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第14話 「陛下の前で言わないでくださいね!?」

 バタンと自然に扉がしまった所で、ガクリと視線が落ちる。

 少しの浮遊感と、ドズン、とすごい振動と音が下から来た。座っている場所に一瞬沈む感覚に思わず後ろを見れば。涙目になってる羊角のチェルルさんの大きな顔がある。

「ちょ、チェルル! ペットさま、じゃない! 転生者様抱いてるの貴女よ!?」

「すすいませ、こわ、怖くってぇ……!」

 メイドさんの一人、確か班長のフレイさんが勢いよく膝を着いてチェルルさんと私を覗き込んだ。

 私もチェルルさんに向き直ると、顔に手を伸ばそうとして届かないので諦める。

「えーと、チェルルさんごめんね。アルベヌ怖かったよね……私も……怖かった……っ!」

 必死に回していた頭がぶっつんした。一気に部屋の空気が弛緩して過ごしやすくなったせいもあるだろう。私も自然に流れ始めた涙をそのままに言葉を上げれば周りのメイド達がアワアワと慌てた。

「て、転生者様!? あれだけ普通に返せてましたのに!?」

「あそこは気張って言わないと色々問題だったから……!! それより、何、転生者様って……私には穂花って名前があるんだけど……」

 溢れ出た涙を拭い取り、落ち着いた所で気を取り直してメイドの面々を見回して声を上げる。

 メイドさん達は各々顔を見合わせてから、私を見下ろして。

「え、えーと……フォノア、様?」

「貴女たちも言えないの……! あー、もうこれは諦めるべきかなぁ……」

 言葉は通じてるはずなのに本当になんでなのか。

 思わずガックリと肩を落とす私を見てすいませんと各々声を上げるメイドさん達に首を大きく動かして大丈夫と示すと、私は改めて一人一人をゆっくりと見上げて見回した。

 それに何かを感じたのか、周りのメイドさんたちも私と視線を近くするためか、せっかく立ち上がったのにまた座り始める。ちょっと気恥ずかしい気もするが、言いそびれてたものを言うなら今しか無かった。

「皆さん、助けてくれてありがとうございます」

 私がそう声を上げて一礼すれば、ビクゥとチェルルさんの手が震える。その動きに引っ張られバランスを崩して倒れかければ、左右から別々の手が伸びて私を落とすまいと手を添えてきた。うーん、手厚い。

「す、すみませぇん……!!」

「アンタ怖いんだよ……!」

「1番長く抱いてたのが貴女だったから陛下は預けて行かれたの! 自覚持ちなさい!」

 エラさんともう1人、恐らく治癒魔法が使えるティレナさんだろう人の言い放つ言葉にチェルルさんはコクコクと頷いて返していた。

「あー、とりあえず、お礼は言えたから私は満足なんだけど。今のうちに聞きたいこととかある?」

「はっ! す、すみません! こちらのミスですのでお礼などそんな、恐れ多い……!!」

「こちらこそとんでもない目に合わせてしまって申し訳ありません……しかし、聞きたいこと、ですか?」

「えーと……」

 手の上で座り直した私が言葉を投げれば、チェルルさん以外の3人が顔を見合わせる。

 私をたまに見ながら悩んでいる3人を意識しているのかいないのか。チェルルさんが小首を傾げて見せた。

「あ、あの、私たちは貴女様をどう呼べば良いんでしょう……? 今まではペット様でしたが、お名前で呼んでも許されるのでしょうかぁ……?」

「呼び方か。あまり気にしてなかったけど……私の秘密というか、転生者って知ってるのは貴女達とルミさんとアルベヌだけだし。うっかりが出ないように、名前よりはペット様の方がいいかもしれないんだけど……それはアルベヌと相談してもらった方がいいかもね。橋渡しはするから頑張って。必要な話し合いでは怒ること少ないから大丈夫」

 チェルルさんの問いに確かに、と私が考えて吐き出した答えにメイド一同はうんうんと頷きながらしっかりと聞いて、最後は各々不安そうではあるが納得してくれたようだった。呼び方は結構大事な気がするからなかなか良い疑問だったと思う。

 ほかは? と大きな顔を見上げて促せば、そろりと手が上げられる。ティレナさんだった。

「あの、転生者様はなぜこのペンダイル国に? その、申し上げにくいのですが……御伽噺とかで出てくる転生者は、人間だけの国に出てくることが多いので、魔族側にいるのが珍しいと思いまして」

「そうなの? じゃぁ私そこで捕まったんかな……? この世界で初めて気付いたら、多分あれ飼育箱の中だからよく私も分かってなくて」

『飼育箱!?』

「いや食いつき凄くない??」

 そうか転生者って人間サイドに着くというか着かされるというか、そっちにいること多いもんね。と前世知識で考えながら答えていれば、言葉を遮って叫ぶ声に耳を塞いで思わずつっこんでしまう。

 私が耳を塞いだのを見て顔を青くするメイド達に大丈夫と片手を振って応えると、ホッとした顔をされる。

「そんな声あげること?」

「逆になんでそんな受け入れてるんです……!?」

「多分、頭が自分の身に起きてるってことを拒絶したんじゃない? だからあの時は何となく他人事みたいに見ててね……強いて言えば夢みたいな……? それにほら、今だって寝る所は基本鳥籠だし大差ないから」


『それ絶対陛下の前で言わないでくださいね!?』

 

「いやどうしたの???」

 私の疑問にティレナさんが唇を戦慄かせながら返される言葉に思った事を返していたらまた悲壮な顔で全員に叫ばれた。いやほんとどうした。

 

「転生者様。貴女様は陛下が言う言葉を鑑みますと、ご友人と認定されていらっしゃるのですよね?」


 班長のフレイさんが上げた声に、私はそちらを見てこくりと頷き返事をする。

「そのご友人を想ってあそこまでお怒りになられた陛下ですよ……? ご自身がまさに、貴女様をただの小妖精のように家畜や道具として扱ってると思われていると知れば、どうなると思われます……?」

「どうなる……って?」

「国王様、絶対怒るか悲しむかはたまた両方かってなりますから!」

「え、ただ寝る場所が対して変わらないって言うだけで、アルベヌの私への扱いに不満がある訳じゃないんだけど……?」

『…………』

 私の言葉に愕然とした顔をするメイドさんの顔が蒼白である。私なんかすごいこと言っただろうか。

 そう思っていたら、グッと横から近づいてくる動きを視界の端に感じてそちらを見れば、カステラっぽいお菓子をくれたエラさんが顔を近づけていた。思わずチェルルさんの手の上で身を遠ざけようとしてしまうも、落ちると思ったのか手を椀状に丸めたチェルルさんの動きによってなかったことにされた。そんな様子を見つつもエラさんは気にすることなく。

「転生者様。どんな物が好みですか。色でも手触りでもなんでも良いので教えてください」

「え。なんで」

「是非お聞きしたいです!」

 どこか真剣に聞いてくることに戸惑ってればティレナさんまで食いついて、チェルルさんとフレイさんも私を覗き込みながら首を縦に振って反応を示してくる。

 私は唐突にどうして、と思いながらも望まれるままに好きな色や手触り、転生前に好きだったことやインテリアの好み等を根掘り葉掘り聞かれることになってしまった。

 あれからどれくらい経ったのか。

 インテリアの次は服の好みや味の好み等を聞かれ、と質問攻めにされてそろそろもう答えることがないと考えていた所で。

「分かりました。今日は持ってないですけど、今度巻尺持って来ますので身体測定をさせてくださいね!」

「なんで!?」

「必要なことですから!」

 エラさんが力強く言ってくる言葉に気圧され、他のメイドさんを見回せば大きな首がこくりと頷かれる。フレイさんに至ってはなんかメモ取ってた。いやほんとなんなんだ。それ何をどう書いてるか知らないけどここの人たち以外には見せちゃダメだよ??

 そんなことを考えていた矢先に、扉が開く音がする。全員がそちらを見ると、先ほどと服は違うものの、アルベヌが部屋に入ってくるのが見えた。

 慌てて立ち上がるメイドたちの動きに身体が揺れるも、アルベヌから視線はそらさなかった。

 ルミさんも部屋に入ってきて、扉が閉じられるのを見届けた彼はそのまま、私を手に持つチェルルさんの前に立って、片手を差し出した。

「降ろせ」

 端的に指示される言葉に、チェルルさんができるだけそっと私を差し出された手のひらに降ろすと、一歩後ろに下がった。

 アルベヌが手の中に納まった私を見下ろし、反対の手を添えて自身の胸ほどの高さまで私を持ち上げる。

「少し遅くなったが、戻ったぞ」

「……おかえり、アルベヌ」

 淡々とした顔で言葉を紡ぐ彼に、私も務めて普段通りに返す。私の言葉を聞いて細められた瞳は、どこか不安げに見える。

 もしかしたらやったことを聞かれて、応えたそれが私にとっていやだったり辛いことだった場合を想像しているのかもしれない。覚悟はさっき、形だけと言われるかもしれないが決めていたので気にしないのに。見上げ続けていたら添えられていた手の指が近寄って横顔に触れてくる。普段ならしない匂いを感じて、私は思わずその指を見て触れる。

 顔をそちらに向けて匂いを嗅いでみると、僅かに清涼感のある匂いがする。そういえば普段は少し冷たく感じる肌も仄かに温かく、手入れされたようなしっとりさがあった。

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