甲冑型魔法体は激しい稲妻に打たれ、瞬時に黒焦げの残骸となってその場に崩れ落ちた。

「みごとな攻撃でした、セシリア。」ガイウスは率直に称賛した。

「攻撃魔法は使い慣れていないので、やりすぎちゃったかしら?」セシリアは照れたように言った。

「いや、素晴らしかったよ。初めてならなおさらだね。このクラスの魔法体は仕留め損ねると厄介なので、一撃で撃破できて助かったよ。」

 二人はさらなる攻撃を警戒して身構えていたが、それ以上の攻撃は来なかった。この部屋の防御システムを突破することができたようだった。

 襲い掛かってきた甲冑型魔法体の残骸を確認してから、二人は慎重に部屋の正面に設置されている玉座の調査を行った。

「前の大広間でも、紋章に触れると防御システムが解除されたから、謁見の間の解除もできるはずだが・・・。」ガイウスはつぶやいた。

「ほら、あそこにまた紋章が。」セシリアが指さした。

 堂々とした玉座の背もたれの上部に、大広間と同じ紋章が刻まれていた。

「大いなる力は聖なる加護を受けてこの地に座す。」

 紋章に添えられた銘文にはそのように書かれていた。


 ガイウスは再度魔法杖で紋章に軽く触れた。するとまた、壁の松明の明るさが増し、部屋の前後でガチャリと大きな音が響き渡った。


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