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小妖精に転生したら魔王のペット(友達)になりました  作者: 須野 リア


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第74話 「見つかった」

 どれくらい時間が経ったのかよく分からない。

 上から二人の食事をする音は聞こえなくなったから、食事は終えたんだろう。

 気が付けば、周りの喧騒も増えていた。耐えきれないことはないけど私には少し辛い騒音といった感じに店内が賑やかになってきていて、せめてと片耳を膝に埋める。それと同時に、大きなものが動く音が割と近くで聴こえて。

「あ、おかえりなさ――」

「アレはどうした」

「っ! す、すみません。ここに……!」

 ユウナちゃんが声を上げたことでアルベヌが帰ってきたと理解するが、言葉を遮った上でにべもなく言われた言葉に彼女が身を震わせたらしい。私がいるところが大きく揺れ動く。

 少しばかり明るくなったのを瞼越しに感じて薄く瞳を開くと同時に、床がふわふわと不安定なものになった。私を包んでいる袋がつまみ出されたらしい。

 ハンモックとか使ったことないけど、こんな感覚なのかな。だとしたら少し怖いかもしれない。

 居心地が悪く揺れる空間に目の前の布の壁を掴む。少しブラブラと揺らされたのち、ユウナちゃんの手とは別の慣れ親しんだ温度の床が下からやってきて。私は袋の中でぺたりとそこに座り込んだ。

「雑過ぎる。もう少し丁寧に扱え」

「ご、ごめんなさい……!」

 どうやらユウナちゃんがアルベヌに私を差し出したらしい。同時に私の周りの布が影に入ったかのように薄暗くなり、たわんだかと思った瞬間に体全体に迫ってきて揉みくちゃにされ始める。

 待って待って怖いやめて。

 思わずアルベヌの指だろう、身体を外から探ってくるものをべしりと叩いて反抗すれば頭を袋越しにつつかれ、布が離れて圧迫がなくなった。それから、頭上で何かが擦れる音が響き出す。

 天井のすぼまりを見上げればその中央から鋭利な爪の生えた指先がふたつ差し込まれ、それぞれの指が分かれれば袋の口も広がった。先ほどのように丸く開かれた天井の向こうに、アルベヌの顔が見える。

 狭い袋の口から私を見下ろして様子を見てくる彼に口パクでおかえり、と伝えれば。大きなご尊顔の口角が僅かに持ち上がった。

 袋の口をいっぱいまで広げ、彼が手を差し入れてくる。私の視界が肌色で埋め尽くされて、その手に握られると上に持っていかれるような感覚。

 動かされながら、袋に入れられる前に感じていた温さがまた私を包みだした。また肩に戻そうとしているらしい。足裏が彼の肩だろう場所に触れれば、緩やかに開かれる大きな手。その動きに合わせてバランスを取り、ゆっくりと元のように座れば指先が私の身体をなぞった。拘束魔法を掛けていた足に触れれば、トン、と軽くそこを叩かれる。

 瞬間に黒い色のひものようなものが私と彼の肩を繋げて、拘束魔法が再びかけられた。

 それを指先でなぞり、ちゃんとかかっていると触感で感知した手指がゆっくりとフードから出て行く。

 また先ほどのような視界が戻ってきて、私はユウナちゃんたちを眺めてから下のテーブルを見下ろした。大皿は奇麗に串だけを残して空になっている。

「特に騒ぎを起こしていなくて安心した。分別(・・)もついていたようだな」

 アルベヌが二人を見ながら独り言ちるように呟きつつ、持ち上げたんだろうカップを口元に持っていって一息に呷るような飲み方をする。カップが私の視界から消えれば、指先が彼の口元を擦り拭ってから立ち上がった。唐突な動きに思わず彼の髪を捕まえる。

「出るぞ、立て」

 アルベヌが端的に二人に声を掛ければ、ガタガタと立ち上がる音がする。彼の頭がそちらに傾いている時に、近寄ってくる足音が響いてきた。

「お客さん、手洗い? それともお帰りで?」

「こいつらの腹も膨れたみたいだからな。勘定を頼む……これで足りるか?」

 アルベヌの身体、というより私の座っている肩が動いた。チャリ、と軽い音も聞こえるから金銭の受け渡しをしているんだろうと考えて髪を捕まえたままでジッとする。 

「ちょっと多い気がするけど、鉄貨はない?」

「釣りが出るならそのままそちらのものにしてくれ」

「ぉ、兄さん太っ腹だねー。ありがたくいただくよ。またきてくれな」

「あぁ、気が向いたらな……お前たち、仕度はできたな? 行くぞ」

「は、はい」

 聞こえた会話を聞き流しつつフードの中で流れる風景の動きを見て、アルベヌが店外へと歩みを進め始めたのがわかる。その後ろから彼より軽い足音が二つ追いかけてくるのも聞こえる。

「……?」

 その足音の中に妙な音が混じっている気がして私は思わず振り向いてしまうが、アルベヌのフードの中なので何かが見えるわけもなく。

 気のせい……? なんか、足音に合わせて別の足音が重なってるような音した気がしたけど……? まだ店内から出てなかったからの勘違い……?

 妙に胸騒ぎを覚えてしまうも私は身動きが取れないので。アルベヌの髪を思わずギュッと握りしめてしまう。

 気にしている内に周りの喧騒も店内ではなく通りのものに切り替わっている。顔を前に向ければ、少し多くなった人通りが見えた。だけど遠目の景色の中でも子供の姿はあまり見えず、大人ばかりな気がする。

「……まだ日は高いが、事件のせいか……国としてはあまり良くはないな」

 アルベヌも気づいたのか、嘆息交じりに声があげられる。

 そう言えば、変なことをされないように商人とかは徹底して取り締まってるみたいなのにこんな事件……心中穏やかじゃないだろうな……と考えて彼を見るが、今私に見えるのは彼の首筋から耳といった側面しか見えないのでどんな表情をしているかはわからなかった。

 しばらく前を見て歩いていたアルベヌが、ふいにピタリと足を止める。頭を緩く後ろに向けるように傾けて少しした後に頭を前に戻していた。

 

「お前たち。見失ってはぐれた、などという言い訳は聞かぬからな」

「え?」

 

 顔を戻してすぐに、ユウナちゃんとコウヘイ君に言ってるんだろう言葉が大きな唇から静かに零れる。

 後ろの二人が思わず上げた小さな疑問の声に反応することもなく、彼は勢いよく方向を変えた。その動きに私の身体も持っていかれて、彼の首筋に身体を打ち付けるように凭れかからせる。

 同時に後ろから慌てて追い掛けてくる、二つの足音とそれに混じって聞こえる音に私はビクリと身を震わせた。


 勘違いじゃなかった。何かが私たちを尾行している。


 私が身を強張らせながらも視界に映る景色は、どこかの路地裏にでも入ったかのようだった。少し薄暗く大通りより狭い通路を、右へ左へと曲がりながら足早に動き進んでいくアルベヌに翻弄される。

 きっと彼も気づいたからこそ、こういう場所に入ったんだろう。当てもなく歩いているような彼と似た視点で外を見ている私の目に、開けたところが映った。

「……おい、行き止まりじゃん」

「へ、ぁ、アル様……!?」

 コウヘイくんとユウナちゃんの声にアルベヌが嘆息をこぼす。

「気づいてないとはまだまだか。情けない……

 腹ごしらえは済んでるんだ。力くらいは出るだろ? 仕事(・・)だ新人。荷物は私に。お前たちはこれをもて」

 呆れたように言葉を吐き出しながら、二人の方に身体を向けてからパチン指を鳴らす音がする。

「っ、わ」

「木剣?」

「何に目をつけられたか知らないが、ずっと付き纏われていたようだからな……準備はした。しっかりと主を守れよ?」

 言いながらアルベヌがまた動き出す。それから何かに座るような動きをしたのか視線が低くなった。そのまま彼はユウナちゃんとコウヘイ君を見つめたらしく、二人がしっかりした作りの木剣を握ったまま呆然とこちらを――アルベヌを見つめ返しているのが見えた。

「え、付き纏われて……って」

「嘘だろ」

 二人が顔を見合せ、周りを探るように見回し始めて。それと同時に私はなんともいえない感覚に身体を震わせる。

 なんだろう。なんか身体を知らない誰かに触られているような。何かがズルズルと肌に吸い付きながら這い回るような、体全体をそれで覆われているような。

 ヒタヒタと温度のないものに無遠慮に触られ続けているような気持ちの悪いその感覚に、アルベヌの髪を巻き込んで自身を抱きしめるように動いてしまう。それを感じたのか、アルベヌの顔が僅かに私に向かって動かされた。

「……耐えろ。すぐにどうにかしてやる」

「っ! ……アルベヌも感じてる……?」

「魔力を探られているな……魔道具か何かだろう。

 我を探り、その流れでお前に気づいた――……?」

 ボソボソと声をかけてくれていたアルベヌが言葉を途切れさせる。暫く無言で顔を僅かに傾けていたが、やがて彼は怒気を孕んだ盛大な舌打ちを一つ零した。

 

「……訂正だ。お前()見つかった」

 

「え」

「我のほうにあの不快感はもうない。一体どこに紛れ込んでいたやらだな……相手がどこの者か容易(たやす)く分かる」

 不機嫌そうに吐き捨てられる言葉に呆然と私が声を上げれば、彼が苛立ちを隠しもせずに言葉を漏らす。

 紛れ込んでた? これしてるの誰かわかったの……? でも、え、なんで私?

 身体にまとわりつくものが拭えないどころか強まっていく。そんな感覚に背がぞわりとする。気持ち悪い。胸がバクバクと音を立て始めた。未知の感覚に恐怖し身を震わせていた時に目の前の光が翳る。思わず身体をビクンと大袈裟に震わせてそちらを見れば、彼の手が私のところに伸ばされているのに気づいた。気持ちの悪い感触を上書きしようとでもいうのか、私に触れて撫で始めてくる。私が見えていないからこそ少しつたない動きをするその指を抱きしめるように捕まえてしまうも、解かれたりはしなかった。何にも傍にないのに(まさぐ)られるような感覚を少しでも軽減したかった。自分以外の実体がある何かが肌に触れているっていう事実があるだけで、多少紛れる気がしたから。

「お前の魔力を無理やり探り暴いているからな……気持ち悪いはずだ。だが、命に危険が及ぶものではない。あくまで探るだけのモノのようだからな……

 そこで吐いても良い。ことが終わるまで耐えていろ」

「探り暴くって……」

「お前が本当に天属性か否かであるかを念入りに調べてるのであろうな」

 待ってその話聞いたらちょっと私もこれ誰というより何処が仕向けてるのか、っていうのが少し予想ついた。

 

 ふざけないでくれるかな。イレインさん達が見つけきれなかった残党がいたのか、それともまたひっそり入ってきてたのか。しつこいぞ帝国の人。

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