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小妖精に転生したら魔王のペット(友達)になりました  作者: 須野 リア


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第21話 「鈴カスティラって言ってました」

 あれから少ししてフレイさんがお茶を用意して戻ってきた。今度はエラさんも伴っている。

「お茶をお持ちしました」

 静かに声を上げてミニテーブルの上の本をまず片付けると、アルベヌとルミさんの中央の位置にお茶請けだろう菓子の並べられた皿が置かれて、二人の前に茶器が置かれる。

 私の方もそばに何かが置かれてそちらを見るとエラさんが私の手が届きやすい高さの台座らしいものを置いていて、そこにあの暫定鈴カステラが数個積まれた小皿を載せては、その傍に私から見たら少し大きめの茶器まで置かれた。

「ぇ」

 思わず声をポツリとこぼしてしまったが、エラさんはシー、と唇に人差し指を当ててニコリと笑うだけ。

「……ほう? 良い仕事をする」

 横から聞こえた声に二人で弾かれたようにそちらを見れば、私に渡されたセット一式を見てアルベヌが薄らと笑んでいた。

 エラさんが姿勢を正して一礼すると、フレイさんの横に移動して待機に入る。アニメとかドラマとかで見てたけど、メイドさんってホント大変だよね……

 大きめの茶器を持つ。素材は陶器製だがミニチュア品か質のいいドール用品だろうなと思いながら、私から見たらスープマグより少し大きい位の大きさのカップに口をつける。

 こういうカップでお茶を飲むっていつ振りだろうか。香りがいい。美味しい。アルベヌからもらっていた紅茶もおいしかったけれど、こちらの方が気兼ねなく飲めるのでありがたかった。

 

「そういえば陛下。昨日申し上げたように領地の特産品が今年は豊作なのです。お納め頂こうと思ってはいるのですが」

「あれだけでも十分な薬効はあるだろう。もしものために自領で必要な分は保管しておけ。例年通りに城に卸せば問題は無い。城の担当が方々に回す。お前の父に伝えておけ」

「陛下の寛大なお心に感謝を。確かに父にお伝えしておきます」

 

 ふと聞こえた会話に顔を動かしてそちらを見れば、物腰柔らかな外向けの顔のルミさんと淡々とした無表情のアルベヌが真面目な話をしているようで。

 特産品。あの糖蜜か。今年は豊作ってことは安定して採れるものではないらしい。

 会話を聞きつつ茶器を置いて、前見た時より少し小振りになってる暫定鈴カステラに手を伸ばそうとして、ぴたりと止まる。

 服汚れるかなこれ。

 自分の服を見て、カステラを見て。少し考えて手を引っ込めようとしたところで。

 

「なんだ、いじらしい動きをするな? 服を汚したくないのか」

 

 からかうような声色で聞こえた言葉に上を向けばアルベヌが瞳を柔く細め覗き込んできているのが目に入る。

 彼はそのまま指を鳴らしてハンカチーフを出すと、少し広げてから私に差し出すように近くに落とした。

「多少汚れても気にする事はないがな……好きに食べるといい」

 ハンカチーフを落とした手がそのまま伸びて来て、背を掠めるように撫でられる。

 数回撫でたところで指が離れれば、私はハンカチーフを手繰り寄せて糖蜜を食べた時のように首から下を覆うように纏った。砂糖が零れても良いようにクッションの外側に端はできるだけ出しておくのも忘れない。

 よし、これで砂糖とカス対策は何とか……そう思って改めて手を伸ばしてお菓子を手に取る。

 この間のものよりサイズが小さいのでこれなら……半分くらいなら食べれるかもしれない……流石に自分の頭ほどの大きさの甘いものを丸々1つは食べ切れる気がしない。

 手に持ったからにはと齧ると、やはりあの昔懐かしの鈴カステラっぽい味と食感がする。ちょっとしっとり感がある気がするが。

 しっとりしているカステラはお高いイメージがあるのだが。高級カステラが駄菓子になっている……と思わず1口を飲み下してから考えて、頭を1度振ってからモグモグと食べ進める。

 そんな中でふと視線を感じて。思わずそちらをお菓子に齧り付いてる状態で見上げてしまって、きょとりと目を瞬かせるアルベヌと視線が合う。

 暫く静止した後、自分の状態を思い出してカッと顔が熱くなった。

 私を見下ろしていた大きな顔は片手を口に持って行き、噴き出すのを耐えているようで。顔を思い切り背けられる。大きな肩が震えているのが見えてこちらも羞恥で顔を下げたところで、対岸に座していたルミさんと目が合った。

 ルミさんも顎下に手を添えて上品にクスクスと笑いを零していたが、瞳の色は愉悦そのもの。きっと防音魔法があったなら大爆笑されていたに違いない。

「陛下が愛玩される理由が分かった気がします……っふふ、私も小妖精、飼ってみたくなります」

 いや絶対からかうつもりの冗談だこれぇ!!

 ルミさんが笑い声を頑張って抑えながら言ってくる言葉に私がさらにお菓子に顔を埋めるように身体を縮こませる。

「ククッ……! この小鳥と同様に愛くるしく感じるものがいればよいがな? そうはいないだろう」

「そうでしょうねぇ。ここまで鳴かず悪戯もけしかけてこない従順な個体、珍しいにもほどがありますよ……いやはや、不敬かもしれませんが羨ましく思ってしまいますね」

 二人の会話に顔が上げれない。いやほんと恥ずかしいが過ぎる……!

「我の小鳥があぁなるほどの菓子か。少し興味があるな……どれ」

 目の前のお皿に大きな指が伸ばされて、手の持ち主からしたら小さすぎるだろう一つを摘まんで持っていく。

 お菓子から顔を上げて顔についたかすを手で落としつつ見上げれば、感触を確かめるようにフニフニと指で数度挟んでから口に入れるところだった。

「……焼き菓子なのはわかるが、少し甘さがないな……? いや、粉糖は掛かっているから甘くはあるんだが。それに少しパサついて……?」

 コレがそんなに好きか? と不思議そうに呟きながら私を見下ろすアルベヌに何とも言えない顔をする。

 確かに西洋圏のお菓子に比べれば日本のお菓子はあっさりしたものが多いのはわかる。いわゆる優しい甘さというものだ。濃い味が多いらしいこの世界では不思議に思うだろうが、仕方ないじゃない。故郷の味に近いんだもの。

 アルベヌから視線を外して食べかけのお菓子を1度皿に戻し、口を巻いているハンカチーフで拭ってからまた紅茶を含む。そしてまた置いたお菓子を手に取って食べ始めた。

 どうせ私今喋れないからスルーした方が面倒がない。

 そう思った矢先に、風が動く感覚がしてそちらを見れば、大きな片手が私の隣に来ている。それに瞳を瞬かせたところで、頭にトス、と何かが乗った。その後撫で回されるようなそんな動きで擦られて、頭が少し引っ張られる。指先で撫で回されているんだろうとわかっても、その持ち主の顔を見ることはしなかった。

「味が少し薄いことに驚きはしたが嫌いでは無いぞ?」

 子供をあやすような声色で上から掛けられる声に思わず、拗ねたわけじゃないから! と返しそうになってまたお菓子に顔を埋めてしまう。

 その動きに頭を触る指が止まり、離れていくのを感じてまたお菓子を口に含んだ。

「初めて見る上に食べた焼き菓子だが。これはどこのものだ?」

「それをペット様にとご用意したのはエラなんです。エラ、説明を」

「はい。お、恐れながら昨日、ペット様に私が個人的に頂いたお菓子を差し上げたらお気に召して頂いたようなので、ペット様用にとまたお願いして作って貰ったんです」

「ほう? 菓子店にでも繋がりが?」

「いえ、私の幼なじみです。今はこの城の厨房で、デザート担当を任されております」

 聞こえる会話に聞き耳を立てている中で、そういえば男の人で無骨なのに上手いんだと教えてくれていたなと思い出す。

 口の中の物を飲み下し、また紅茶を口に含んだ。

「そうか。ここの厨房の者……ここまで小さく出来るとは器用なものだ。覚えておこう。……この焼き菓子に名称はあるのか?」

 

「えっと、確か鈴カスティラって言ってました」

 

「っ!?」

「フォ、っ! 小鳥!? どうした、喉にでも詰まったか……!?」

 ぶふっ、と思わず聞こえた名称に口の中の紅茶を吹き出してしまった。

 幸いカップをまだ持っていたから大半はカップに戻っただけだが、顎から滴るものがハンカチを汚す。

 小さくてもしっかりと聞こえたんだろう。私が噴いた音に驚いて横の巨体が慌てたように傍に手を着いて、名を呼ぼうとしたのを堪えて呼び直しながら顔を寄せて声をかけてくる。

「これ、本当に鈴カステラだったの……? ガチで……?」

 呆然と私が紅茶を口から滴らせたままお菓子をガン見して思わず呟いた言葉が聞こえたか、視界に映る手が揺れた。私がそれにアルベヌを見上げると、彼は目を見開いて私と菓子を交互に見ている。次いで何かを思いついたか眉根を寄せた難しい顔をすると同時に片手を顎下に添えて、菓子を彼も見つめた。

 

「……そんなことが、あるというのか? なんという確率だ……? この世界滅ぶわけではなかろうな……?」

 

 なんか怖いスケールの話言い出した。

 何事、と私が茶器を置いて口元や顎をようやっと拭おうとしたところで、アルベヌが私を両手で掬い上げる。

「正直に言え。お前、あの菓子を知っていたな?」

 顔に近づけられ、さらに顔を寄せて来て近くなった唇から囁かれる言葉に、私は少し視線を泳がせる。

「だんまりか? そうか、仕置きを望むのだな? 我の可愛らしい友よ」

 聴こえて来た物騒な言葉に身を震わせたところで、赤い舌先が私の顎下から顔の側面をなぞるように舐め上げてくる。

 カチンと固まった私の顔に付着した唾液を爪の先で擦り取るアルベヌの唇が、ゆるりと凶悪に弧を描いたのが視界の端に映る。

「次は含むぞ」

「だから友達にする脅しじゃ無いんだって……!

 知ってました! 私の前世でよく見た庶民のオヤツのひとつです……!」

 私が小さく、ルミさんにまでは届いてないだろう声量の言葉を告れば、アルベヌは2本の指で私の左右の脇腹を摘んで軽々と持ち上げる。金色の前に連れていかれた私の顔をジッと見つめた後に、よろしいと言わんばかりに手に載せ直して指先で撫で始めた。

「エラだったな」

「は、はい!」

「お前の幼なじみだというその菓子職人を連れてこい。すぐだ」

「え……ぁ、は、はい!」

 アルベヌに言われたエラさんが一礼して部屋から足速に出ていく。それを見てアルベヌは次いでルミさんを見つめた。

「ルー。茶会はお開きだ。出ていけ」

「……かしこまりました。また機会があることを願っております」

 持っていた茶器を下ろしてルミさんが席を立つ。

 アルベヌと視線を通りすがりに1度絡めてから優雅に一礼して部屋を静かに退出した。

 流石に出ていけと言われたら大人しく従うか、ごねると思ってた。

 ある種失礼なことを考えている中、私を載せる手が動く。というより、アルベヌの巨躯が立ち上がった。執務室のスペースに行き、机に座して縦揺れに翻弄された私を自分の前に引き寄せたクッションの上に転がしたあと、私の巻いていたハンカチが取り払われる。

「おしゃべりの時間だ。我の小鳥……打ち合わせをするぞ」

 ハンカチを横に無造作に放り、頬杖をつきつつ見下ろしてくる顔の動きで黒い髪の毛が私の身体に垂れ落ちる。それを指先で払い退けながら呟くその言葉に、打ち合わせ? と寝転がりながら首を傾げる私を見て、彼はさらに顔を寄せて瞳を細めるのだった。

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