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第123話「必要なのです」

 創造神様の言葉に何となく。あぁ、私。壊されかけてるのか。閉じ込める方ではなく……と、理解した。

 言われるままやっただけだったけど。さっきの話聞いたら、禁忌をを犯してたみたいだから、罰、みたいなものだろうか。

 すごく眠い、けど。意識はある。でも。自分の身体が、わからない。アルベヌの愕然とした顔が、唇を引き結ぶ口元が、痛々しい。

 私を見て何かを思案していたのか、瞳がすごく揺れている。でも、次の瞬間には、彼の姿が私の視界から下へと消えた。

 何かが、床に落ちるような音がする。

 

「……頼む――いや、お頼みします……! ソレを――フォノカを、どうかお返しを……!」

「どうして? ただの喋れるだけの珍しい小妖精でしょう?」

「いいえ……! いいえ……!!」

 

 こんな、()い願うような声、今迄聞いたことがない。私が選択を間違ったせいで、そのしわ寄せがいってしまったのかな。

 ごめんね、アルベヌ。一国の王に、とんでもないことをさせてしまってる。

 

「じゃぁ、なんで? この子がいても、あなたたち……()()()()()には不利でしかない。

 僕の目で見る未来(さき)にはそう見えてる。だから、この子が望んだとおりに。個人的には名残惜しいけどこの子を消す。それをしているだけだよ?」

 

「そうであっても!」

 

 震えているが力強い反論のような声に、創造神様の言葉が止まる。

「我が国に、その者は必要です……! その者の帰還を願う者も、おります……!」

「……ふぅん、それだけなら」

 

 とん、と頭に創造神様の指が乗る。

 本当に、終わりかな。視界が白ける。意識も、だんだん沈む様な感覚が始まった。

 

「もういい――」

「何より、我自身に必要なのです!」

 

 創造神様の言葉を遮るようにアルベヌの声が響いて。

 

「その者が()ねば、いなくなれば……! 我は、先ほど言われた話よりも前に堕落してしまう……!!」

 

 頭から重みが離れた。創造神様が指を離したのか……朦朧としているものの、意識は残った。

 

「どうか……! 我の大切な、小妖精(ピクシー)――小鳥を……!」

 

 必死な、痛々しい。彼にしてはすごく。珍しい声が聞こえて。

 

「――()()()、ホノカを! お返しくださいますよう、平に!」

 

 泣きそうな震える声で、叫ばれるように発されたその言葉に。動かない目が思いっきり見開かれた感じがするし、動けはしないけど意識も驚きからか戻ってきた。

 え。愛しいって。え。しかも、ちゃんと名前まで、呼んで。

 

「今の時勢で最強と言われるあなたの……外交以外の唯一の弱点だよ?

 本当にいいの?」

「その者がいなくなる……それこそ、我が国の多大な損失……!

 何より――我の、絶望だ……!」

 

 アルベヌの必死な声色に、創造神様の思案するような喉奥で唸る声が聞こえる。

 そうして、クスリと笑う声が、聞こえた。

 

「うん、及第点かな」

 

 明るく発された声の後に、パチン、と指の鳴る音がして。

 私の身体の異様な軽さも、眠気も、動かないあの感覚も。全て無くなっていた。

 創造神様を仰ぎ見れば、彼はニッコリと人好きのする人懐っこい笑顔で、あっち見て、と指を指し示してくる。

 

 そこにいたのは地面に膝と手をついて、土下座でもしていたかのような。そんなアルベヌがこちらを呆然と、両目から涙を流し見つめてきている姿で。

 

「……ホノカ……?」

 カラカラの乾いた、震える声で名を呼ばれ。私はたまらず、創造神様の手から飛び出してアルベヌのその顔に飛び込んでいた。

「ごめん、ごめんなさい! 私が変なこと言ったせいで、貴方にあんな……!」

「あぁ……ッ、あぁ……! フォノ……!!」

 彼の手が私に触れる。感触を確かめるように触れられ頬に持っていかれ、ぎゅぅ、と珍しく力強く抱き寄せられた。服にジワリと温かい水がしみこんでくるのがわかる。

 

「……よし、これでまた道はかなり狭まったかな」

 

 少しばかり愉しげな創造神様の声に、私がそちらを見る。

 彼は私の方を見て、クスリと困ったように微笑んだ。

 

「あー、うん……

 あなたの言葉に乗っかって、ちょっとした良い方向に行くための試練、的なヤツをちょっとしてみようって思って……本気であなた消す気はなかったんだけど……

 なんか、勢いで告白させちゃったね。まだ若い悪魔族の子に、悪いことしちゃったかなー……はは」

 

 いやこの場で何言ってんのこのひとぉ!?

 アルベヌは微動だにしない。何を考えてるのか目も見えないからわからないけど、私を捕まえる手はいまだに力強く顔に押し付けてきてる。

「あの……こんな場で聞くのもなんですが……悪魔族の成人って……?」

 

「ん? 1900歳!」

 

 いい笑顔で答える創造神様の声に、私は思わず遠い目をしてしまう。

 何となくまだ思春期なのではとか思ってたけどそうかー。そうだったかー。

 だから先王のアーヌストさんお祝いに来てたのね……そしてアルベヌが父も若いほうって言ってたけど、確かにそれ考えると若い方だった……

 いやそう考えたらあの人どんだけ子供だったアルベヌに王位譲ったの!? 一人にしたの!? そりゃ色々嫌になるよ!? 200年後に国を怠惰ゆえに壊したって言われても文句言えないと思う!!

 そんなことを考えている間も、アルベヌの目からは涙が零れているようで。私の服がまた濡れていくのがわかる。

 

「……アルベヌ……大丈夫……?」

 

 先ほどから微動だにしない彼の頭を角に手を掛けながらそっと撫でてみれば、ふる、と大きな身体が震えた。

 

「……お前が、殺されると……本能的に思ったのだ」

 

 ぽつり、と声が零される。何処かまだ、呆然とした心地の声色だった。

 

「ただでさえ、白いお前の肌が透けて……! 段々と、形が、なくなっていくのを見て――恐ろしくなった……!」

 

 私そんな状態だったんだ。想像してみたらゾッとする。多分魔力抜かれてたんだろうけど恐ろしい。

「ごめんね、アルベヌ。私が不用意なこと言ったから……」

「あぁ、全く……まったくだ……おかげで我は、みっともない醜態をお前にさらしてしまっている……!

 二度とお前の前では、醜態は見せぬと、言ったばかりであったのにだ……!」

 彼の手が動いて、私の身体を握られて持っていかれる。また彼の顔は見えなかったが、今度は胸元に持っていかれて抱き寄せられた。

 

「なんとも……なんとも、情けない……!」

 

 ぼた、と頭に落ちた涙に上を見上げれば、涙を流しても奇麗なご尊顔がある。

 でも何となく、その泣き顔が普段の涼しげなものと違って年相応の顔に見えて、何となく苦笑してしまった。

 もぞ、と先ほどよりは緩い腕から抜け出して、彼の顔の前に飛んだ私はハンカチなんて持ってないので服の袖で彼の目元を拭うようにする。

「あんまり泣くと……戻った時に、騎士さん達が心配しちゃうよ?」

「ッ、お前が、言うでない……! 元凶めが」

 振り払われたりはしないけど、私を見つめる金の獣のようなあの目が、安堵に染まっているのがわかる。

 その目に私もホッとして、彼の顔にまたそっと身を寄せて抱き着く様に動く。

 「本当にごめんね……何度も助けてくれてありがとう……!」

 顔の傍の金の目が細まり、閉じられるのに合わせて。また彼の手が私の身体をそっと押さえて、私をしっかりと確かめるように力強く抱き寄せていた。

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