第2話 「どうぞ……なるはやで」
注意(/・ω・)/
穂花ちゃんの魔力をアルベヌさんがもぐもぐします。
経緯を話したら次は現状かな。
早いものであれから数日はとうに経った。
大きさ的に友だと大々的に触れ回れはしない。魔王の周りの執政官達や使用人達にはあくまでペットのように見えるような対応をしていた。私が共通語を話すと知れれば、力関係を重んじる魔族はともかく人間には狙われる可能性がある。と魔王様に進言されたためでもある。
「ふむ。飛び方がわからないと」
「背中の羽がただの飾りみたいになってるの……」
「小妖精は飛べるものだ。空の小妖精なら、尚の事だな……」
そんな私と魔王様ことアルベヌは、私の背中の羽の事で相談を開始していた。
手の上にいる自分を軽く手のひらの上でうつぶせにさせ、羽の付け根を大きな指先がさするように撫で。
そんな一連の動作をしながら、ふむ、と得心がいった声を漏らし。
「魔力が上手く巡っていないな。根元だけで留まっている。
妖精も魔族も、飛び方は同じだ。翼より重い身体を浮かせるため、魔力でその重さを支える力を補えるようにしている」
「やっぱり飛べるのいるんだ?」
「我だって飛べる。我はラミア族の母と悪魔族の父を持つからな。両方の体質は受け継いでいる」
緩やかに、自分が飛ばされないように意識したのか大きな身体に見合う、ややボロボロに見える翼が大きな背から生えだした。
「なんか所々穴空いてるし破けてない?」
「悪魔族の翼はこんなものだ。言ったろう。魔力で力を補うと」
緩やかに、いまだに背の羽の付け根を指先で撫でつつ声を上げるアルベヌに、自分を乗せている手の指でさらに頭を撫でられ始めている私はうなるしかできない。
そも魔力の使い方なんて良く分かってもないのだ。
「お前は魔法なんて夢物語な世界からの転生だと言っていたな?」
「そうだよー……だからぴんと来なくて」
「ふむ。少し困ったことになるな。魔力はめぐりが悪いと生死にかかわる。妖精はほぼ物理的な力というより、魔力寄りの力を持つ存在だからこのままでは危険だろう」
「え、そうなの……!?」
「確かにお前たちにも血肉はあるが、魔力も血のような役割を持つ、と言えばわかるか? 全身に巡らねば、危険だろう」
「ぁ、ただの人間なら死ぬヤツだね分かる」
分かりやすい例えにゾッと血の気が引く。
頭から指が離れる。が、背を撫でられる感触が止まらないので体をひねると、思案顔の美麗な顔が割と近い位置にあった。
「アルベヌさん……?」
「なんだ他人行儀な」
「いや真剣すぎてちょっと怖いなと」
「む……すまん。だが、こうもなる。このままでは時期に体調を崩しかねんしな……一度無理に巡らせるか、それとも……」
「無理に巡らせるってなんか痛そうだねぇ……それとも? ってまだあるの?」
少し言いにくそうな雰囲気のご尊顔に首を傾けて見せる。
不安が混じる様子を見せるそのご尊顔がわずかに歪んたのがわかった。何をそこまで考えているの……? と此方が不安になる。
背の指も離れたというより、動きが止まったのでとりあえず起きようと寝ていた姿勢から座る姿勢になる。
背を触っていた指は移動していないので、その指にもたれかかる様に身を預けだしたところで。
「……それとも、魔力だけ食べてしまうか、だが」
「あーそっちかぁ……」
逡巡の後に言われた言葉に、あったばかりの日に捕食されかけたことを思い出して少し顔が引きつる。
それを感知したか自分を乗せている手がびくりと震えた。手の上にいる私の身体も合わせてぐらりと揺れ、手を掌の床につこうかとした途端に大きな手指が素早く動いた。思わぬことと唐突な動きに目を白黒させる小さな体がくるりと向きを反転させられ、勢いよく向かい合わせの状態にされたところで。ご尊顔が私にずいっと寄せられる。
焦っているのか、少し不安げな様相を見せるその表情と情けなく揺れてるような金色の獣の目。勢い良く近づいた大きなそれに身を震わせ身体をのけぞらせるのは、本能的なもので他意はない。
「ちょッ」
「っ……あ、あの時は確かに喰らおうとしたが、今回は過剰な魔力だけを吸わせてもらうだけだ……!
命が尽きるまで吸い尽くす気はないぞ……!」
私が震えたのを見て不安が深くなったか、少し切実にも聞こえてくるような声色で言葉を投げてくる。
「必死すぎない……? 疑ってないってば……」
「本当か? 我を今ので嫌いになったりはしておらんな?」
「喧嘩も何もしてないのに嫌いも何もないでしょう……大きさの違いで勢いが良すぎると、驚いて反射で震えるの」
「そういうものなのか……?」
のけぞらせた体を戻しながら言い返せば、思案顔になる目の前の顔。
捕食されかけたあの日から今日まで、ある程度彼の傍に置かれている。自分が珍しい希少種の空の小妖精であることも聞いているし、王の部屋に入れるメイドとかにも触らせようとしない徹底ぶりだ。確かにたまに獲物狙う目で見てくる人数名いるからありがたい限りである。
この魔王様がいない時は、この人以外は解除不能な施錠魔法を施してもらった寝所代わりの鳥かごの中にいる。共にいれる時は魔王様の手が届く場所に座っていたり。謁見の間に行かねばならない時は正装のローブのフードに入れられたり、あまり気乗りしない相手だと手に乗せられてペットのように扱われていたりする。
「さすがに貴方が私を守ろうとしてくれてるのはわかってるから。そんな人疑わないよ。疑ったら私ただの性格悪いやつじゃん」
嘆息気味に声を上げれば、自分を不安げに覗いていた金の瞳がぱちくりと瞬く。
それから安堵したように瞳が和らいだ。
うーん、これは私からお願いしたほうがスムーズなやつかもしれない。
そう思案して手を伸ばして、鼻の頭に触れてそこを撫でる。
ひく、と巨大な頭が震えたが気にせず撫で続け。
「アルベヌ。魔力を無理に巡らせるのなんか嫌な予感がするから、過剰な分をあなたに上げたい。
そして、普通に戻ったら魔力の巡らせ方の先生になってほしいんだけど……私は今、どうすればいい?」
「……本当に、いいのか?」
「いいから言ってんの」
問いかけに畳みかけるように答えてやれば、瞳が少し揺れてから、顔が離れる。
心配そうに自分を見下ろし、やがて片方の手が自分の身体に触れる。
「……うつぶせになれ。魔力が滞ってる部位に口や舌で触れるが……いいな?」
「口はわかってたけど舌もかい。お風呂の用意よろしく」
「……フハッ……あぁ、承った」
私の勢いよく強気な言葉に巨大な顔が少し綻んだ気がした。
それから大きな口から舌先が覗いてその唇を1度ペロリと舐めて見せ、顔をこちらに傾け更に寄せ始める。
自分も体の向きを何とかうつぶせに体勢を変えると、少し柔らかいような感触が腰に触れてくる。
一応布地があるにかかわらずしっとりと湿った感触がくるし、生温い風がそこから感じられ。
柔らかい感触がすり、と背中側に滑って羽根の付け根をくすぐると同時に、ぺちょ、と粘液を落とされた感触。
質量も伴うそれに舌だなぁと考えた矢先に、そこがやや力強く押し込まれて結構な勢いで滑った。
擬音の表現なんて浮かばない勢い。
「んぅっ!?」
自分の小さい驚きの声は、うつぶせになっているせいと先ほどの押し込みで巨大な掌の皮膚に顔が埋まったためにろくに響きもしない。
同時に何かがそぎ落とされている感覚もするし、始まったばかりだが少し怖くなってきた。
ちょっとその旨を伝えた方がいいか、と顔を上げようとしたところで背中の感触が離れていることに気づく。
もう終わった? そう思ったつかの間に自分の耳に届いたのは、頭上で断続的に響く濡れたものが爆ぜるような音。
まるで大きすぎる飴玉を口に入れた人がさせるかのような。
思わずブルリと震えた後にカチンと固まれば、上の音が小さくなり。生温い風がひときわ強く体を撫でた。
自分が寝転んでる手と反対のものだろう指先らしきものが、自分の後頭部に触れ撫で下ろす。
「……フォノ。手の上だからか震えが分かった……怖かったか、すまない。
やはり、お前の魔力は予想通りに美味くてな。思わず味わってしまった。許せ」
あぁ、意図せずおいしいもの口に入れると余韻楽しんだりするよねわかる。その気持ちはよくわかる。
でもそれが自分ってなってくるとちょっと怖いな!!!
アルベヌが発した申し訳なさげな言葉にそう思案して震え、その震えを感じた巨大な彼が私の体を撫でて宥めようとする。
「まだ終わってはいないんだが、続けても大丈夫そうか?」
伺いを立ててくれるのは非常にありがたい。ありがたいが、すでに鼻息か吐息かが背中を撫でている。
この魔王様。満足するまでやめる気ないな。
そう感じた私は何とか頭を動かしてうなずいて見せ、それを見たのだろう彼はヂュ、と音を立てて私の腰部分吸った。
場所が場所。思わず体を跳ねた私の耳にクツリと喉の奥で漏らしたような笑いが聞こえ。
「すぐに終わらせる故、気持ち悪いかもしれないが……我慢をしてほしい」
その言葉に何とか強張らせた体を頑張って弛緩させ、ペトリと自分の体全体をこの魔王様の片手に預ける。
背中の方に、指とは違う質感のものが滑ったのを感じる。
「……今更だが、馳走になるぞ」
声が近い。唇だったらしいそれにまた身構えそうになるのを堪えて、横顔を巨大な手のひらに押し付けるようにしてやり過ごす。
「どうぞ……なるはやで」
「なる?」
「ごめんあとで教えるからお願いします」
「む、うむ」
自分の前世の場所の略語に反応した魔王様に応えずに、意図せずさっさとしろと言ってしまった自分にこれほんとに不敬罪では、と思案するも。
背中に粘液を纏うものが滑って、濡れそぼっていく感覚に舐め回されてるなと感じつつ、たまに吸い上げられると同時に何かが抜けていく感覚に、さっき削ぎ落とされた感覚がしたのもこれかと理解した。
体が少し軽くなったような。そんな気も覚える。
しばらく舐められては吸われを繰り返し、背中そろそろふやけたんじゃないかと思えるようなころに、ヌチ、と音を立てて巨大な唇が吸い付いていたところから離れた。
最初に聞いたような口の中の余韻を味わっているような音が少し響いてから、満足げな吐息か鼻息が体を撫でていく。
「これでよいはずだ……と言いたいところだが……一つ謝らねば」
言葉を紡ぎながらバサリと何かを広げる音。自分の体に何かしらの布をかぶせて舐めたり吸ったりしたところをなぞりぬぐい始めていく動きにアルベヌを見上げれば。
彼は少し決まり悪げに視線を一瞬だけ泳がして。
「……調子に乗って少し、その、味わいすぎた……」
「それは今私が魔力枯渇に近いということでOK?」
「おーけー……とは……?」
「うんあとで教えるからとりあえず現状は?」
「……うむ」
少し言いにくそうに少し視線を泳がせた後、私の体から手を離しては指パッチンで彼サイズの手鏡をその手に出すと。それを私に向けてくる。
いやなんなんだと布にくるまりながらも手の上で座りなおし、その移りこむ姿を見て私は目を見開いたのち。
ジトリと手鏡の向こうに見える顔を見つめた。
文字数が多くなりがちなので文字数意識して投稿していきます……