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第2章:邂逅への道程 (2) リリエンベルク辺境伯②

「実は折入ってお願いがあるのですよ。」

総監のフランツ・リリエンベルク伯は、歓迎の挨拶の後、切り出した。会見の間にいるのは、フランツとその嫡男のマルクスと近衛兵。ファーレンハイト一行はガイウスとルキウスの特使たちに加えて副大臣とローバック隊長。もちろん瑞鬼と側近の副長も参加している。

「聖煌剣ラグナロクはこの国、いやこの大陸の宝と言っても過言ではない存在。その宝がこの地に訪れるというのはまたとない僥倖なのです。この千載一隅の機会に聖煌剣を一目でもみたいと望む者が多く、困っておるのです。」フランツは一行を見渡した。


「今回のお役目は極秘とまではいかないまでも、宣伝すべき性質のものでもありません。そこで街の有力者だけでも良いので、聖煌剣の姿を拝見させてはもらえませんかな?」

「ご存じとは思いますが、聖煌剣は膨大な威力を発揮する封魔神器です。軽々しく扱うと大きな被害が発生しかねない代物です。魔力的な処置を含めて専門部隊でないと扱いが難しいのです。友好的に貴領国を通過するためにも、ご希望に沿いたいとは思うのですが、難しいのではないかと思います。」ガイウスはやんわり断りを入れた。


「いやいや、ご心配はごもっともです。我々も全く情報がないわけではありませんので。閲覧会場を伯立武闘場にして防護と警備を厳重にすることでいかがですかな。また、閲覧会の名目も貴殿の訪問を記念した聖闇模擬騎士戦とすれば、カモフラージュすることも可能です。ある意味、聖煌剣は戦いを司る神器。騎士戦を捧げることでよりその威信を増すことが出来ましょう。」フランツはガイウスをまっすぐ見据えて語った。

「少し話が違う方向へ進んでいると思いますが、そんなことが実現可能なのですか?我々は貴国との条約に基づいて聖煌剣と闇刻盾を交換するため、速やかに皇都へ向かいたいのですが。」ガイウスの眉が少し上がった。


「セルシウス聖撰国と貴国の条約は十分承知しておりますとも。ただ、聖煌剣の威光に接したいという私自身も含めた純粋な心からお願いしておるのです。この地リリエンベルクまで来られたなら皇都に到着したも同然。貴国ファーレンハイト封魔国の功績・武勇を確固たるものとするため、聖煌剣の閲覧と騎士戦をお受け戴けないですかな。」なおもフランツは言い募った。

ガイウスが口を開こうとした気勢を制して、隣に座っていたマルクス・マクシミリアンが発言した。マルクスは体格も良く、軍服も厳つくいかにも武人といった様子である。

「僭越ながら、私からもお願い致します。偉大な力を持つ聖煌剣を一目拝見したいのです。そして騎士戦において不断の努力で磨いた聖騎士の技が無駄ではないことを証明したいのです。聖騎士の力は魔界征伐には向いていませんが、国を守る力は誰にも負けません。特に武闘オリンピック優勝者のランド卿とは一度お手合わせしたいと切に願っていたところ。このような機会はまたと来ないでしょう。是非お願いしたい。」


ガイウスは、げんなりした顔つきルキウスや興味深々の朱雀姫、若干慌て気味の副大臣、鉄面皮のローバックの方をちらりと確認し、フランツとマルクスの方を向いて口を開いた。

「わかりました。これも何かの縁というものでしょうか。近衛の方たちのお手を煩わすこともありませんので、ご提案をお請けすることにしたいと思います。」

「おお、ご聡明なハイト卿であればご承諾いただけるはずと確信しておりました。有難う御座います。」フランツはわずかに相好を崩した。

「旅の疲れも御座いましょう。今、ご宿泊所へご案内させます。それでは、ごきげんよう。」


宿舎に指定された伯立武闘場の特別貴賓室に到着すると、ルキウスはぶうたれた。

「何だよ、この展開。まるで見世物じゃないか。リリエンベルクの人たちは何を考えているんだろう?」

「何か良からぬことにならないと良いのですが。」一緒にソファに腰かけた副大臣が声をかけた。

「いや、もう良からぬことになりかけている気がするんだが。聖煌剣を守りながら剣闘戦なんて大変だよ。」

「あんなゴリラ適当にあしらっちゃえばいいじゃない。動き鈍そうだし~。」部屋に一緒に入って来た瑞鬼がテーブルに盛り付けられていたフルーツを口に放り込んで言った。

「あら、このブドウ美味しいじゃない。さすが貴賓室~。」

「あんまり無防備に触ったりすると、危ないかもよ。やつら何を考えているかわからないからな~。封魔国に喧嘩を吹っかけて自分たちの権勢をアピールしたいのかな?。」ルキウスは瑞鬼に注意してから、議論を続けた。


「そうかもしれません。セルシウス聖撰国といえども皇都のあるローゼンハイム伯領とリリエンベルク伯領は国力が伯仲して来ていますからな。聖魔法力重視の教皇の国家運営に軍事力重視のリリエンベルク伯が面白く思っていない可能性があります。隣国グレゴリオ公国の重商主義の辺境伯領と手を握ろうとしていると言った噂もあります。」副大臣が続けた。

「それに、ちょっと気になる動きがあるのよね。」瑞鬼がフルーツを2,3口にしながら割って入った。

「うちの忍びの者からの報告で、最近この国の各所の鉱山で魔物発生事故が増えて来ているらしいのよ。地底に近い鉱山で魔物の出現が根絶できるわけではないけど、あれだけ大規模な魔界征伐と鬼神討伐の後なのにおかしな話じゃない。」もぐもぐしながら瑞鬼が語った。

「うん、それは僕も聞いているよ。先日もローバック隊長が掃討作戦をせざるを得ない状況になっていたし。彼の神力をもってしても手間取るくらいの大軍勢だったと聞いたよ。

厄介な状況にわざわざ入り込んで来たっていうことだね。」ルキウスはため息をついた。


「こんな時に、兄上とローバック隊長は宮殿の離れの迎賓館に連れていかれてしまったから、我々だけで対策を練らないといけないしね。」

「あれは、完全に伯の策謀ですな。ハイト卿様を人質にとり、我々を分断させるのが目的でしょう。」副大臣は憤懣やるかたない感じで言った。

「まあ、聖煌剣が警護部隊から隔離されることは免れたし、髑髏杯部隊とも一体活動できているから大抵のことには耐えられると思う。兄上に関しては人質にできるような人じゃないし、ローバック隊長もいるからね。相談できないのはつらいけど、安全上の心配はないかな。厄介なのはマルクス・マクシミリアンだね。政治上の問題もあるし、実力も侮れないから、叩きのめしたりわざと負けたりできなさそうな相手なんだよな。しっかり対策を考えないと。」ルキウスは語った。

「あら、意外としっかりと考えているのね。(わたしの)イケメン王子様~。」瑞鬼がからかった。

「なんだよ~。僕だっていつも能天気なわけじゃないぞ~。」憤慨してルキウスは答えた。


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