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小妖精に転生したら魔王のペット(友達)になりました  作者: 須野 リア


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第31話 「とりあえず及第点?」

 あれから熱にうなされて。鳥籠だったりドールハウスの中だったりに寝転がされるのが増えて、ろくに動けない。食事はするけどメイドさん達やアルベヌに甲斐甲斐しく、雛鳥の如く世話をされていた私の体感多分1週間くらい。

 

「ようやっと落ち着いた……!!」

 

「良かったが声は落とせよ?」

「はい」

 熱が収まり楽になった私が執務机の上のクッションに久々に連れてこられた後で思わず上げた声に、アルベヌが淡々と言葉を投げて指先で頭を撫でてくる。

 横にいたエラさんも良かったと胸を撫で下ろしていて、彼女からしたら魔力のせいで熱を出すとか意味不明な状態に魔族の同僚達よりやきもきとしていたことだろう。

 私としても意味不明でしたが。この世界の魔力面倒くさい仕様だな。

「さて、魔力が落ち着いた所で他のことも覚えさせたいところだが。まずはそうだな……その翅を飾りにしないために飛び方から教えようか」

 魔力が落ち着いたからか、もう翅から燐光は出ていない。しかし翼は半分実体を持っているような感覚だ。アルベヌは感触が気に入ったのかよく指先が魔力翅に伸びては触れて撫で回してくる。

 ほんのりと擽ったいのでやめてと身を捩れば翅もバサリと震えた。こんな状態のせいでメイドさんやアルベヌに手入れと称してブラッシングのようなことをされたりもしている。あなた方、ただ触りたいだけだよね??

「実体じゃないけど飛べるの?」

「飛ぶ時に魔力で補うと言ったろう? 翼は動きを制御するためのものだ。実際は魔力で浮遊していると言ってもいい」

「ほへぇ」

「わかっておらんな?」

 気のない返事を返していれば、大きな指先が伸びてきてムニムニと頬を挟まれてこね回される。

「んぐぅ……絶妙……」

「くくっ、慣れたものだろう?」

 言われた言葉にむう、とむくれる。挟まれる頬の力加減が絶妙で痛くもないし振りほどけもしない。何となく悔しい。

 今は防音魔法がないのでお互いに少し控えめな声量で初めの時のように喋っている。エラさんは私とアルベヌの聞き取りにくいだろうやり取りを遠目でほほえましく見ているだけだ。

 暫く私の頬を挟んでいた指先が離れて私がそこを擦れば、頬から離れた指先が今度は私の翅を摘まんで軽く引っ張り出す。

「ぇ、ちょ」

「形状的にどうかと思っていたが、動き方は鳥の羽と大差ないようだな」

「そんな変な形状してる?」

 翅を広げて畳んでと動かされて、下手に反応したら折れかねんと私が大人しくしている中で言われた言葉に首を傾げる。

「変ではないが、魔力で練られた翅に違いはないからな。通常と違う動きをする可能性もあった」

 翼に見えるだけで実は骨とかがない蝶翅みたいな動きをする可能性もあったという事か。まぁ宰相さん曰く虫だからなぁ私。それもあるかも。

 アルベヌは手を離し、私をジッと見下ろしてから一つ頷いて片手を差し出してくる。それに首を傾げて見上げれば、私の前のクッションに爪を乗せるように掌を上にした状態のままさらに近づいてきた。乗れと言ってるらしい。大人しく手の上に這い乗って座り込めば手が持ち上げられた。

「この動き方ならばイメージもしやすいだろう。飛ぶ前に背中の翅の動かし方を覚えねば危ないしな……付け根だけに意識して翅を動かしてみろ」

 練習が唐突に始まった。でも付け根だけ意識ってなかなか難しいものが。もともとない部位だったわけだし。

「…………」

「そんな不満そうな顔をするな。鳥の羽ばたき位は見ているだろう?」

 そう簡単にできるか、と見上げた私の顔を見て簡単なことを教えていますと言わんばかりのアルベヌがわずかに頭を傾ける。

 なぜわからん、と言いたげなその表情に私は肩を竦めて背中の付け根に意識を向け始めた。しかし意識を向けても力むのは背中の筋肉ばかりでやはりうまくいくものではない。

「そう力むな。変に痛めるだけだぞ……ふむ、どうするか……」

 反対の手指で私の背中を擦り解そうとする動きを感じつつ顔を俯かせる。くすぐったいときとか反射で動くときの感覚を意識してやろうとすると難しいものがあった。

 何か打開策ないかなぁと考えていれば、また翅に触られる。ひくりと背中と根元が疼いた。

 その動きを見ているのか、背中から指が退かされて翅を重点的に触り出す。

 ゾワゾワとする感覚に翅が震えて触ってくる指を軽く叩いた。

「ふむ……少し荒療治になるが……これならば問題は無いか……?」

「え、荒療治……?」

「翅はしっかりと動いているし、感触もその様子だと感じているな? 後は意識して動かせるようになるだけ……なのだが、それが難しいのだろう?」

 アルベヌの言葉に私が怖々言葉をオウム返しに返せば、翅から手が離される。

 確認されるように紡がれる言葉にそうだね? と頷いて返せば彼は少し考える素振りをして見せ、やがて私をゆるりと瞳だけで見下ろした。

 

「受け止めれば問題は無いな」

 

 ポツリと呟かれる言葉に、はい? と私が呆然としたところで。

 ぐんっ、と重力が掛かる。ほんの一瞬のそれに目を瞬かせる間もなく、私は真上に放り出されていた。

 

 え。

 

 中空でぐるりと一回転して、下を見れるようになれば両手を私に緩く伸ばしているアルベヌが見える。

 言葉で指導するより、感覚で覚えさせようとし始めましたねこの人!!!

 翅がバサリと音を立てて少し落下スピードが落ちる。背中の一部が引っ張られる感覚に、抵抗するようにそこを動かそうとしたら、ぐらりと身体の向きが変わった。

 背中から落下するようになって、体勢を変えようと身体を捻ろうとしたところで、背中に衝撃。

「片側だけでなく両方動かさねばバランスを崩すだけだぞ」

「……〜〜っ!!」

 思いっきり声をあげたい。痛みではなく抗議の声を思いっきり叩きつけてやりたい。けれども防音魔法がないので下手に張り上げれない。背中に衝撃が来てすぐ上から覗き込まれて、伸ばされていた両手で落下を受け止められたらしいことを理解するも、ボールのようなオモチャにされている気分だ。最悪すぎる。

「片側は不格好だが動かせていたからな。次だ。頑張れ」

 私の不満顔を見下ろしているはずなのに、目の前の大きなご尊顔は淡々と言葉を投げては、私を再びポイッと真上に跳ね上げる。

 自然と回転した身体の動きでエラさんを視界に入れて見つめれば、顔面蒼白で両手を合わせて握りしめていた。きっとセシリスさんにしていたみたいにアルベヌを引っぱたきそうになったのかもしれない。

 

 やってくれた方が私としてはありがたいんだけど!!

 

 けれども下手したらエラさんが不敬罪になってしまう。そんなリスクは犯せない。私はかわいた笑いを浮かべてこのスパルタな特訓に不承不承ながら身を入れようと翅……と言うより、私から見ればもう羽根だ。その付け根部分に力を込めようとしていく。

 バサバサと少し音が立つがバランスは保てずにまた落下して待ち構えていた手に落ちた。

 私に怪我がないか見てるのか、暫く見下ろされた後でまたポイと上に投げられる。

「動いてはいるが足りん。そして慌てすぎだ。もう少し風を翅で受けろ」

 そう言われてもわからーん!!

 ポイポイと数度高く跳ね上げられて手に落ちる衝撃に慣れたくないが慣れてきた。打ち付けた背中や腕が痛い。

 そして何度目かの跳ね上げられた時に、自業自得で怪我をした時の一瞬の浮遊感を思い出す。あれは、確か羽根が横に広がって静止していたような気がする。

 そう考えて背中の羽根を広げるイメージで付け根部分を意識すれば、バサリとそこが動いて広がった。

「あ、動い――っ!?」

 動いたことに思わず声を上げるも、そのままスイっと前に滑空し出して声が止まる。

 慌てて背中を見ようとしながら羽根をまた動かそうとするも、そのままバチンと私は目の前の何かに突撃してしまったらしい。痛いような痛くないような、不思議な感覚。頭を振りつつ凹凸のある壁に手をついて顔をそちらに向ければ、アルベヌの金色の瞳がすぐ近くにあった。のけぞる様に身体を離すが背中がポスリと何かに納まる。

「っ!!?」

「……飛び込んで来るとは思いもしていなかったが……出来たな? その調子だ」

 どうやら滑空した勢いでアルベヌの顔面にダイブしてしまったらしい。身体を背後に添えてたんだろう手で捕まえられて顔面から離された後、また反対の手のひらに乗せられる。

 そうしてまたポイッと軽く上に跳ね上げられた。ちょっとは休憩させて欲しい。

 さっき動いた感覚を思い出しつつ頑張って意識をすれば、付け根が動く。バサリと音がして中空で制止する。今度は天井を見上げていたが、直ぐにグルンと一回転してしまって視界の変化に身体が追いつかない。慌ててバランスを保とうと羽ばたくように動かすイメージをするが、バサバサとまたのたうつ様にも聞こえる音がして落下する。そう思ったところで。

「慌てるな。そう簡単には落ちないし、失敗しても我が受け止めてやる。もう少しゆっくり羽ばたいてみろ」

 言葉と同時に、下から手が伸びて落ちる私をその手に収める。横に添えている手を勢いで羽根で叩いてしまうが、気にはしていないらしい。指先で頭を撫でてくるアルベヌの顔を見つめていれば、口角が緩く持ち上がっていた。

「エラ。もう少しで終わりそうなのでな。小鳥のために湯浴みの支度をしておいてくれ」

「はい。陛下」

 私を労わるように頭から、よく打ち付けていた腕の側面を撫でるように指を滑らせるアルベヌの言葉に、エラさんがホッとした様子で返事をして動き出す。

 ドールハウスからバスタブとチェストを取り出して、バスルームに移動していた。

 それを見送ったアルベヌと私は自然と視線を絡めあって、アルベヌがグッと顔を寄せてくる。

「……打ち付けて痛かったろうが、良くはなってきている。目測だがあと数回すれば拙く飛べるようにはなると思える動きだ。頑張れ」

「……本当に?」

「あぁ。バランスを崩しても慌てずに空気を受け止めればまた静止は出来る。それから浮遊することだけに注力しろ。飛ぶと考えるな。まずは留まる事を考えろ」

 アルベヌの言葉にコクリと頷いて見せれば、身体を撫でていた指が離れ、顔も離れる。そしてまた、軽い動きで私は真上に跳ね上げられた。

 留まること。中空に留まるように。

 羽根を広げるのは感覚に慣れてきた。開いてまたグルンと視界が回って一瞬ガクンとバランスが崩れる。が、アルベヌの言葉を思い出してゆっくりと1度だけ。大きく翼を動かすように羽根を動かす。

 バサッと私には大きな音が響いてぐん、と1度視界が高くなる。翼が何かに抑えられるように広がったまま固定されて、そのままジワジワと下にずれ込んでいく。

「良い動きだ。そのまま空気を翅で受け取っていろ。時期に足が着く」

 アルベヌの声にそちらを見れば、こちらを見上げて楽しそうに手のひらをこちらに向けているのが視界に入る。

 そうして目の前にアルベヌの顔が映る高度まで下がると、私は足から彼の手に着地して、鳥が羽根を休めるようなイメージで羽根を畳んだ。慣れない感覚にバランスが崩れて尻もちをつくが、目の前の顔は少し満足気だ。

「上出来だ。着地も初めてにしては上手くできている……暫くはその動きを自然にできるようになるまで練習するぞ。着地は立ったままで出来れば理想だな」

「いきなりポイポイ投げられるから玩具にされた気分だったよ」

「そういうつもりは無かったがな……そう感じたならすまなかったとしか言えん」

 指先が伸びてきて、宥めるように頭を撫でられる。少し目を丸くしたように感じたので本当にただの特訓のつもりだったんだろう。やられている方からしたらとんでもなく怖かったし不快だったが。

 飛べてない時に取り落とされたら大怪我は確実だったはずなので。

「とりあえず及第点?」

「そうだな……それ以上だと思っている。着地まで自力でこなしたからな」

 撫でられながら問えば楽しげに瞳が細まった。本心らしい。そこでバスルームの扉が開いた音に2人してそちらを見れば、エラさんがこちらに歩み寄って来ているところで。

「準備が整いました。ペット様をお預かりしても良いでしょうか」

 机のそばに来て声を上げる彼女に、アルベヌは私を差し出すように手を動かし。エラさんが手を出せばその上に私は滑り落とされた。

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