第2章:邂逅への道程 (3) 聖闇騎士闘技戦①
騎士闘技戦を隠れ蓑とした聖煌剣の閲覧会の準備は着々と進められ、1週間の期限はあっという間に過ぎ去って行った。伯立闘技場の観客席に聖煌剣の祭壇が設えられ、入場を許された街の有力者向けに遠巻きに閲覧することができる回廊が設置された。むき出しの封魔神器は強力な魔力を発するため、透明な特注ガラスの箱に入れられて展示されることになっている。リリエンベルク伯や主賓のガイウスの席はその上方に設定されていた。
「なんだか大事になって来ましたな。偶発的な事故に注意しないと。」
副大臣は慌ただしく部下に指示しながら、魔法剣の練習をするルキウスに話しかけた。実際、街中では大きな模擬騎士団戦の話題でもちきりで、なんとか会場に潜り込もうと街の有力者に取り入ろうとするものが後を絶たない状態だった。
「僕とマルクスの一騎討ちはメインイベントで、前座はリリエンベルク聖煌騎士団と我々ファーレンハイト闇刻親衛隊と天鬼国近習隊の混成模擬戦があるのだから、だれでも見たくなるよ。おまけにリリエンベルク隊にはグレゴリオ公国の友好派遣隊メンバーが入るとなれば、一般市民でも放っておけないだろ。」ルキウスが魔法剣の構えを繰り返しながら答えた。
「これが終わったら、混成隊の訓練もみてあげないと。」
「天鬼団の朱雀姫が異様に喜んで技の練習をしていました。わかってはいましたが相当なお転婆、いや活発な姫様ですな。」副大臣がため息をついた。
「兄上は大丈夫なのかな?」ルキウスは副大臣に尋ねた。
「ハイト卿様はリリエンベルクの工業施設や軍事施設等の視察に連れ回されていらっしゃる様です。フランツ伯のアピールが激しいようで辟易されていました。謁見時間が削られて政務が回らないので困った事です。」
「フランツ伯の辣腕を見せつけられている感じだね。向こうの土俵に乗らないように注意しなければ。じゃ、混成隊のトレーニングに行ってくるよ。」ルキウスは剣を腰にしまうと、副大臣に挨拶して部屋を後にした。
聖煌剣閲覧会場兼騎士闘技戦会場である伯立闘技場は、開場前から異様な熱気に包まれていた。入場できるのは貴族や街の有力者、富裕層のみだが、使用人や関係者、中の様子を知ろうとする野次馬市民、彼らに軽食や飲料を売る屋台まで出て会場の前は喧騒に包まれていた。入場できた貴族の使用人が内部の試合の様子を、節目節目に出て来て場外の野次馬へ伝えるので、そのたびに大騒ぎがおこるのだった。
「お集りの諸兄諸氏の皆様、リリエンベルクの栄光と発展にご協力戴き有難う御座います。」定刻に指定の座席に集まった入場者に向かって、主催者席からフランツ伯が演説を始めた。
「魔界大討伐が無事終結し、我らが国宝の聖煌剣が凱旋帰国しました。ファーレンハイト封魔国特使の王太子のご厚意によって、その雄姿を公開し模擬騎士団戦を奉納することとなりました。このまたとない機会を神に感謝し、聖煌剣の姿を目に焼き付け、各騎士団の武勇を称えようではありませんか。そして、その武勇と恭順を誇る騎士団をもって聖煌剣を皇都まで無事に送り届けることを約束したいと思います。」リリエンベルク卿は大きな拍手の中で演説を締めくくった。
「そういう事だったのか。」ルキウスは隣に座っている瑞鬼に耳打ちした。
「理由を付けてリリエンベルクの騎士団を聖煌剣に同行させるつもりなんだ。」
「確かに、聖煌剣をただ通過させただけだと何のメリットもないでしょうからね。」と瑞鬼。
「ずいぶんとややこしいことをするのね。」
「策謀好きの天使族らしいや。こちらは予定通りがんばるだけだけどね。」ルキウスはつぶやいた。
祭壇に設置された聖煌剣を遠巻きながらでも閲覧して感動したリリエンベルクの有力者たちは、その後に開始された模擬騎士団戦に熱狂した。
前哨戦であるリリエンベルク聖煌騎士団+グレゴリオ友好派遣隊とファーレンハイト近衛隊+天鬼国近習隊の対決は、隊列による型演習と実戦形式の模擬戦が行われた。この日に向けて入念な訓練を積んで準備してきたリリエンベルク団と比較して、実戦重視で荒い行動が目立つファーレンハイト団は不利な評価をうけてしまい、結果としてリリエンベルク団の勝利となってしまった。一人、瑞鬼が派手な戦闘衣装でアクロバティックな剣戟を繰り出して相手を圧倒し、観客から大喝采を受けていたのがせめても救いであった。