表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/45

第2章:邂逅への道程 (1) ツンドラムのローバック②

 宿屋の親衛隊長に割り当てられた部屋で、隊員への指示を出したり、今後の行程で通過する街道の様子や、最近頻発する商品輸送馬車強盗事件への対策等を検討したりし、ローバック隊長は忙しく任務をこなしていた。すると警備係の隊員が部屋に入って来た。


「隊長、会議中申し訳ありません。商人と思しき者が隊長に是非伝えたいことがあると言っておりまして。」

「なんだ、隊長はご多忙の身だ、なぜ断らん。」副隊長が言った。

「私も追い返そうとしたのですが、会えるまで待つと言って聞かんのですよ。ついにはこれを見せればあってもらえるなどと言ってこんなものを渡してきまして。どうも悪意を持っているようには見えないので断り切れずに来てしまいました・・・。」と隊士。

「なんだそれは?」副隊長が聞いた。

警備隊士は少し大型の金属のメダルのようなものを差し出した。

「なんとも不思議な感じの模様が彫ってあるな。」副隊長が言った。

黙って会話を聞いていたローバックは、そのメダルを見ると口を開いた。

「わかった。会議がもうすぐ終わる。その後この部屋に彼らを呼んでくれないか。その際、申し訳ないが皆持ち場に戻ってもらいたい。」

「えっ、お会いなさるのですか?それも一人で。危険です、護衛の者をお連れ下さい。」

と副隊長。

「心配しないで欲しい。私を危険にさらせる者はこの世に数えるほどしかいないはずだ。」とローバック。

「それは、その通りなので否定できません。わかりました。」副隊長は答えた。


 会議が終わると、先ほどの隊員が訪問者を連れて部屋へ入って来た。訪問者はなるほど商人風でなぜか一匹の犬を連れて来ていた。隊員は犬同伴であることを事前に報告できなかったことを言い訳がましく謝罪してから部屋を退出した。

「お客人、あなたは口が堅いと信用できるお方ですかな?」ローバックは尋ねた。

「へえ、フェンデライト村の方々にはよくさせて戴いておりますので、ご心配無用です。お得意様を失うことは商売に一番の痛手ですよってに。」商人は答えた。

「フェンラント様、この者は我々のために良く働いてくれている者です。どうか、ご安心を。」商人が連れている犬が喋った。

「わかった。今、目隠しをするから、待ってくれ。」そう言うと、ローバックは部屋の窓の鎧戸を閉めた。「これで良かろう。」


 部屋の内部が覗かれないことを確かめると、犬は立ち上がるとぶるぶると体を振って、狼頭の青年に変身した。

「お久しゅうございます。フェンラント様。」狼頭の青年は挨拶した。

「何年ぶりかな。ローウェルに会うのは。元気にしていたか?」ローバックは答えた。

「北方魔界討伐の際にお寄り戴いて以来ですから、かれこれ12年ほどになりますか。昨日のことのように思い出します。あれから里では大きな変化はなかったのですが・・・。」ローウェルと呼ばれた青年は答えた。

「そうか。では、わざわざ姿を変えてまで私に会いに来たということは、何か問題が起こっているということなのかな?。まあ、掛けてくれないか、ゆっくり話そう。」ローバックは近くの椅子を指さした。

「ありがとうございます。」ローウェルは腰かけて話を続けた。

「魔界討伐が終わったばかりだというのに、北の地獄門から強力な魔物の群れが出現するようになってきているのです。我々フェンデライト族が食い止めてはいるのですが、出現頻度が高くなっており、討ち漏らすことが多くなって来ています。討ち逃した魔物が街道近辺に出没して輸送馬車を襲ったりする事態も発生しています。」ローウェルは説明した。

「なるほど、最近頻発している襲撃事件は魔物の仕業なのだな。おかしいとは思っていたが。」ローバックは答えた。

「そうなのです。また、最近地震が増え、地底の魔界からの出口が増えて来ている気配もあります。魔界の魔力がパワーアップしているように感じられます。」

「うむ、良くないことが起こっているようだな。」

「その通りです。我々としても、防戦一方では埒が開かないので、地獄門で何が起こっているか偵察したところ、魔界側に魔物の集積地らしき砦が出来ていて、そこが出撃拠点になっていることが分かりました。そこで、我々としてはその砦を制圧し、逆に地獄門を塞ぐための防波堤にすべきと考えています。」とローウェル。

「うむ。良い考えだ。」ローバックは答えた。

「そこで、フェンラント様にお願いがあるのです。その砦には多くの魔物が集結しており、我々だけでは制圧に多くの同胞の犠牲が必要になりますし、下手をすると1年以上の月日がかかるものと思われます。」

「それほど大量に魔物があつまっているのか。良く持ちこたえられているな。」ローバックは感心した。

「お褒めいただき有難いのですが、いかんせん、戦力と物量が不足していることには変わりありません。そこで、畏れ多いことではありますが、フェンラント様の神狼の力をお借りして、一気に決戦に持ち込みたいと考えているのです。是非、一緒に戦って戴けないでしょうか?」ローウェルは懇願した。


「ううむ。私は今、次代様、弟君様をお守りし、聖煌剣を無事にセルシウス聖撰国へ送り届ける任務の真っ最中なのだよ。天鬼国一件で既に行程に遅れが出ているため、先を急ぐ必要があるのだ。どうしたものか。」ローバックは考え込んだ。

「ご事情はよく存じ上げています。1日だけでも参戦戴ければ、後は我々で始末を着けられると思います。」ローウェルは重ねて説得した。

「うむ、分かった。使節団の出発は明後日。明日1日だけ暇を戴き、出発までに戻れるように工夫しよう。」ローバックは承諾した。

「ありがとうございます。本当に感謝いたします。」ローウェルは感激と安堵で胸が一杯の様子で礼を述べた。

「ただし、時間の猶予がないので、強行軍になるぞ。今日夕方ここを出発し、村で仮眠をとってから地獄門へ移動。日の出と共に総攻撃をかける必要がある。」とローバック。

「わかりました。仲間を先に村へ帰して、準備するように伝えます。私は暗くなってからローバック様を村へ案内します。」ローウェルは答えた。

「よし、では日没時にトリビシの町の門で待っていてくれ。私は次代様から暇の許可を貰ってからそちらへ向かうから。」

「承知いたしました。」ローウェルはうなずいた。


「しかし、フェンラント様ほどのお方がなぜ、封魔族に臣従しているのですか?。我らが故郷に帰れば、この地の王になることも容易いですのに。」ローウェルは嘆いた。

「先々代様には大変な恩を受けたのだ。この身をもって返すべきほどのな。だから、私は自分が納得するまではファーレンハイト王に仕えたいと思っているよ。」ローバックは答えた。

「それでは、いつかは、我々の王として帰ってきていただけるのですね。!!」ローウェルは若者らしく感激して言った。

「ああ、我々フェンデライト族は長命なのでいつになるかわからないが、必ず帰るよ。」ローバックはローウェルの様子をみて微笑みながら答えた。

「その時が楽しみです。ファーレンハイトの人たちもいい人のようですしね。特にお仲間の鬼のお嬢さんは良家のお育ちとわかりました。あんな美味しいお菓子を普段から食べているのですから。感激しました。」ローウェルは興奮気味に言った。どうやら感激屋らしい。

「そんなに美味しかったのだな、あのクッキーは。今度私もねだってみようかな。いや、それにしても拾い食いなどすると腹を壊すからやめた方が良いぞ。若干みっともないしな。」ローバックは言った。

「わかっております。普段は落ちている物など口にしませんが、あまりにもおいしそうだったので、つい。」ローウェルが慌てて言った。

「まあ良い。あの場では正体がばれると厄介だから、良しとしよう。」ローバックは笑って言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ