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第3章:セルシウス教皇の策謀 (1) 皇女セシリア①

 ゲルクマイン鉱山帯から出現した魔物の残軍が掃討され、使節団が作戦から解放されるまで、さらに1週間ほどの時間がかかることとなった。聖煌剣の攻撃を逃れた魔物は散り散りに逃走し、数は少ないものの広範に探索する必要があり、時間がかかってしまったのであった。


「あの大男、ずっと付いて来るつもりなのかしら?」

昼食のために立ち寄った街道沿いの町の大きなレストランで、ジャガイモとスペアリブと格闘しながら、瑞鬼がルキウスに話しかけた。視線の先にはガイウスとテーブルを共にしているマルクス・マクシミリアンがいた。

「まあ、そらそうだろうね。騎士戦でセレスブルクまで聖煌剣を護衛するってフランツ伯が宣言したから、州都防衛・掃討作戦に残ることもできないからね。」

大きなカブにかぶりつきながらルキウスが答えた。

「なんだか、どんどん人が増えて大旅団になっちゃったわね。」

「聖煌剣の威力に魅せられてるということかな。賑やかで良いけど、面倒に巻き込まれないといいけど。」

「まあ、次の目的地はすぐなんでしょ。さっさと行っちゃいましょう。」


 皇都に向かう街道を進むと、やがて深い森林地帯が開けて山地を背にした風光明媚な湖畔の町に到着した。ローゼンハイム辺境の州都ローゼンブルクである。一行は立派な城門をくぐり、州都総監庁舎へ向かった。庁舎の敷地は湖畔に接しており、湖に接して建てられた聖堂を守るようにして庁舎である宮殿が建てられていた。庁舎の敷地は広く綺麗に整備されていたが、多くの建物が立ち並んでおり、大学のキャンパスのような雰囲気が漂っていた。すぐ近くには病院と思しき建物が建っており、医療施術士や看護術士が忙しく立ち働いたり、療養着姿の患者が庭園で休憩している姿が見られた。宮殿をはさんで反対側に州都事務を行う棟が並んでいた。


「皇女様、まもなくファーレンハイト特使団の方々が宮殿に到着されます。お仕度を。」

総監室にノックをして入って来た主席聖魔法秘書官がそう告げた。

「わかりました。迎賓装の準備を頼みます。会見場の準備は整っていますか?」目を通していた書類を瀟洒な事務机のトレイに返すと、近くに控えた侍女に指示を出し、秘書官に尋ねた。

「聖煌神官儀仗隊、聖煌神官音楽隊、待機中です。」秘書官は事務的に回答した。

「ありがとう。なぜか、特使団の中にMML(マルクス・マクシミリアン・リリエンベルク卿)が参加しているそうね。」ゆったりとしたソファから立ち上がると、侍女が用意したローブを羽織りながら聞いた。

「元々予定になかったことですが、フランツ伯が聖煌剣の護衛との目的で強引に特使団に押し込んで来たようです。リリエンベルクのやることは一々厄介です。」秘書官は忌々しそうに言った。

「まあ、リリエンベルク伯もしつこいのね。でも動きはまだわかりやすくていいわ。シュネーヴィッツェン伯のように裏で手を回されるとこちらも手に余るのだから。」侍女から渡された聖僧正帽を被ると、微笑んだ。

「さあ、異国の方々に会いに行きましょう。予定通りにね。」

侍女から聖神官魔法杖を受け取ると、秘書官を連れて宮殿の玄関に向かった。


 ガイウスの一行が宮殿の車寄せから広く壮麗な玄関広間に入ると、儀仗隊の隊列が出迎えた。その間を進んで行くと、大広間の入り口に小柄な少女とその脇に聖職者姿の長身の女性、反対側に初老の神官が待っていた。


「ファーレンハイト特使団の皆様、長旅お疲れ様でした。ようこそローゼンベルク辺境都へ。私はローゼンハイム辺境郡総監セシリア・ローゼンハイム・セルシウスです。」

少女はガイウスを見据えて、そう述べた。セシリアは聖煌神官最高位の正装をしており、頭にはティアラがあしらわれた僧正帽を被り、豊かな金髪が厚手の白いベールで隠しきれずに脇からこぼれ落ちているのが見えた。胸には白地に赤い十字架と、両脇にローゼンハイム家の紋章であるバラが淡いピンク色で精巧に浮かび上がるように刺繍されている。体全体を覆う白く清楚ながら高級感あふれるローブを纏っているが、法衣の裾は膝までの長さで体の動きに合わせてほっそりとした足が見え隠れするようないでたちであった。手には瀟洒で豪華な装飾が施された聖煌神官用魔法杖が握られている。


「ご到着して早々ではありますが、今後のことをお話ししたいと思いますので、応接の間へご案内したいと思います。」セシリアは続けて述べた。

「ご丁寧なお出迎え有難う御座います。ファーレンハイト封魔国の特使、ガイウス・アウレリウス・ファーレンハイトです。」ガイウスは挨拶のために差し出されたセシリアの右手をそっと握って少し腰をかがめてから続けた。

「こちらは弟で副使のルキウス・アウレリウス・ハイランド卿。そして、天鬼国の髑髏杯奉遷祭主の朱雀瑞鬼姫です。」一瞬の間を気取られないようにしながら、ガイウスは特使団の面々を紹介した。

「ご紹介有難う御座います、ハイト卿様。ランド卿と朱雀姫は闘技オリンピックでご一緒させて戴きましたので、存じ上げておりますよ。」微笑みながらセシリアは答えた。

「久しぶりだね、セシリー。元気してた?」話題が自分にふられたので、相変わらずの調子で瑞鬼はセシリアの手を取って握手した。ルキウスも手を振って挨拶している。

「もちろん。またご一緒できてよかった。」二人はかなり親しいらしく、再会を喜び合っている。


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