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小妖精に転生したら魔王のペット(友達)になりました  作者: 須野 リア


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第39話 「これどんな状態?」

穂花視点に戻ります。

 ドグン……ドグン……

 僅かな鈍い音と微弱な振動を背から感じ、温かく仄かに暗い空間で目を覚ました。

 視線の先には布っぽい天蓋がある。ここどこだろう、と考えつつも起き上がろうと身体をよじるが上手く身体が動かない。テーブルの上の別の小妖精の身体に入って、アルベヌに気づいてもらえて助けられた……はず、なんだけど。よくわからない状況に寝起きの頭で考えている最中に寝転がっている場所の少し上から、ゴッ、と妙な形容しがたい音が響く。そっちの方を向こうとしても首の可動域には限界があるので、そちらをうまく見ることはかなわなかったが。

 

「ん、起きたか……」

 

 そんな動きをしている中で私を寝かせた張本人の声が響き、目の前にあった天蓋が取り払われる。視界に入ったのは、見慣れてきた天井だった。左右を見れば私の寝転がっているところは肌色で、ミチミチと妙な音を立てて寝転がってるところが少し傾斜になる様に動いたのを感じる。

「気分はどうだ」

 瞳を瞬かせてさらに投げられた声の方を頑張って見上げれば、こちらを少し上から覗き込んでいる普段通りのご尊顔があった。もう黒いモヤみたいなものも全く見えない。

「普通」

「なら良い。災難だったな」

 特に気分が悪いわけでもない。端的に今の気分を述べれば手指が伸びてきて、私の身体を撫で始めた。指先を目で追いかけて見えた自分の体は、あの光る紐のようなもので胴体を固定されてはいたものの。しっかりと元の自分のモノだったので安心してほっと息を吐く。

 そういえば、あの子はどうなったのだろう。

「ねぇ、あの子は……?」

「あぁ……最後の処刑中だな」

 処刑。思わぬ言葉に身を震わせると、指先が頭を撫でてきた。まるで幼子をあやすような動きだが、反抗もせずに大人しくその感覚を受け取っていれば頭から離れた指のある手が私の腹部から下の身体を覆うように被せられる。

「お前はあれに殺されるところだった。気にする必要は無いだろう」

 確かに、彼が気付かなければ私がこの大きな身体に殺されていた。無理だと思って何のアクションもしていなかったのに、血を吐いてぐったりと横たわっていただけの姿でよくわかったなと考えて口を動かす。

「なんで入れ替わったの分かったの? 声も出せなかったのに」

「もう何度も言ってるが、我は悪魔とラミアのハーフだ。悪魔とは元より魂をある程度操作できるようになっている。それゆえ個人個人の魂の色や形が意識すれば見えるものでな。唐突に雰囲気が変わったからおかしいと思って見てみたら、大当たりだ」

 思い出してイライラしたのか、ドンッとどこかが殴られるような音がする。少し私の身体が揺れた気がするから、もしかして自分の身体叩いたのだろうか。なぜ? 痛くない? なんでそうしたのかは分からないが、どうやら相当怒ってくれているらしい。今度から対処できるように魔法の勉強が始まったら頑張ろうかな……座学系はあまり好きじゃなかったけど……と意識を改めた所で、ふと思う。

「あの、ところでこれどんな状態?」

「共寝のための魔法を使用させてもらった。

 これならば我が手で潰してしまうこともあるまい」

 何となく理解はしていたが、やはり昼に寝ていた時のようにアルベヌの身体……胸元に私の身体が固定されているらしい。背中からくる断続的な鈍い音は心臓の鼓動音だなと理解して脱力する。起き上がろうとしても胸から下があまり動かないのだから、諦めてまた身を預けるしかない。

「アルベヌは今何してるの? 軽く寝そべってるみたいだけど」

「お前の寝姿を見ながら酒を飲んでいた、と言ったら?」

「私をおつまみにしないでね」

「ククッ、残念だ」

 からかい混じりな言葉に動く手で被せられている指の一つを叩いて返せば、バチンと私に添えられていない方の指が鳴らされる。同時に私の身体を支えていたモノがなくなったのか、ズルリと少し滑り落ちた。ゆるく被せられていた手指の作る簡易なトンネルに胸元まで沈み込む。

 その中で身体の向きを変えて匍匐前進をするような体制になり、少し体を這い出させてから改めてアルベヌと向き合えば、ちょうど私を見つめて蜂蜜色に見える飲み物を飲んでいるところだった。冗談かと思ったらガチで飲んでたこの人。思わずジト目を向けてしまえば、ククッと笑う声がかすかに聞こえた。

「寝姿も良いがやはりお前の表情豊かな顔が良いな……こちらの方が酒が進みそうだ」

「お酒だけは身体に悪いよ絶対」

「ちゃんとした肴も一応はあるぞ?」

 グラスを持っていく腕の動きを顔で追いかける。

 テーブルの上に酒の瓶らしきモノと乾き物やチーズだろう四角いモノが乗っている皿が1つ。

 あと1つ、既に空になっている黒っぽいソースだけ残っている皿とその上に転がるフォークがあった。

「……結構、飲んでる?」

「だろうな」

「身体大丈夫……?」

「治療魔法でどうとでもなる」

 喋りながら角切りにされたチーズをつまんで口に持って行こうとし、動きを止めてそれと私を交互に見つめた後に薄らと笑みを浮かべて私に差し出してくる。

「え、なに」

「……食べさせてくれないか?」

「えええ……私までバクンって行かないでよ……?」

 私にとっては自分の頭くらいあるおおきな四角いチーズの塊。手の中から這い出して座り込んでからそれを受け取った後に愉し気に言われた言葉に、なんてお願いしてきてんのと考えつつも命の恩人だしと軽く頭を俯かせて考えてから彼の言う通りに動いた。

 緩やかな傾斜になっている胸板の上を膝と片手を使って進み、その動きを視線で追いかけるように眺めているアルベヌはグラスをまた口につけて飲んでいた。ゴッ、と形容しがたい音に起きたときに聞いたのと似た音だと気付くと同時に大きな喉の前面が上下するのを見て、これ嚥下音かと理解する。彼がグラスを口から離して少ししてから顔の傍にたどり着いた私は、彼の下顎をペチペチと軽く叩いた。

「口開けて。入れれない」

「……ぁ」

 催促すれば僅かな声と共に口が開かれて中から飲み物の残り香が香る。色と同じで、蜂蜜のような甘い匂いだ。

 前に私をその中に含んだことがある赤黒い洞窟が眼前に広がる。唾液を纏わせた舌が軟体生物を思わせるように伸びてきて、その上にチーズを転がらないように乗せれば、唇が閉じ始めた。

 挟まれないように手を引き抜いたときに下唇に触れてしまう。ふにりと柔らかい感覚に一瞬固まったが、私の小さな手が掠められた程度の微々たる感覚など感じていないかのように目の前の大きな口は咀嚼する動きを始めた。モノを噛む音や粘着質な水音が数秒響いて、それから視線や意識を外したくて上を見上げる。そこで緩まっている金色の双眸が自分を見下ろしているのに気づいた。

 視線が合って、大きな瞳が細まる。やがて飲み込む嚥下の音が響いて、目の前の唇を中から出た舌が舐めたのを視界の端に捉えた。

「ん……これはいいな」

「……美味しいの?」

「お前の魔力が少し移ったみたいだからな」

「ちょっと? 私、調味料じゃないんですけど??」

「冗談だ。そうむくれるな? 幼く見えるだけだぞ――……」

 愉しそうに私を揶揄い声を発していた所で何かを知覚したような。そんな顔をして私から視線を外した彼の身体が動く。その視線を追うように体の向きを変えた私から見えたのは、人間と人体構造が同じであるなら彼の胃の真上に当たるだろう部分に片手を置いて、ググッと押し込み始める不思議な光景。何をしてるのかと首を傾げた私も覆うように反対の片手を添えてきては、押し込むだけでは足りないと言わんばかりに上体を起こし思い切り身体を丸める。手のひらに寝転がる形になった私は一体何をしているのか全く分からずに身を任せていた。

 やがて巨躯は身体を元のように寝転ばせ、私も解放される。また先程の鎖骨程の位置に座り込んだ状態で疑問の表情をアルベヌに向けた。

「……何してたの?」

「……処刑場を少し整えていた」

「処刑場……? …………!?」

 彼の言ってる言葉が理解出来ず、言葉を反復した私だったが。やがて空の黒っぽい物が残る皿を見てからまた酒を飲んでいる、ほんのりと頬が朱に染まりつつあるご尊顔を見上げた。

「食べ……?」

「前も言ったはずだ。それに、体験もしているだろう」

 否定は無い。それに私も食べられかけた覚えはある。言葉が出ない私に無言で差し出される、干し肉の一欠片(ひとかけら)

「お前を殺そうとしたんだぞ? 殺される覚悟はあって然りだ。どんな方法であろうがな。

 我の胃の腑で、ジワジワと消化されていくように防御膜を掛けてから飲み込んでやった。他の食い物とは違う速度で溶けるようにな。中でそれらが見えるのか、我にはわからんが……見えるならそれを見せつけて阿鼻叫喚に叫び狂って暴れてもらったほうが良い。その方が腹に収めた立場としては楽しめる。あのような虫を食べる魔族は皆そうであろうな」

 当たり前のことを言うように言われた言葉に頭が一瞬真っ白になった。

 普段なら言わないようなことを平気で言ってくる姿に、あぁ酔ってるんだなと現実逃避のように考えてしまう私と、根本的に生物としての規格が違うと叩きつけられたような気持ちを持つ私が混ざり合う。私は今どんな顔をしてるだろうか。目を見開いてるのはわかるが、表情がわからない。

 差し出されている干し肉を受け取ればアルベヌは口をかぱりと開けてまた先程のように舌を差し伸ばして催促してくる。

 持たされた干し肉を先程のチーズ同様に舌に載せれば口が閉じられて、目の前でまた咀嚼され嚥下された。

 よくよく耳をすませば、キュルル、コポンと小さいからこそ聞こえてくる消化器官の動く音の間に何やら高い音が差し込まれてる気がする、が……あえて聞こえていない、と思うことにした。

 

︎︎ だって、ここで規格外なのは彼や他の人達ではなく、私なのだ。

 

 私的には食べる必要ないだろうとか私もそれと同じ種族なんだからやめてとか声を上げたいとは思う。けれど、今までしていたことをやめろと言うのも後から転がり込んできた特異体の私が言う方が筋違い甚だしいのだ。何度も思うように、当たり前にやっていることを今更やめるなんて無理な話だから。

 

 だから。否定も肯定もしない。

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