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第13話 「流石に譲れぬ」

「ギフトって何?」

 魔王様の顔を見上げながら問いを投げれば、少し考える素振りを見せてくる。

 わかりやすい言葉を吟味しているのか暫く沈黙した後に。

「この世界に不慣れな存在が生き残れるようにするための贈り物、といった所だろうな」

「普通のヤツとは違うとは思ってたけど、転生者かぁ……聞いたことはあったけど見たのは初めてだわ……」

 魔王様の言葉に続いて、興味深そうに私を見つめながら言葉を紡ぐ青年。とりあえずギフトとは私の知っているところで言えばチート能力といったところだろう。言葉だけ、と思ってしまうが自分のなってしまっている種族を思えば、確かにチートと言える。事実、私が喋ったからこそこの魔王様は私を他の同種と同列に扱うのをやめているようだったし。

 初聞きの言葉を理解した上で息を吐いた私の頭と背中に断続的に来る重みに、そういえばずっと撫でられっぱなしだったと思い出してそろそろやめなさい、と原因の指を腕で押しのけようとするが如何せん物量が違う。

 指が押さえられた感覚は知覚しているのだろう、ピタリと静止するがそれだけで退かされることはなかった。

 そういえばさっきからジワジワと身体が温まって行くような感覚がある。おかげで身体は動きやすくなって来てるが、なんだろうこれ。

 あの、魔力入りの糖蜜を舐めたあとの感覚と似ている。

 思わず思考に沈んでしまい、自然と顔が俯いて腕の力も緩む。

 ずし、と頭に大きな指先がのしかかった。触れたところがじわりと熱を帯びる。

「わ、なに」

 慣れない感覚に思わず声をあげるが、指先がまた滑り出せばその滑る所からじんわりと熱が身体に浸透していくような感覚がある。

 思わず魔王様を見上げれば、いつものなんてことは無いと言わんばかりの淡々とした表情で。

「なんだ?」

「いやなんかね」

 

「お二人さん! 誰も声あげないからって俺らもしかして忘れてない!?」

 

「あぁ、そういえばいたなぁ? それに先ほどから口調が崩れているぞ? 猫かぶりはもう終いか?」

 あまりにも静かな空間になったもんだから普通に過ごしてしまっていたが、そうだ人が沢山いたんだったと内心で反省する。

 魔王様は声を上げた青年にわざとらしく愉快そうに、からかうように言葉を投げかけていた。

「外向けの顔って言ってくれない!?」

「大して差はなかろう」

 私を撫でながら言う姿に青年がぐしゃりと頭を掻くような素振りをして、勢いよく近づいてくる。

 思わず身をのけぞらせるも目の前までやってきて本格的に観察するように顔を寄せられ、じぃ、と見つめられた私はどうしろとと魔王様と青年を交互に見上げるのみだ。

「大きさの違いを考えてやれ。怖がったらどうしてくれる?」

「いやこの中で1番怖いの俺、貴方だと思ってんだけどそこんとこどうよ」

「ほう? その無礼な口を今すぐ縫い付けてやっても良いんだが……フォノ」

 体に触れていた指が滑る。背から前に回り込むように曲げられた指先が顎を軽く持ち上げて、顔を真上に向けさせてきた。視界に入った見慣れた獣の双眸がゆるりと細められ。

「……我は怖いか?」

「…………」

 投げられた言葉に瞳を瞬かせる。首の下にある指に手を添えた私は少し考える素振りを見せるように、首を緩くきつい体勢の中で傾けた。

 

「いや、この場にいる大きい人らみんな等しく怖いに決まってんじゃん。一挙一動で下手したら私潰れるし今だって首折れるんじゃないかって思ってるところなんだから」

 

 だからこれ退けて、とぺしぺし大きな指を叩く。

 私の言葉と仕草に青年がギョッとした顔を向けてくるが、事実そう思っているから仕方ない。

 そして返答された魔王様はと言えば。

「っ……くは、ハハハ! あぁ、ああそうだろうとも。お前は大層怖がりだからな。これからはより一層、真綿で包むように囲ってやろうか?」

「え、物理的に? ……それはちょっと」

「ぐ……ッ!」

 愉しげに笑い声を上げ、笑いながら語りかけてくる内容に思わず綿で包まれる自分を想像してしまって私が思い切り反応すれば、吹き出しそうになったのを堪えるように顔を背けて肩を震わせる。

 いやだから手の上の私もそれ揺れるんだって。グラグラと揺れる場所に翻弄されつつ、首の前にある指にしっかりとしがみついて耐える。

「いや怖がってるように見えねぇんだけど……?」

「そりゃ外面は整えるに決まってるよ。でなきゃ会話もままならないんだから」

 青年が見下ろしながら言ってくるその言葉に少し引き気味に言葉を返す。青年はそんなもんか? と考えるような顔をしてから今も肩を震わせる魔王様を見つめた。

「貴方がそこまで笑うって珍し……」

「フフ……ッ、そう、だな。んんっ! ……元々そんなに笑ったり楽しんだりする方ではないと自負していたが、色々とコレが規格外でな……最近は割と、楽しませて貰っている」

 青年の言葉に同意するも、1度咳払いをしてから言葉を紡ぐ魔王様が再び私を見下ろす。

 コレ、と言われたことに思わずペシりと指を叩けば少しニヤリと意地の悪い顔を向けられた。指先がズレてさらに回り込まれ、私の身体に巻き付くようになった。キュッと握りしめられる。

「ちょっと!」

「我はお前と遊んでいるだけだが」

「いや手慰みにしてるだけでしょっ!」

 強弱をつけながらやわやわと握られる手の動きに合わせて、体全体がポカポカとしてくる。身体が暖まるというより、なんか気力が戻って来るような。

「ふむ、そろそろ良いか」

「あ、なんか元気になるの速ぇなと思ってたけどやっぱりか。王様の魔力はさすがですねー、っと」

 私の身体を握りこんでいた手が少ししてゆっくりと離されれば、その場に座り込んだ状態でじっとする。

 上から聴こえる声に首を動かして覗き込む大きな四つの目を見つめて身体が震えるも。

「私に何してたの? なんか身体ポカポカして動きやすくはなったんだけど」

「なに、魔力枯渇の1歩手前だったのでな。我の魔力を流し込んで治療していた。肌が触れてる方が注ぎやすいのでな……先程からずっとやっていたが、気づいていたのか?」

「うん、なんか温かいのが中に入ってくるような……そんな感じ。身体、すごく楽になったよ。ありがとう」

「まだ魔法も教えていないのに感じ取れたということは……やはりお前は面白いな」

 ジワジワと温かくなるあれの正体が分かって、先程よりは軽く動きやすくなってる身体を感じながら感謝の言葉を述べれば魔王様は満足そうに、愉しそうに言葉を返してくる。

 そんな私たちを見て青年が肩を竦めれば、くるりと顔を床の方に向けた。

 

「はいはいメイドさん達もずっと座り込んでないで。立ち上がって自己紹介くらいしたら? 王の部屋付きになったんでしょ?」

 

 もはや敬語も無くしたあの軽いノリでメイドさん達を青年が呼び、その声に反応してかゆっくりと重いものが動くような音が聞こえてそちらを見る。

 4人のメイドさんが立ち上がってオロオロとこちらを見つめていた。

 ごめんすっかり失念してた。

 メイドさんたちを見回し、羊角のメイドさんの胸元が真っ赤になっているのを見て絶対あれ私の血だぁと遠い目になるが、そういえばお礼ちゃんと言ってないやと思って手の上でメイドさんたちの方に身体を向ける。

 それを見下ろしていたんだろう魔王様も僅かに立ち位置を整えた。先程まで青年の方に身体を向けていたから。

 

「ほ、本日より、この部屋の担当をさせていただきます。フレイです。この第3班の班長をしております」

「班長補佐の、エラです!」

「ティレナです!」

「ちぇぁ、チェルルと申します!」

 

 名前を言って深々と一礼する面々を見た後に、魔王様を見上げれば、ほう、と声を漏らして少し思案したような顔をする。

「顔を上げていい」

 暫くして言葉を投げた魔王様の声に、メイドさん達が顔を上げた所で。

「仕事内容がこの部屋関連限定になるだけだ。あまり気負わず普段通りに働いてくれたらいい。……我が公務で不在の時は、その日の側付きがコイツの話し相手になるという仕事が増えるくらいだろう。よろしく頼む」

『はい!』

 流れるように静かに言われたお仕事の内容に私は目を瞬かせるも、メイドさん達はしっかりとした返事を返していた。お仕事モード入るの早くない??

「……そこの、チェルルといったか」

「ひゅ!? ひゃ、ひゃい!」

「お前が1番持ち慣れていそうだな。少しの間任せる」

 

「「へ?」」

 

 名前を呼ばれたあの羊角のメイドさんの手をあっさりと掴み、その手のひらを上にしてから私を滑り落とした魔王様の行動に、私とメイドさんが呆けた声を上げて。

「え、え!?」

「アルベヌ?」

 

「フォノ。我は少し行かねばならない所がある。お前も連れて行きたい気持ちは多大にあるが、きっと我はお前が望まない事をするだろうからな」

 

 メイドさんの手の上の私を指先で撫でながら優しく言われる言葉に、何となく察してしまった。

 きっと他の面々も同じだろう。部屋の空気が一瞬、冷えた気がした。

「ア、アルベ」

「我の友。コレは、流石に譲れぬ」

 思わず名を呼んで留めようとする。けれど言葉を遮るように、それも金色の見慣れていたはずの瞳が見慣れないすごく冷たい色を帯びた状態で声をあげられてしまえば、口を噤むしかない。

 口を引き結んだ私を見た魔王様は、その冷たい色を帯びた瞳のままで私を見つめて数度撫でた後、その手を離して。

「先ほどは盗むとしっかり表現してしまったが……それだけでなくとも、我自身や我のモノに何かしらをしようとした輩は全員、反意などがあるということだ……

 我が自ら処分せずにどうするというのだ。それに、先ほどの様子を見ていたならわかるだろう……?」

 思わず力を込めたんだろう、私からそう離れていない手から、バギン、と結構な音がする。それに私を抱くメイドさんが震えたのが、体の揺れで分かった。

 あぁそうだった、この魔王様。

 

「見目があるところでは確かにペットのように扱ってはいるが、お前は我の友なのだぞ? 友をあのようにされ、怒らぬ愚者がどこにいる。そうであろう?」 

 

 相当ブチ切れていたんだった。

 表情は凍りついたように変わっていない。無だ。だが、その分瞳が物語る。人を殺そうとしている目はこういうものを言うのだろうと理解した。怖いというより、冷たい雰囲気が纏わりついている。


「いつもの言葉を、言ってはくれないか」


 その雰囲気のままに私を見下ろして魔王様が望んでくる。けれど言ってしまったら、ひとつかふたつか。もっとかもしれない。命が消えてしまうのだろう。本能的に察知して身体が震える。

 その、執行の合図にされそうになってる言葉は頭に浮かんではいた。

 大きな眉根が寄る。周りの空気がぐんと冷え込んで、私の上で息を呑む高い音が聞こえる。

 あぁそうだ。ここにいるのは私と魔王様……アルベヌだけじゃない。改めて認識して奥歯を噛み締めた。

 結構な大事になった。何かしら動かないと示しがつかない。なら、それを邪魔する訳にも行かない。


 でも、人が、私の言葉で、確実に死ぬ。


 そう考えると、背中をぞわりと冷たいものが撫で下ろしてくる感覚がして。思わず顔を顰めて俯かせた。視界の端に映る、大きな身体の横に持っていかれた手がギチリと握り込まれたのが見える。私に向かれていた身体が向きを変え始めた所で。


「……っ、アルベヌ」


 名を呼べば、ビタリとその動きが止まるのが分かった。顔を上げればどんな表情だと言いたくなるような、複雑な顔をした大きな友達が目に入る。


 私をここに置いているから、こんな事件が起こった。

 だったら私は受け入れないといけない。それに、彼だけの責任にしてはきっとダメなことだから。半分は自衛も出来ない自分のせいなのだ。友と言われるならば私も、これから発生してしまうだろう業は一緒に背負わないと不釣り合いじゃないか。

 そう考えて息を吸い、頑張って口を開く。


「行ってらっしゃい」


 言われると思ってなかったんだろう。驚愕に見開かれる瞳に見つめられ、次は私が困ったような顔を向けた。

「……貴方は、何か返してくれないの?」

「っ……!」

 思わず息を呑んだような、大きな彼のそんな姿を初めて見たので少し新鮮な気分になる。

 いつもなら私を入れた鳥籠を撫でていく。けれど、今はそれは無い。

 彼は少し逡巡した後に。

「……できるだけ、早く終わらせる。待っていろ。

 ――我は出るぞ。ルミ。お前もついてこい」

 少し肩の力が抜けたのか、いかり気味に見えた肩が少し下がったのが見えた。

 言葉をこちらに向けて投げた後に青年……ルミさんに顔を向けて呼びかければ、そのまま扉から足音を響かせて出ていく。まぁ下は絨毯だから。この足音聞こえるのも私だけなんだろうけど。

「はいはい……って呼びつけておいて置き去りはないでしょ! 待てって!」

 早足にルミさんもそれを追いかけていけば、残されたのはメイド達と私のみだ。

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