タイトル未定2024/08/02 00:35
蝉の声がうるさい生まれて19回目の夏、溺れるほどの恋をした。
「涼香!今年の夏はさ、プールにでも行こうよ。」
親友の華が楽しげに言った。華が言うことはいつも何かしよう。とかこれからのことを楽しみにしようとする言葉が多い。私の性格はそこまで未来のことを、特に楽しさを追求する性格ではないから少し疲れることもあるけど、やはり新鮮で楽しい。
「いいよ。いつにしようか。」
なんとなく日にちと場所を決めて私たちは夏を感じる計画を立てた。
8月12日、太陽の陽が突き刺さるほど痛いお昼の時間に昭島駅で待ち合わせをしてバスに乗ってプールに向かった。
「すごく混んでるね。みんなプールに行く人なのかな。」
「お盆だもの。家族でいく人も多いだろうし、いつも以上に混雑する日を選んじゃったかもね。」
「そっか。あ!ねえ、涼香!どんな水着にしたの?」
「なんか口頭で説明するの恥ずかしいから着いてからのお楽しみ」
私が笑いながらはぐらかすと華は少しふくれて、すぐに楽しみだと笑った。
「着いたー!プールだ!涼香は黒のビキニかー。意外と責めるね!」
ビキニといってもそこまで露出面積は高くない。華の水着は白色で完全なるビキニ。それにへそについてるピアスが太陽の下に行くたびキラキラと光る。
「華の隣に並んだら、責めても負けるよ。」
そんな会話をしていたら二人組の男の人達に声をかけられた。
「お姉さん達二人で来たの?かわいいね。インスタ教えてよ。」
話しかけられるのはこの人達で3組目だ。どの人達も私たちが断ると、すぐにほかの女の子達にいっているのを見ると別に誰でもいいのだと思うけど。純粋に楽しみに来たのにそういう場所なのかと思い少しむっとしていると
「大丈夫です。」
と華が突き放してくれた。
そういうことが何回かありつつ、なんだかんだ楽しんで夕日がプールを染め始めて水の色もオレンジ色に揺らめき始めた。そろそろ帰ろうかとしていると
「お姉さんたち二人?あのスライダー乗りたいんだけど二人足りなくて、よければ一緒に乗らない?」
若くてチャラそうな男の人達が話しかけてきた。他の男の人達とは違って連絡先は聞かれなかった。それに、男性達が話していたスライダーは私たちも乗ろうとしたが四人乗りだったので諦めたものだった。
華と目で会話してその人達についていった。
スライダーを待っている間、私はあることに気づいた。華と目で会話したつもりだったが私たちの目的は全く違った。華はすこしメッシュの入ったいかにもチャラそうな男の人を相当気に入っていたようで、ただスライダー目的だった私とは目指すものがまったく違った。
まあ、楽しそうだからいいか。はしゃぎながら話している華をみてそう思っていると
「俺、翼。名前は?」
私の隣にいた男が聞いてきた。
「涼香。」
端的にそう述べた。
「漢字は?」
「涼しいに香る。」
「へー。いい名前だ。君の友達、蓮のこと気に入ってるね」
「みたいですね。」
「二人とも可愛いからここまで沢山声かけられたでしょ。」
「はあ。」
「なんで俺らはよかったの?」
こっちがそっけなくかわしてるのに、翼はずっと会話を続けた。正直居心地は悪かったが、華の邪魔をするわけにもいかないし無愛想すぎるのも良くないと思い私も答える。
「あんま下心感じなかったから。他の人はすぐ連絡先聞くけど、聞いてこなかったでしょ。ただスライダーに乗りたかったのかと。今だって別に聞かれてないし。」
少し沈黙があった。何か変なことを言っただろうか。そう思って翼を見た。真っ黒の襟足が風に揺れている。瞳が細くなっていって目の横にしわがよっていく。
「そりゃ勘違いだ。俺は下心ありあり。スライダーから降りたら連絡先も聞くつもりだった。」
すごく無邪気に笑いながら言うから、なんだか嫌な気分にはならなかった。でもここで自惚れてはいけない。
「でも、華はお友達のほうに」
「俺が気になってるのは涼香ちゃんだよ。」
言葉を遮られて黒い瞳に見つめられると体が硬直した。顔に血が昇るのがわかる。こんなのがばれたら最悪だ。そう思って顔を背けると
「私たちの番だよ!」
華の声がして、急いでスライダーに乗る。