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第2章:邂逅への道程 (1) ツンドラムのローバック③

 様々な作業指示や打ち合わせを終えると、ローバックはガイウスの部屋のドアを叩いた。もう日が傾いていた。


「そのようなわけで、明日1日お暇を戴きたいのです。勝手な振舞とは承知しております。しかし、この地を魔物の襲撃から守護することはファーレンハイト国の評価を高めますし、国是に従うことになると考えます。また、我々使節団の今後の道中の安全を確保する一助ともなると考えます。急ぐ旅ではありますが、なにとぞ許可をお願いいたします、次代様。」ローバックはガイウスに経緯を話し、要望を伝えた。

黙って聞いていたガイウスは答えた。

「話は分かったよ、ローバック。あなたの気持ちはよく分かるが、隊長がいないと親衛隊の規律に揺らぎがおこるし、戦闘力も大幅に低下するのは間違いないことなんだ。今後の活躍も期待している。なので無理せず、必ず明後日の夜明けまでに帰って来て欲しい。」

「ご承認ありがとうございます。必ず期限までに任務に復帰します。」ローバックは礼を述べた。

「では、早速今からお暇を戴き、現場へ急行したいと思います。」

「せめて夕食をとってからにしたら?。「腹が減っては戦が出来ぬ」と良く言うじゃないですか。」

「その点は準備しております。先ほど食堂で弁当を用意してもらったので、大丈夫です。故郷の者が私の到着を待っていますから、一刻も早く出発したいと思います。」

「わかった。では、ローバック・フォン・フェンラント公にかかる闇制魔法の解除を行おう。解除を行うと、神狼としての能力が無制限に行使可能となる。くれぐれもコントロールを失うようなことがないように気をつけなさい。」

ローバックはうなづき、ひざまずいて頭を垂れた。

ガイウスは魔法杖をローバックの頭上にかざすと、魔法術詠唱を行った。

「高位闇魔法(High Class Destruction)、詠唱(Spell)、限界破壊(Limit Break)!!」

黒い半透明のエネルギー球がローバックを包み込むと、ローバックの体は光り輝き二回りほど大型化した。

「力が漲ってきます。有難う御座います。」ローバックは立ち上がると、ガイウスに礼を述べで部屋を出た。


 速足で歩き町の門まで来たときには日が沈みかけており、門を照らす篝火が点火されようとしていた。門の手前で待っている商人と犬を見つけると、ローバックは歩み寄って商人から犬の引綱を受け取った。

「苦労をかけたな。ここから先は大丈夫だ。有難う。」ローバックは商人と別れると門から町の外へ出た。門の守衛から姿を見られない距離まで来ると、道端の木の裏に隠れてからローバックはローウェルに話しかけた。

「時間が惜しい。ここからは、本来の姿で行こう。私が獣身になるので、お前は私の背に乗るといい。」

「そのようなことは畏れ多くてできません。」ローウェルが首を振って答えた。

「ハイト卿様に能力の解放を行って戴いた。私が全力で走ったらお前は追いつけない。道案内が遅れては話にならないだろう。気にするな。」

「わかりました。では失礼して乗らせて戴きます。」ローウェルは立ち上がり人型に戻った。

ローバックは伸びをすると、巨大な狼の姿に変身した。目は真っ赤に輝き、巨体はうっすら銀色の光を放っている。一見してその力を理解させる神々しい姿である。

「よし、行くぞ!!。しっかりつかまるのだ。」

狼頭のローウェルを背に乗せたローバックは、街道を飛ぶようなスピードで駆け始めた。その速度はぐんぐん上がり、ついには空を駆ける神狼そのものとなっていった。


 翌々日の朝、出発のためにガイウスが支度をしていると、副隊長が慌てて部屋に入って来た。

「ハイト卿様、フェンラント隊長が帰参しました。隊長室にいます。」副隊長が報告した。

「わかった。すぐ行く。」ガイウスは手早く支度を整えると、隊長室へ向かった。

隊長室にはかなり損傷した軍装と生傷だらけになったローバックが手当てを受けていた。

ガイウスが部屋に入ると立ち上がって、帰着が出発ギリギリになってしまったことを謝罪した。

「きっと約束を守ってくれることを信じていましたよ。その様子では相当手こずったようですね。」ガイウスが声をかけた。

「面目次第もありません。敵が想定以上の大軍勢だったのと、砦の修復、破壊された地獄門を閉じるのに多くの神力を消費してしまいました。甲斐あって地獄門から魔界平原地域の魔物を一掃することができました。当分魔物の襲来は無くなったと考えてよいでしょう。」ローバックは答えた。

「さすが、フェンラント隊長、いや、フォン・フェンラント公。この地の民も喜ぶでしょう。」

「有難うございます。早速ですが、任務に復帰したいので、神力封印の施術をお願いしたいのですが。」ローバックは依頼をした。

「わかった。早い方が良いだろう。申し訳ないが、治癒術士は席を外してくれないか。」

ガイウスは魔法を唱えた。

「高位闇魔法(High Class Destruction)、詠唱(Spell)、魔力封印(Divine Sealed)!!」

ローバックは透明なエネルギー球に包まれると、体が元の大きさに戻った。

「これで良いだろう。神力を封印したので傷や体力の回復が遅れるが、宿で休んでから我々に追いつくかい?。」ガイウスは聞いた。

「お言葉有難うございます。しかし、出発までに任務復帰することがお約束でしたので、出発に参加したいと思います。」隊長に復帰したローバックは答えた。

「わかった。では、移動中の親衛隊馬車内での休息を認めよう。当面は無理しないで欲しい。」ガイウスはそう答えると立ち上がった。

「さあ、皆で旅を続けよう。」


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