第2章:邂逅への道程 (3) 聖闇騎士闘技戦③
第3回対戦はもつれる展開となった。マルクスは背後を取られる危険を避けるため、積極的に打って出る戦法を取った。ルキウスは打合いで動きを止められることを避けるため、相手の動きに合わせて大剣で剣戟を受け止めながら軽快に攻撃を避け、隙をみて短剣でダメージを与えていった。何度か打合いがあった後、蓄積されたダメージで動きが鈍ったマルクスの一瞬の隙を突き、ルキウスが懐に入り込んで足をかけて突き転ばせることに成功したのだった。前戦と同様に、横たわると起き上がるのが困難になるのが重装騎士の難点であり、戦闘復帰へのカウント不足で敗北となった。勝敗が決した時に男性陣の失望のどよめきと勝利を称える歓声、女性陣の黄色い声援が場内を満たしたのだった。
「第3戦もルキウス・ハイランド卿の打倒無力化規定による勝利です。柔良く剛を制す、緊迫した素晴らしい決戦でした。3戦の結果、2勝1敗で総合勝者はルキウス・アウレリウス・ファーレンハイト卿となりました。健闘を称え、両者に拍手をお送り下さい。」
模擬戦の結果を伝えるどことなく残念そうなアナウンスが終わるか終わらないかのタイミングで、会場内にざわめきが起こった。主催者席のフランツ伯の席に騎士が近づき、何事か耳打ちするのが見えた。同時に、連絡を受けたローバック隊長がガイウスのそばに来てひざまずき、何事か相談を始めた。副大臣が会話に加わり、ガイウスの命令を伝える伝令が貴賓室を次々に出ていった。
模擬戦の興奮が冷めやらぬ会場に不穏な雰囲気が加わり、どよめきに変わった頃合いにフランツ伯が立ち上がり、どよめきを制するように演説を始めた。
「お集りの諸兄諸氏の皆様、模擬戦をお楽しみ戴けたでしょうか?。騎士団戦では日頃の訓練の成果を、主将戦では騎士戦の技の醍醐味を味わって戴けたのではないでしょうか。リリエンベルク聖煌騎士団およびグレゴリオ友好派遣隊、ファーレンハイト闇刻騎士団および天鬼国近習隊の方々に感謝の拍手を送りたいと思います。」
拍手が鳴りやむとフランツ伯は続けた。
「また、白熱した熱戦を披露戴いた、マルクス・マクシミリアン卿とルキウス・ハイランド卿に盛大な拍手をお願いします。」
武闘場で観客に手を振る二人に惜しげもない大拍手と感嘆の言葉が投げかけられた。
「リリエンベルクを愛する諸兄諸氏の皆様。落ち着いて聞いて戴きたいことがあります。」改まった口調で演説を再開したフランツ伯が切り出すと、会場は一気に静まりかえった。
「ただいま、城市外警備軍からの報告があり、北東部にあるゲルクマイン鉱山帯から大量の魔物が発生し、このリリエンベルク州都に向かって高速進軍中であることが分かりました。その数は約2万程度とみられ、今の進行速度では州都到達は5,6時間後と推察されます。」
会場にどよめきが広がった。
「ご安心下さい。リリエンベルク辺境防衛の司令官として、私はリリエンベルク聖煌騎士団および州都防衛軍に防衛および迎撃の命令を発しました。部隊集結次第、現地への進軍を開始予定です。さらに。」
フランツ伯は声を張り上げた。
「天啓のごとき神の恩恵より、今ここに絶大なる威力を誇る聖煌剣が我々の目の前にあり、その聖煌魔力を発揮せんとしております。私は、ファーレンハイト封魔国特使、ガイウス・ファーレンハイト卿のご協力を得て、聖煌剣で魔物の大群を打ち破ります。」
会場を揺るがすような大歓声が上がった。
大歓声の中、フランツ伯に促されてガイウスが貴賓席から立ち上がり、演説を始めた。
「リリエンベルクを代表する皆様、我々使節団の任務遂行にご協力戴き大変有難う御座います。我々の魔界討伐の主力兵器である聖煌剣と我が国の精鋭部隊、主将魔法剣士の技と実力をご理解戴く良い機会を戴いたフランツ伯に感謝したいと思います。」
一旦言葉を切り、ガイウスは続けた。
「また、緊急事態の発生に伴う、リリエンベルク軍司令官のご要請に対して、ファーレンハイト封魔国特使として以下の対応を取ります。
1.ファーレンハイト封魔国の国是として、市民の皆様を魔物の被害から守り、地上
より魔物を排除することは責務であり、我々特使団及び聖煌剣が、防衛戦に
参加・協力することは義務と考えます。
2.特使使節団の目的はセルシウス国皇都へ聖煌剣を持参し闇刻盾と交換する
ことであり、そのために輸送経路の安全確保は必須であり、聖煌剣滞在の地で
あるリリエンベルクの対魔物防衛軍に参加することは絶対的に必要と判断します。
3.甚大な攻撃力を持つ聖煌剣による戦術実行について、魔界討伐の実戦経験
豊富な闇刻騎士団聖煌剣防護隊を実行部隊とし、聖煌剣主任担当剣士と
して皆様に実力を披露した、ルキウス・アウレリウス・ハイランド卿を任命します。」
会場は大歓声と割れるような大拍手に包まれた。
「
4.魔物軍勢に対する先制攻撃を行うため、約1時間後に敵軍勢が到達する
狭隘地シュバルツシュタイン盆地に向けて、本闘技場展望楼より、聖煌剣にて
遠隔攻撃を実施します。
5.遠隔攻撃実施後、直ちにシュバルツシュタイン盆地へ州都防衛軍を派遣戴き
敵軍勢包囲掃討作戦の遂行に参加します。
以上です。」
会場は大きなどよめきに包まれ、さらなる大拍手が鳴り響いた。