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第3章:セルシウス教皇の策謀 (1) 皇女セシリア②

「それでは、こちらへ。」

 ひとしきり挨拶が終わると、セシリアは一行を会議場へ案内した。普段は礼拝堂として使われているようで、正面に聖母像が祭られている祭壇があり、脇の暗がりの一段低くなったところに聖歌隊のブースが設けられていた。説教台の手前には主催者のセシリア皇女のための会議席が設けられ、セシリアが着席すると両脇に付き添ってきた秘書官と老神官が着席した。その正面に招待客であるガイウスとルキウス、瑞鬼のための席が設置されており、その他の参加者は、礼拝者用の席に着席した。


「我々セルシウス聖撰国の国民、ローゼンハイムの市民はファーレンハイト使節団を皆様を歓迎します。あなた方が聖煌剣を返却にいらっしゃったということは、長かった魔界征伐が終わり、地上を魔物の脅威から遠ざけ、世界に平和がもたらされたということなのですから。民の皆がこの神の思し召しを喜んで享受するでありましょう。」

 セシリアは歌うような抑揚で語りかけた。


「事前にお伝えしている通り、聖煌剣と交換されるべき闇刻盾は当地ローゼンハイムに保管、安置されています。当国は聖魔法によって統べられる国であり、聖魔法の加護で成り立っている連邦国家の中心です。闇刻盾が自然と放つ強力な闇刻魔法力は我が国を保護する聖煌魔法を打ち消す能力があるため、その漏洩を防ぎ、安全を保つために特別な防護設備を構築し、15年の長い間守り続けてきたのです。」

 セシリアは流れるように語った。使節団のメンバーは魅入られたようにセシリアの言葉に聞き入り、その言葉に相槌をうったり、遮って発言しようとする者は誰一人としていなかった。


「わたくしは、セルシウス聖撰国教皇カール・ローゼンハイム・セルシウスの第三皇女として、故郷のローゼンハイム州都における辺境総監の任務とともに、闇刻盾の守護の役目を仰せつかっていました。よって、管理責任者として、闇刻盾の封印を解き、皇都セレスブルクへの輸送を行い、封魔神器の交換儀式に参列したいと思います。そのために、聖煌神官護衛部隊を組織しておりますので、聖煌剣輸送の任にあたる貴使節団と道中を共にし、協力し合って皇都を目指したいと思います。」

 どこからか、ハープを中心とした妙なる音楽が流れていた。いつからか、心を癒す聖歌隊のかすかな合唱の声が聞こえてきている。さらには、精神を落ち着かせる心地よいお香の香りが漂って来た。使節団のメンバーは長旅の疲れからか、意識が朦朧とし始めた。ルキウスは頭が垂れそうになるのを必死に抑えている。瑞鬼はほぼ完全に動きが止まっており、目は閉じられている。ローバック隊長は相変わらずの鉄面皮であるが、見開いたその目はどこか焦点を結んでいないように見えた。


「この地、ローゼンブルクは建国の古都でもあり、セルシウス国の古くからの重要な町でした。その理由はこの清浄で聖魔法の加護に包まれた湖にあります。古代より病気や怪我を治す不思議な治癒能力がある地として知られていたのですが、われらの先祖がこの地に聖煌魔法を称える聖堂を建立してからはその力が顕著となり、難病や戦で重症を負った者がその救済を感謝してこの地を聖地として崇めるようになったのです。そのため、この地を治める者はこの地方の国々を治める統治者となりました。もちろん、この聖煌魔法を使いこなすためには高度な魔法術士でなくてはならず、代々高名な聖煌魔法術士が指導者としてこの地を統べて来ています。その現在の指導者が我が父上である教皇カール9世となります。」

ルキウスの顎は完全に胸に埋もれてしまい、もはや身動きをする者は誰もいなくなってしまった。


「現在、政務を行う皇都はセレスブルクへ移されましたが、現在もローゼンブルクは治癒・治療の町として多くの病人を救済しています。聖堂から流れ出る聖癒水は治療院の導水回廊に直結されており、日々療養者の病気治療・怪我治癒の糧になっております。わたくしも治療院総監督責任者、最高位聖癒魔法術士として、病める人々の治療に当たっております。しかし、闇刻盾の交換式という重要な儀式においては、国の指導を担う一員として参加することに非常な名誉を感じており、封魔神器をしっかり護送するつもりでおります。つきましては、明後日に暗黒盾の開封の儀式を行い、直ちに輸送を開始したいと思います。使節団の方々もその日程にてご対応お願いいたします。」

 セシリアは語り終えて、動かなくなった使節団を少し満足げに軽く見まわした後、手を挙げて秘書官に指示を出そうとした。


 その瞬間、目を閉じていたガイウスが握りしめていた両手を開き両腕を広げると、突然目を見開き、両手を全力で打ち合わせた。

 【パーン、ガラガラ、ガッシャーン】

 そのとたん、礼拝堂に大量のガラスが砕け散るようなと大音量が響き渡ったような感覚が全員を襲い、使節団のメンバーは皆飛び上がるようにして目を覚ました。皆が事態を飲み込むより早く、ガイウスは拍手を始めた。たたき起こされた感覚の使節団メンバーは、眠ってしまったことにバツの悪さを感じながらも、つられて皆盛大な拍手を話者のセシリアに送った。


 ガイウスは拍手が一段落すると、少し青ざめていたが何事もなかったかのように返礼の言葉を述べた。

「歓迎のお言葉と、今後のご予定についてお話ありがとうございました。聖煌剣と闇刻盾の交換儀式に対するご理解・ご協力大変感謝いたします。大変申し訳ありませんが、長旅のせいか一部集中力を欠いたところがありますので、後程今後の予定を確認させて戴いて、進めさせて戴きたいと思います。」


 まだあどけなさが残る、国内随一と称される美しい相貌を少し赤らめながらセシリアは返答した。

「いいえ、こちらこそ長旅でお疲れのところ長話をしてしまい、申し訳ありませんでした。ゆっくり休息できる寝所を御用意しましたので、疲れを癒して下さい。」


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