第2章:邂逅への道程 (3) 聖闇騎士闘技戦②
「それでは本日の主戦であります、聖闇主将騎士による一騎打ちを開始します。」
場内にアナウンスが流れると観客席がどよめいた。
「リリエンベルク聖煌騎士団、団長・主席聖騎士、マルクス・マクシミリアン・リリエンベルク卿。卿はエウレカ大陸聖騎士闘技大会3連覇を成し遂げ、先の魔界大討伐において地上防衛部隊の軍団長として大陸を守り切った若き英雄です。」
「ファーレンハイト封魔騎士団、ハイランド地域総司令官、最高位魔法剣術士、ルキウス・アウレリウス・ハイランド卿。卿はエウレカ大陸武闘オリンピックにおいて前人未到の魔法剣・武闘剣技・格闘剣技三種目総合優勝者であり、祖国ファーレンハイトのハイランド地方総監を務める若きエリート王子です。」
貴婦人達の黄色い歓声と声援に送られて、ルキウスは闘技場の中央に設営された25メートル四方ほどの武闘場に上がった。
「勝負は魔法剣競技ルールに従います。相手の胸か背中を地面につけて10カウントをとるか、武闘場外へ押し出して10カウントをとれば勝利とします。武器・装備は剣、盾、鎧(全身防御)のみとし、危険防止のため剣は鞘を付けたままとします。魔法は自分自身・武器・装備にのみ使用可能です。相手に対して魔法を直接使用した場合は危険ですので反則負けとします。15分間3回勝負で2回以上勝利した方が優勝となります。」
二人は武闘場で10メートルほどの間をおいて対峙した。マルクスは頭からつま先まで隙のない完全重装備で大剣、大楯をもって構えている。対照的にルキウスは身動きの取りやすい軽装備で大剣ドラゴンテイマーと小型肩盾を装備している。それぞれの盾には白地のリリエンベルク聖煌騎士団章、黒地のファーレンハイト闇刻騎士団章が描かれており闘技場にさす日の光に照り輝いていた。
第1回対戦が始まると、ルキウスはマルクスに駆け寄り大剣を真っ向から打ち付けた。マルクスは大型の盾でがっちり受け止め、はじき返すと共に大剣を片手で横殴りに胴切りに払って来た。ルキウスは弾かれた反動を利用して軽快に剣を避けた。流れるような動作で回転し大剣を下から切り上げると、マルクスは素早い盾捌きで剣戟を受け止め、上から大剣を振り下ろして来た。重量のある大剣と大楯を片腕で軽々と使いこなし、尋常ではない膂力を見せつけてくる。ルキウスは自身の大剣を止められた勢いを利用して振り下ろされたマルクスの剣戟を回避した。無駄のない動きではあるが、一歩も動いていないマルクスに振り回されている感は否めない。さらに数合打ち合っては弾かれ、振り払ってはかわすことを二人は繰り返した。マルクスが大剣を叩きつけるたびに会場から男性陣の歓声が起こり、ルキウスが華麗にかわすたびに女性陣の悲鳴が会場に響いた。
10分ほど打合いをした後、ルキウスは一旦マルクスから離れて間合いを取った。二人とも自己強化魔法をかけているため、息が上がった様子もなくお互いの出方を伺っている。ルキウスは一瞬間を開けると、猛然とマルクスに打ちかかった。マルクスは当然のごとく剣戟を弾き返す。その一瞬にルキウスは片手で腰の短剣を抜き、マルクスの盾を避けて鎧の腋の隙間へ突き込んだ。次の瞬間、大きく体勢が傾いたルキウスをマルクスの横殴りの大剣が襲い、かわし切れなかったルキウスはその打撃の勢いで場外の観客席前フェンスまで弾き飛ばされてしまった。自己強化魔法のおかげでダメージは保留されているので、ルキウスはすぐに立ち上がって場内へ戻ろうとしたが、なぜか足がもつれてすぐには立ち上がれない。足防具に接着の魔法がかけられていて、うまく動けないのであった。それに気付いたルキウスが解呪魔法で両足を解放し、走りだそうとした瞬間、惜しくも10カウントが鳴り響き、勝敗が決した。会場内は男性陣の歓声と女性陣の悲鳴が最高潮に達した。
「第1戦はマルクス・マクシミリアン卿の場外戦闘放棄規定による勝利です。聖騎士のパワー全開の見ごたえある闘技となりました。第2戦は10分間の休憩後の開始です。」
第2回対戦は第1回対戦とは対照的に、あっという間の決着となった。開始早々、ダッシュでマルクスに接近したルキウスは、剣戟の間合いに入る直前でジャンプし、マルクスが振り上げた大楯を飛び越えざまマルクスの鎧背面の剣差しに大剣を差し込むと、着地の勢いでマルクスを後ろに引き倒したのだった。マルクスは地響きを立てて倒れたが、すぐさま起き上がろうとした。しかし、元々装備自体の重量が重く動きが不自由なことと、防具接着の魔法が掛けられていたことで、なかなか起き上がることができず、10カウントとなったのである。カウントが終了した際には、あっけにとられた観衆が我に返り、大歓声が場内を揺るがせた。魔法剣・格闘剣技の達人らしいアクロバティックで見事な勝利だった。
「第2戦はルキウス・ハイランド卿の打倒無力化規定による勝利です。スピードと技による速攻が光る華麗な勝負でした。第3戦は10分間の休憩後の開始です。」