序章:アウレリウス戦役の終わり(2)
「こら、茶化すなよ。ルキウス」二人は幼少期一緒に育ったため、現在の境遇は異なっても仲が良いのであった。
「ははは、そうだな。」国王は笑った。
「ガイウスが炎龍を召喚して学院研究所の建物を吹き飛ばした時には、さすがの長老も怒りで真っ青になって震えておったな。」(半分以上は恐怖のせいだったようだが、国王はそのことは言わないことにしていた。)
急に痛いところを突かれて慌てたガイウスは手を振り回して弁明した。
「い、いや、その時は闇魔法爆縮の臨界半径の計算を間違えまして、0.2秒ほど早く魔法力連鎖が始まってしまったのです・・・。急いで回収しましたが。」
「ははっ、よいよい。研究所の壁を吹き飛ばしただけで炎龍の回収を行ったのだ、さすがよの。下手をすると学院だけなく王宮まで吹き飛ぶところだったのだ。」
「面目至極もありません。」ガイウスはうなだれた。
「ともかく、こうしてアウレリウス戦役は終わったのだ、聖煌剣を返却し、闇刻盾をわが国に回収する必要がある、セルシウス聖撰国へ私の代理として二人に行って欲しいのだ。」
国王は話を続けた。
「セルシウス聖撰国の元首セルシウス教皇には手紙で事前に連絡してある。快く承諾いただけた。」
「途中封魔神器が通過する天鬼国などは承知しているのですか?。」とガイウス。
「もちろんだ。事前に承諾は得ている。さらに重要な支援も受けられることになっている。」「支援?」国王はうなずいた。
「聖煌剣は今回の戦いで弑逆鬼神の呪いを受け、自己修復能力を失ってしまった。今回その呪いを解くために必要となる、鬼神の一部だった髑髏杯を借り受けることが出来たのだ。それを受け取り、セルシウス聖撰国で解呪の儀式を実施する運びとなっている。」
「聖煌剣、闇黒盾、髑髏杯、と強力な神器が3つも揃うということになりますね。」とガイウス。
「その通りだ、私の体調が万全であれば、そなた達に国を任せて自ら赴くのだが、この有様だ。」と自分の足元を指さした。
「万全を期すために、魔法術、魔法剣術の上位達者であり最も信頼がおける、そなた達にお願いしたいと思うのだ。」
「わかりました。父上の代理として無事に聖煌剣を送り届け、闇黒盾の帰還を実現します。」ガイウスは決意を言葉を述べた。
国王はうなずくと続けた。
「この件はあくまで外交案件なので、ガイウスは全権特使、ルキウスは副特使という立場としたい。特使は外交特権で武装が可能な立場になっている。外交の事務的な面は随行する外務副大臣に任せればよい。」
「全権特使ですか!?。」ガイウスは驚いた。
「そうだ。お前ももう二十歳を超え、アウレリウス戦役で初陣を果たすだけでなく、死の谷地区掃討作戦で高い成果を挙げた実績まで持っている。もうなんでも私に指示を仰がなくても自分で指揮できるだろう。」
「ありがとうございます。」
「いいな~。私も戦役に参加したかったな~。」ルキウスはぼやいた。
「嘆くでない、ルキウスよ。今回の件ではお前の能力を、各国にアピールする場もあるであろうよ。」
「と、おっしゃると、何か不穏な動きがあるということですね?」とガイウス。
「うむ。戦役が終了し外敵がなくなると、主導権争いが始まるのが世の常。次期聖撰国選定をめぐり各国が暗躍を始めているようなのだ。そこに封魔神器が集結する機会が発生するのだ。なにも起こらないことを期待するのは楽観的すぎるのだよ。」
「なるほど、私が兄上を護衛していかなければならないわけですね。俄然面白くなってきました。」とルキウスが興奮し始めた。
「外交側の随行員は良いとして、聖煌剣の護衛部隊のメンバーはどうなっているのでしょうか?」とガイウス。
「もちろん精鋭を選抜している。リーダーはフェンラント隊長だ。その下に近衛軍団第1小隊をつける。彼らは最前線で聖煌剣と共に戦っているから扱いになれているのでな。」
「ありがとうございます。そのメンバーであれば全幅の信頼を置けるでしょう。」
「今回は外交案件なので、申し訳ないが小隊規模しか動かすことができない。諜報部隊を先行させるので、用心してほしい。」
「わかりました。」
「出発は二週間後になる。準備をすすめてくれぬか。」
「御意。必ずや使命を果たして参ります。」
二人は同時に答えると、仲良く連れ立って国王の執務室を後にした。
国王は松葉づえを使って立ち上がり、自分たちの居城に戻って行く二人を黙って見送り続けるのだった。