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小妖精に転生したら魔王のペット(友達)になりました  作者: 須野 リア


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第37話 「……そそられんな」

穂花を眠らせた後のアルベヌ視点のお話。

文字数が多くなったので2話に分けています。

血の表現などが続きますのでご注意ください。

 手の中で甲高い音を発するホノカだった身体を見下ろし、手の中で普段ならやらないような身動ぎをするその小さな身体を握り締めた。自分の中ではまだ軽い方だが力を込めればパキパキと手の中で砕ける小気味よい感覚がして、甲高い悲鳴が上がる。

 耳障りでしかないその音をもっと出させてやろうと力を込めていけば、だんだん弱々しくなってきて。その様子に瞳が自然と細まった。

「なんだ、先も言ったが我はお前を愛でてやっているだけだぞ? あぁ、分からないのだったか。共通語も理解できない虫ケラだものな?」

 手の中でぐったりとし始める片手のひらに収まる大きさしかない小さな身体を考えもせずに身勝手に触る。

 肩を押し込むように撫でれば、ぽきんと何かが折れた感覚がした。

 瞬間上がる悲鳴に眉根を寄せたところで、チラと手の中のではなく机に転がして拘束魔法を使用して磔にしている睡眠魔法で寝かせた別の小妖精の身体を見下ろした。

 ボロボロの蝶翅を持つホノカと同程度の体躯の別個体。

 全体的に色鮮やかなカラーリングに、大地の属性の花の小妖精だろうと分かる。その姿を少し眺めて瞳を細め、苛立つ感情を顕にまた手の中の煩わしい虫を見下ろした。

「まさか、虫ケラが魂にまで干渉できる術を持つとはな。良い勉強になったぞ……? 誠、腹立たしいことだ……! おかげで大事な小鳥をまた! 我が痛めつけることになったではないか!」

 外側はホノカだが、中身が違う。苦痛から逃れようと元々はテーブルにいる身体を持っていた魂が、大事な友の身体を無理やり奪った。ジッとホノカを見ていたから目を合わせることが絶対条件なんだろうと当たりをつけて、少ししてからホノカの入っている身体を寝かせた。ホノカが寝入ってからしばらくして見ようとしなくなったのでそう確信する。

 同族ゆえに耳障りな鳴き声も理解出来るらしいホノカに助けろと訴えていたようだが、聞き入れられなかったことに対する仕返しといったところかもしれない。喋らせないように痛めつけていた最中の入れ替わりだった。いらない苦痛を与えてしまって苛立ちが募る。


 雰囲気が変わったから違和感を覚えて、悪魔の能力を使って魂を覗いたのが功を奏した。


 ただの諦観や諦念だと決めつけてあのまま続けていたら、我は友を自分で殺していたことだろう。それだけにいくらホノカの身体と言えど手の中の虫に何もしない訳には行かなかった。

 力を音がするまで込めて握り締めれば、ブチュリと手の中の身体や翅の付け根がへしゃげるのを感じた。

 指の隙間から血が滴った。ホノカには事前に身体を痛めつけるとは眠らせる前に言っているから問題は無いはずだ。しっかりと治癒も勿論する。

 耳障りな悲鳴も弱々しくなってきた。手を開けば握り潰された箇所が真っ赤になっている姿が見える。

 ホノカの身体に違いはないのだが特段可愛がりたいとも思えない。

 

「……そそられんな」

 

 付け根が圧迫で潰れ壊れたことで魔力翅が形成されなくなった。手の中にいるのは、もはや小妖精でも何でもないただのホノカにそっくりなのたうつ虫でしかない。

 潰れていた片足の血肉が剥き出しの箇所に指を押し付けて、捏ねるように指先で肉や骨を挟み潰せばまた元気よく声が吐き出された。

「まだ声が出るか、元気なものだなぁ?」

 指先に付着したものを舐めとってから手の中の虫に口を寄せて、捏ね回していた赤い肉に舌を這わせる。相当痛いらしく更に甲高い声が上がり、無事だったらしい足で顎が蹴られた。対して痛くもなんともない。そして中身が違っても多少魔力の名残はあるらしい。舌で感じる血肉はホノカの元々の魔力を帯びていたし美味だった。また味わいたいと思うほど極上で、魔力の質が良すぎることがよく分かる。

 まぁ、この友のことだ。問いかけたとして、元通りに出来るなら嫌だけどいいよ。嫌だけど! と言いながらゲンナリとした顔で身を任せてくれるに違いは無いだろうが。彼女は優しすぎるところがある。

 もっとも、許されたとしても魔力を普段通りに食ませてもらうだけで本当に噛んだりするつもりはないが。

 口の中に戻した舌に残る味を堪能しつつ思案している間にも、手の中でさすがに限界が来たのか痙攣を始めた身体に治癒魔法を掛け始めた。身体を壊しては元も子もない。ホノカの帰る身体がなくなってしまう。

「まだ溜飲は下がりきってはおらんが、身体の方が限界なようだからな。そろそろ終いにしてやる」

 身体の治癒が終わったところで、逃げようとする身体の細く小さすぎる首から肩に掛けてを人差し指と親指を巻き付け固定する。ジタバタと動くその動きは本当にホノカとは違って嫌な気持ちになってくる。目に毒だった。

「言ったろう? 遊びは終いだ。ハーフとはいえ悪魔族に魂の術で喧嘩を売ったことを後悔するといい……その身体から引きずり出してやろう。虫の矮小な魂とはどの程度の大きさだろうなぁ?」

 トン、と指先を小さな胸部に押し当てて魂に直接触れる悪魔族の能力の一つを利用して指を沈み込ませる。内部を指で(まさぐ)り始めて爪先に引っかかるものを探り当てて、そのまま爪で引っ掛け引っ張り出す。

 爪に引っ掛かり出て来た白い球体が一部を引き抜かれた胸部に張り付けてビンと伸びて離れまいとしてくる。往生際の悪い。

「その体はお前のものでは無い。我の友のだ。諦めろ」

 爪で引っ掛けていた動きから指を追加して、小ぶりな飴玉程の大きさの球体を摘み挟んで思い切り引っ張る。

 ベリッと音を立てて剥がれた魂を見つめれば、甘ったるい花の臭いが鼻を掠めた。

「やはり、友以外の小妖精はヒトとして見れんな」

 ポイ、と軽い動きで魂を口に放り込む。飴玉のようなそれを舌で舐め上げ、やがて前歯で挟み込んで噛み割って裁断した。口の中で鈴音のようなものが響いては甘ったるい味が広がってげんなりとする。

 音が落ち着いてから二等分になったそれを口から出して観察し、声を出しているような感覚がする方を指に残して残りはまた口に入れて飲み下す。魂をどんな形であれ崩したり切ったりするのは悪魔族の特権のようなものだ。魔力の殆どを分離させるように弄った。小さな身体には塵程の魔力しか残らないだろう。残りは全て食べた訳だが、気持ちが昂っているせいもあってか腹の足しにもなりはしない。

 そこでようやっとテーブルの上の身体に指を伸ばした。寝ている小さな頭に元の持ち主の魂を押し込み入れると同時に、胸部からコロンと淡い空色の人差し指と親指で作る円程の大きさの球体が転がり出る。

「……はっ……小妖精のはずなのになんて大きさだ……元々人間だったせいもあるのか……?」

 人間に近しい種や魔族の魂は片手に少し余る程度の大きさであるし、従来の小妖精は先程のような小さな飴玉サイズと先程わかった。それだけ言えばこの魂の大きさの異常が分かるというもの。

 魂だけでも悪魔族なら会話は可能だが、呟いたところで今この魂の持ち主は眠っているためなんの反応もない。

 友の魂を摘み上げ、掌にころりと転がしたそれを指先で撫でる。

「待たせているが、もう少し待っていろ。出来れば今しばらく、起きてくれるなよ……?」

 言いながら球体を反対の手に乗せている元々の身体に押し当てれば球体はすんなりと身体に溶け込んだ。自然と上に被さった手が小さな身体の呼吸の動きを感知して、ほう、と安堵の息をつく。

 そうしてテーブルのクッションに小さな身体をそっと転がして起きないのを確認した所で。

「この者に静寂を」

 ボソリと術を唱えて、ホノカの周りに遮音の膜を張る。これで大きな声が上がっても起きることは無い。

 そう考えてから机に拘束している虫を見つめる。先程ホノカの身体の血肉を舐めてしまった影響か、少し何か腹に収めたくなってきていた。しかしこのまま食べるのは少し味気ない。何よりもの足りない気がする。

「外の。誰かいるか」

「はい、陛下」

 声を上げた所で扉が開く。現れたのはメイドのティレナだった。

 もう夜遅い時間だ。それ故に扉横の警護役が来ると思っていたために思わず目を丸くする。

「ティレナ。まさかずっといたのか?」

「はい。食事の時は離れておりましたが、一応控えてはおりました……御用はなんでしょうか」

「あぁ……厨房の者に酒と(さかな)を用意して欲しくてな。

 あと別にこれが乗る皿と……フォークだけでいいか。持ってきてくれ」

「はい……ご希望の種類はございますか?」

 ティレナに問われて辛口のモノでも頼もうかと思ったが、口の中の甘さを思い出してそれをやめる。

 何か別の甘さのもので上書きしたい気分だった。

「……蜂蜜酒(ミード)を。肴は簡単につまめるものでいい」

「かしこまりました。暫くお待ちください」

 ティレナが部屋から一礼して出ていく。ホノカを純粋に嫌悪なく見るこの第3班のメイド達は優秀だった。メイドの班は確か4人構成で20程あると聞いている。家柄や能力値が高い程数が若いと聞いたことはあるが、確かにこの3班の面々、家柄は興味もないため調べてないから不明だが能力値は確かに高い。ホノカを初日に連れて行かれた時に潰していないのもその証拠になる。強く握っただけであそこまでへしゃげる身体を、羽根をちぎりかけた咎で処分した別の班のメイドはともかく。それ以上の怪我をさせることはなく守り通した。最もそれはチェルルなのだが、接していれば1番どんくさいのは彼女だとも理解出来る。それを鑑みれば彼女よりテキパキしているほかの三人も有能であることはすぐに分かることだった。

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