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第18話 「弱弱しくてごめんなさいね!?」

 フレイさんが一礼して扉に向かう姿を見た後でアルベヌはチラと視線だけで私を見下ろすと、私を握りこむ指の曲げられた関節の一つで下から頬を持ち上げるように撫でてくる。

 関節だからか少し力が強い気がするが、大人しく受け入れて見上げていると彼の口角がわずかに持ち上がった気がした。

「陛下。ルミ・シャンテレール様がいらっしゃってます」

 フレイさんが声を上げれば、ヒクリと私を包む手が震える。

「あれは懲りんな……追い返してもまた来るだろう。面倒だ。入れろ」

「はい」

 フレイさんが返事をすると同時に扉が開かれ、入ってくる昨日アルベヌに相当痛めつけられたはずのルミさんの姿。

 衣装は昨日とは違うが、やはり貴公子然とした格好をしている。外側に騙されてる人多そうだな、とアルベヌの手の中で考えていたところで扉が閉じられた。

「昨日は多大なる温情をありがとうございましたーってね。全く手加減してよ少しは。治してくれてたけど腕も足も折ってくれちゃってさぁ」

「また折られたいと言っているのか?」

「ジョーダンですって。昨日見つけて治したペットちゃんが気になって様子を見に来たんですけど? 今日は手袋ちゃんとつけてるから許してくれますよね?」

 中々怖い話してる。というか絞めて殴って蹴ってってしただけでどうして骨折れるの。それだけアルベヌ実は力強いの? それで私を握りつぶさないってすごい神経使ってない?

 手の中でアルベヌを見上げれば、歩み寄ってきていたルミさんを見て渋面を作って重々しく息を吐いた。

 

「響かぬ壁よ、声を此処に留め消せ」

 

 防音魔法の呪文が唱えられ、私を握った手が持ち上げられて開かれる。自然とアルベヌの手に寝転がるような形になった私は、上から覗き込んできて手をひらひらと振るルミさんと顔を合わせることになった。

「昨日は災難だったねぇ、転生者さん?」

「見つけてくれて感謝してます……一応」

「一応ってなんでさぁ。昨日確かに怖いこと言ったけど、全部君が載せられてるその手の持ち主がしたことじゃん」

「反省が足りてないようだな?」

「やだこの王様こわーい」

 黒い手袋に包まれた手指が伸びてきて私の身体を突いてくる。

 少し力強いそれに身を捩って身体を離そうとするが追いかけてくる動きに諦めて上体を起こした。

 ドン、と少し力強く背中が突かれて前に身体が揺れる。それと同時に、ドバン、とやたら重く勢いのいい音が響いて思わず耳を塞いだ。ついでに突風に近しいものを後ろから感じてそろそろと見れば。何かを叩き落としたかのような形になってるアルベヌの片手がそこにあった。

 力強く叩く手の動きですら風が来ますかそうですか。

「力加減を考えろ。潰す気か」

「悪気はないって。それに転生者さん潰したら絶対明日の朝日拝めないし。それに俺これでも小さいもの大好きだよ?」

「貴様の家で飼ってる使い魔モドキどもと同様に扱うな。フォノは一等脆いのだぞ」

 二人の口論というか掛け合いの中で言われたアルベヌの言葉に、私は座っている手のひらをベシンと力強く叩いた。

 アルベヌがこちらを見下ろして、それにつられてルミさんもこちらを見下ろしてくる。

 

「毎度毎度脆い脆い言わなくてもいいじゃん! 確かに小さいし昨日あんなことになったけど! 弱弱しくてごめんなさいね!?」

 

「っ、す、すまない」

「あぁぁ転生者さん怒んないで……!」

 思わず私が張り上げた声に二人が反応してくるが、そんな二人から顔をそらすように別の方を見る。

 アルベヌ寄りの机の横に移動して立っていたんだろう。視線の先にいたフレイさんが困ったように微笑んでこちらを見ていた。

「フォノ様、小妖精の身体は翅こそ生えてますが小さいヒトでしかないので仕方ありません……陛下も悪気があるわけではないので……」

「わかってるよ……それに弱いのも事実だしさ……だって翅あるけどまだ飛べないし、魔力あるけど魔法だって使い方わかんないし。妖精のコスプレしてるただの小人だよこの状態……」

 

『こすぷれ?』

「コスチュームプレイの略称。好きな本の登場人物とかの衣装作って着たりして遊んだりすることを言います。説明終わり」

 

 巨体三つから聞こえる疑問符に淡々と説明した瞬間、私の身体全体を影が覆う。

 上を見上げれば、ルミさんの顔がアップで視界に映っていた。近い。顔が天井のようになってしまっている。ほんのり周りの空気が冷えたような気がした。

 

「冒険譚とかそういうおとぎ話の人の服を作ったりするひとがいるの?」

「私の世界には不特定多数いましたよ?」

「へー! ねぇこの世界でもそれはやらせてみない? 絶対楽しいと思うんだけど!」

「……ルミさん。近すぎてちょっと寒いです」

「あ」

「フォノが体調を崩したらどうするつもりだ。離れろ」

 

 メシッ、と音がしてルミさんの顔が遠ざかる動きを眺めていれば、アルベヌの片手が銀色の頭をアイアンクローで掴んで上に引っ張っていた。

 動きに伴って暖かくなってきた空気にほっと息をついた。そうだよ。素肌あの人相当冷たいんだった。会話の最中に思い出してよかった。

 自分の腕をさする動きをすれば高いところからごめんねー、と軽い声が聞こえる。

「俺フロストデビルだからさぁ。肌冷たいんだよねぇ」

「我らの大きさならそれで済むがこいつの大きさを考えろ。昨日は怪我より前にお前に凍傷を負わされるところだったぞ」

「それはあの騒動の前にちゃんと陛下には謝ったじゃん」

 ルミさんの軽い反応にアルベヌが頭を抱えて嘆息する。手の上の私を見てから改めてルミさんを見上げたアルベヌは胡乱な目を向ける。

「それで。結局要件はなんだ」

 アルベヌの問いに瞳を瞬かせたルミさんが少し目を見開いてからにっこりと笑みを浮かべてアルベヌを見た後で私に視線を落とす。

「転生者さんの名前はフォノさん? っていうんだっけ?」

「フォノ違う。それアルベヌが言い出した愛称。穂花ホノカです」

「フォノァ……フォノアさん? ん? なんか違う?」

 愛称を名前と思われそうだったから即座に訂正し、それを聞いたルミさんは素直に言い直そうとしてくれるがやはりうまく発音できないようだった。

 期待はしていなかった。していなかったがやはり悲しいものがあって私は思い切り肩を落として見せる。

「ここのみんなノしか合ってないからもうフォノでいいよ……」

「本当にすまないな……違うのはわかっているんだが言えんのだ……」

 私を慰めるためか反対の手を添えてきて私の背中に指を滑らせるアルベヌが呟けば、フレイさんも頭を下げていた。

 ルミさんも頭を掻きながら、あー、と悔しそうに声を上げている。

「聞いといてごめん。言葉に甘えてフォノさんって呼ばせてもらう」

「いいですよ。私は勝手にルミさんって言ってますし」

 私の言葉ににこりと笑んで見せる顔は上品で、いったいこの人はチャラいのか好青年なのかどっちなんだろうと思っていたところで背中をトントンと突かれる。

 後ろのアルベヌを見上げれば、渋面を作っていた。

「え、なに」

「こやつに敬語などいらん。普通に喋れ」

「えぇぇ……」

「フォノさん。俺も話しやすいように話してもらえると嬉しいんだけど」

 アルベヌの言葉になんで、と思っていた矢先にルミさんからも言われてしまえば否定することもできない。まぁ敬語なれないし、助かったと思っておこう。

「わかった。それでルミさん。私に何かききたいの?」

「俺たちのところ転生者って存在がどんな意味合い持つのか、フォノさん知ってんのかなと思って。

 ほら、最近きな臭い話が上がってるからさー」

 私の問いにニコニコと笑顔を浮かべて声を上げるルミさんのその言葉の内容に、私は少し瞳を瞬かせて考える。

 きな臭い話。そうして思い返された、アルベヌと宰相さんの先ほどの会話。

「……さっきアルベヌと宰相さんが言ってたやつ? 召喚どうのこうのって?」

「ぉ、言ってたんだ。まぁそう。せいかーい! あちらがしようとしてるのは召喚で、フォノさんは転生だから……まぁ多少差は出ると思うんだけど」

「そうだな。フォノに魔法さえ仕込めば余程の化け物でない限り、余裕で勝てるだろう」

「待って物騒。それに私この大きさだよ? 無理だよ」

 出した答えがあっていてパチパチと軽い拍手の素振りを見せながら声を上げるルミさんに、アルベヌも是を返すような言葉を繋げる。

 その言葉の内容にぎょっとした私はアルベヌに顔を振って見せるが、彼は表情を変えずに瞳を瞬かせるのみだ。

 しかし少し思案したのち、アルベヌは一つ頷いて私を真剣に見つめて口を開く。

 

「たとえ話だが。お前だけで人間が十数人向かわねば勝てぬと言われるドラゴンと相対したとする」

 

「いやどんな状況。想像できないししたくないし本気で遭遇したくないんだけど」

「たとえ話だと言っている。相対したとしてだ。お前が飛べて上級の魔法も扱えるようになっていたなら、難なく逃げることも可能なうえに撃退も可能なのだぞ?」

「……はい?」

 アルベヌの口から出たたとえ話。言われたことが理解の範疇を超えてて私は思わず呆けた声を上げた。フレイさんはなんでか納得している顔をしているし、上からルミさんが口笛を吹いてるような音も聞こえる。

 え、なんで? 私多分ドラゴンになんてあったら鼻息だけでも飛ばされそうな気するんですが。

 いや何言ってんだ、と表情で訴えてただろう私を見て、なぜわからないと言外に言ってきそうな顔をしているアルベヌのご尊顔を見る。それこっちの気持ちだからと見返していれば、背中にまた小突かれるような感覚があった。

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