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第9話 「とんでもないことしてくれて!」

 このジッとしてる時間にできること……可能なら魔法指南書みたいなのがあったりとかしたら読みたいけどそもそも字が読めるのか。魔王様の執務してる姿は見てるが触っている紙の文字はそういえば意識して見てなかったなと考える。

 次から覗き込んでみようか、と考えていた矢先、扉の向こうから音がする。

「お疲れ様です。すいません、中に入りたいんですけど……」

「今国王は不在です。メイドが何の用で……?」

「えっと、掃除し忘れたところがありまして……王様が不在と聞いたので今の内ならと」

「手早く済むか?」

「はい、すぐ終わります」

「まぁ、すぐならいいか……手早く、だぞ」

 掃除のし忘れ。まぁそんなこともあるだろう。そう思って私はまた扉が開かれる音と同時に布をしっかりと頭から被りなおす。

 女の声が二人ほど聞こえたので、ほんの数分で出て行ってくれるはず。

「も、戻ってくる前に終わらせないと……!」

「慌てすぎてもの倒さないでよ? あんたへっぽこなんだから」 

「酷いこと言わないでくださいぃ」

 聞こえる声にそちらを見れば、背の高い少しおどおどした感じの羊角の生えた魔族の女性と小さいが負けん気の強そうなショートカットの人間の女性。二人のメイドが掃除道具を持ってバスルームの方に入っていった。

 なるほど、確かにあちらには朝方掃除に来たメイドたちは入ってなかった気がする。

 しばらく水音やブラシの音、掃除する音に混じるメイドたちのよく聞き取れない声を聴きながら早く終わって帰ってくれと切に願う。

 

 それがいけなかったのかもしれない。

 

「終わった、早く退散!」

「は、はいぃ、まってぇ」

 バスルームから出てきた二人が早足に扉に向かっていく。

 その道すがらに、背の高い方の頭横に生える角が進行方向にあった鳥籠にぶつかって引っかかった。

「ひゃっ!?」

「ちょ、ばか!」

 引っ掛かり弾んだ鳥籠。スタンドから外れて飛んで、中の私ももちろん宙に浮く。その鳥籠が勢いよく掴まれたのか制止すると、その衝撃で開いた籠の扉から私は外に放り出された。

 ドッ、と私からしたら結構な衝撃で絨毯の上に落ちる。そのまま数度バウンドして転がった。

 骨は折れてなさそうだが、痛い。

 そういえばさっき、魔王様。指を鳴らしていなかった。魔法をかけ忘れていたらしい。

 力を込めて起き上がろうとするも、衝撃のせいかうまく体が動かない。どうしよう。そう思っていたら、上に影ができてゾッとする。

「やば……ど、どうしよ。王様のペット……!」

「ご、ごめんなさい私のせいですぅ……!」

 上から声が降ってきたと同時に、勢いよく掴まれて持ち上げられる。視界が回る。気持ち悪い。

「骨とか、折れてないよな?」

「小妖精は脆いとしか……!」

 一人の手に持たれたらしい。腕とかをつついて確認してくるが力が強い。痛い。

 悲鳴を上げたいところだが、私の声は普通の小妖精とは違う。顔を顰めて耐えるしかなかった。

「す、すごく痛そうですぅ……」

「だよねぇ……メ、メイド仲間に治癒魔法とかかけれる奴いる?」

「軽いのならできる子が数名いますけど、見せるんですかぁ!?」

「このまま置いとく方がダメだろ!?」

 いやいっそおいて行ってくれ……その方が私としてはすごく楽。呻いて痛みごまかせるから。

 しかし私のそんな思いは届かない。私を持っていたらしい一人がもう一人に私を手渡し、鳥籠をスタンドに戻して、中のものを整え始めた。

 クッションの上に、布をこんもりと中に何かが入っているように盛って、偽装工作をしている。

「エ、エラさんん」

「情けない声上げんなチェルル! 怪我したまま置いとくより治してクビ覚悟でお返しした方がいいに決まってんだろ! 腹決めろ!」

「うぅ、ごめんなさぁい」

 外に二人の声が聞こえていないようなので、ぼそぼそと小さな声で話しているのだろう。痛みで意識が朦朧としてきた。だめだ、ここで意識落としたら危ない。

「とりあえずこれにくるんで持ってくぞ!」

 勝気そうな方がきれいなタオルを広げて見せ、その上に私を持っているらしい魔族のメイドが慣れない手つきで私を転がす。

 いやほんと魔王様扱い上手かったのね。今タオルの上におろされたのにめちゃ痛い。

 指先で突かれて仰向けにされ、タオルの天井が降ってくる。ぎゅむ、と結構力強いそれに痛みが増す。声を出すまいと唇を思い切り噛んだ。鉄錆っぽい味が舌先に広がる。

 痛みで一瞬覚醒したが。何も見えない中で感じた浮遊感と、落下している感覚。そして落下地点にタオルが落ちたのだろうその衝撃で、私はあっけなく意識を体を包むタオル同様白く染めてしまっていた。

 そして気づいたときには。全く知らない場所で、全く知らない複数の女性の顔に見下ろされていた。

 声が出そうになって口をふさぐ。

「起きた! あぁよかった」

「小妖精を治療なんてしたことなかったから不安しかなかったわ」

「ちょっとチェルル! とんでもないことしてくれて!」

「ペット様ごめんなさいぃぃぃ!」

 すげぇ賑やか。耳がいたい。

 特に横。羊角のチェルルと呼ばれるメイドが私の寝転がってるんだろう台に手をついて近いところに顔を持ってきてえんえん泣いている。

「いやでも本当どうやって返すの? 掃除中にペット連れ出したなんて下手したら誘拐よ。それもこんな貴重な種を」

「アタシ人間だからよくわからんのだけど、希少って? それ風の小妖精じゃないの?」

「王のペットをそれだなんて言わないで頂戴!? 私たちの首もほんとに物理的に飛ぶわよ!?」

「これは天属性の滅多に見ない空の小妖精ね……この薄い氷のような羽の色と翼みたいな形状の翅。そして全体的な水色系統のカラーリングが特徴なのよ」

「そ、そんな珍しいのか……」

 

「ちなみに魔力量にもよるけど、一説だと国が買えるほどの金額で取引された話もあるらしいわよ」

 

 数名のメイドが息をのんだ音が聞こえる。

 とりあえず身体の痛みは何とか消えてるようだが、これどうしよう。

 おそらく私はメイドの詰め所あたりに連れてこられたんだろう。どうにかしてアルベヌのところに行かなければ命が危ない気がする。

 

「本当に返さないとだめなの……? いっそ、逃げたことにしてしまえば簡単じゃない……?」

「は!? いやでもこいつ今まで逃げる素振りもきっと見せてないぞ!? そんなの無理だろ……!」

 

 言うと思いましたー! 絶対一人はこういう子いるよねー!!

 いやほんとどうしよう……飛べたら楽だったんだろうが……飛び方も魔法もまだ何も教われていないため、ここから逃げる方法も浮かばなかった。

 

「と、とりあえず私たちまだ仕事あるじゃない? 小妖精をかわりばんこで勝手にどっかいかないように見張って、仕事を終わらせたら王様のお部屋に連れて行って誠心誠意謝罪するっていうのは……?」

「い、今持って行かない……? 早い方が」

「少しでも首の皮はつながっていたいじゃない……!」

 

 メイドたちの言葉にどれだけ魔王様怖がられてんだろう、と思案する。自分に対する態度や向けられる顔を思い浮かべて、そんなに内面怖いかなぁと考えるも。おそらく自分にだけ言われているだろう言葉を思い出した。

 あの魔王様はよく、私に特別だと言ってくる。刺激を与えてくれる面白い存在だと。そして、体躯の違い故にペットのように扱われているような気もするが、友として扱ってくれているらしいし。

 ぼんやりと普段とは違う天井を見上げながら考えていた矢先。

「じゃぁはじめアタシが見てるから、みんな行ってらっしゃい」

「エラ、よろしくね……! 他みんな魔族で小妖精をかわいがるのがよくわからなくて……!」

「できるだけ頑張って接しては見るよ……というかお前らよくこんなお人形みたいなの口に入れれるな?」

「物心ついた時からそういうモノって言われてるんですぅ……!」

「あぁハイわかったわかった。早いとこ一つ終わらせてきな!」

 賑やかな声が響いて、そちらを見れば簡素な扉から色とりどりの頭が押し出される。扉のあたりで団子になっていた大多数を押し出した小さい姿が戻ってくると、少し困ったような顔をして座すような動きをする。ここはどうやらテーブルかなんかの上らしい。

 そういえば。こんなに近くで女性を見るのはこの世界で初めてのような気がする。

 向こうも私をただただ見つめているし、しばらく無言の見つめ合いが続いた。

「え……と、言ってわかるか、わかんないけど。私は人間だし冒険者でもないから、小妖精なんて食べたこともないんだ……アタシは、アンタ食べたりしないからさ……それと、痛かったよな。ごめんな、うまく扉抑えられなくて」

 少しして、困った顔のままで子供に言い含めるように声を上げてくる姿に、半分は魔法かけ忘れた魔王様のせいなんだけどなぁと思いつつも、視線を向けるだけで反応はどうしよう、と悩んでしまう。こういう場合、ある程度意思疎通は取れている方が楽だ。向こうがこちらに害意がないのはわかってる。この詰所らしき場所に、私を危ない目で見てくるメイドはいなかった。いくつかグループが分かれているんだろう。もしくは派閥のようなものなのかもしれない。

 でも下手に言葉がわかるのもばれると変な噂も立ちやすい。それにさっきの話を聞いていたら、魔王様しか知らない秘密を知った瞬間斬首なんて突飛な想像をこのグループの人たちはしてしまいそうだった。

 とりあえずと寝ている状態から体を起こす。長時間寝ていたのか、背中の骨がパキリとなった。これ、魔王様もう部屋戻ってんじゃないだろうか。私が怒られるかメイドが怒られるか、はたまた両方怒られるのかと遠い目になったところで、横で重い音が響く。

 そちらを見れば机の上に肘から先を置いて、その上に頭を顎を乗せてこちらを眺めるメイドさんの顔があった。

意外と時間が取れました…('ω')

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