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第118話 「ここもあそこも近い場所」

 暫く歩いたところで、白く大きな柱が一対見えた。

 ひび割れ砕けた石畳のようなものもその奥にちらほらと見える。

 しかしその更に向こうは、霧がかかっているかのように不明瞭だった。遠くにぼんやりと建造物のようなものが見える。多分あれが神殿だろうなと考えたけれど、私には何となくその霧に包まれている場所を知っているような感じがして。

 

「陛下、フォノ様……禁足地の入口に到着しました」

 

 ジャスティアさんの言葉に確かにそれっぽいと考えている間に、燐光や小妖精たちがその奥に消えていく。

 それを見送ったあとで上からの視線が刺さるのを感じてそちらを見上げれば、やはりアルベヌが私を見下ろして来ていた。

「……何か感じることは?」

「……奥にあるの、知ってるものな気がするんだけど……」

 何だったか、と考えている最中に彼の手が緩められた。身動きができるようになったと理解して翼を動かして飛んでみて、ジャスティアさんより前に出ないように柱に近づいてみる。

「……柱とか触ったことある……?」

「はい。そこは年に一度磨いておりますので」

 じゃぁ大丈夫か。とジャスティアさんの言葉に安堵しつつ、触れる位置まで柱に近づき、ぺたりと触れてみる。

 同時に感じる、フェレノラと戦っていた時に触れた天属性の魔力の感覚。

 柱を触ったままで奥を見てみれば、霧のようなものが聖域魔法の時に見たあの光のカーテンのようなものに変じていた。

 柱から手を離せば、カーテンが霧に変わるように形をぼやけさせていく。

 それを見た後で柱から離れてアルベヌのそばに戻ると同時に差し出された彼の手にゆっくりと降り立った。


「……アルベヌ。柱を触った時に私の目には霧が別物に見えたんだけど……」


「別物?」

 アルベヌが私と柱と、柱の間の奥を見るように顔を動かし、ジャスティアさんの後ろから前へ出て空いている片手で柱に触れる。

 それから顔を動かして柱と奥とを見比べるようにしてから、私を見下ろして首を左右に振って見せた。

「我の目には変わらず、霧にしか見えぬな」

「そうなんだ……

 ちなみに入ろうとしたらどうなるの?」

 問い掛けにアルベヌは私から視線を外してジャスティアさんを見つめ。

 それに頷いたジャスティアさんが一人の騎士を見れば、その騎士さんが敬礼をした後で禁足地に普通に駆け足で入って。霧の中に姿が消えたと思った一秒後位には普通にこちらに駆け戻って来ていた。

「ジャスティア騎士団長。今まで通りです」

「ご苦労……フォノ様。この通りです。

 入っても直ぐに戻されてしまうので、遠くに見える神殿の姿を見るくらいしか出来ないのです」

 ジャスティアさんの言葉にそっかー、と私は項垂れる。

 この状態でも、出迎えがきたなら普通はみんな入れたりするものではないんだろうか。

 うーん、と私が頭を悩ませていると。フワリと横に何かが来る。

 そちらを見れば、淡い水色の燐光が漂っていた。この子に聞けるかな。

「あの――」

 

 ――オ気ニ入リガ望ムナラ、歓迎サレル――

 ――ココモ、アソコモ、近イ場所ダヨ――

 

 私が口を開いて問いを投げようとした瞬間に言われる内容に目を瞬かせている間にその燐光も中に飛んで行った。

「……フォノ。先程のも小妖精か? 鳴いていたようだが」

「あ、多分……私が望むなら歓迎されて、ここもあそこも近い場所……って、言われたんだけど……」

 私がアルベヌを見上げて先程の言葉を伝えれば、思案するような素振りを見せてくる。

 ジャスティアさんも禁足地の方をじっと見て静止していた。腕を組んだ後で唸るような声も聞こえるから、アルベヌ同様思案しているのかもしれない。

 

「……道案内できるんですかね」

「やっぱり禁足地に入るなんて、なぁ……」

 

 そんな中、近い位置に集まって警護を固めていたらしい騎士たちの囁きが私の耳に聞こえる。

 これはあくまで検証だから、行けなかったとしても問題はないはず……なんだけど……なんかこう、胸にモヤるものがある。

 私がアルベヌの手の上で俯き唇を引き結んだところで、グリッと後頭部を無遠慮に押すように撫でられた。

「っ、わ」


「外野の言葉など捨て置け。最初からどうなるかを確認するための遠征だ。どちらであろうが、意義のある行程だと言っている」


 上から降り注ぐ言葉の中でグリグリと頭を撫でる力強いその力に、思わずその指を両手で掴んで頭から離すように動かせばあっさりと動きは止まった。

 頭を擦りつつ身を捩じって彼を見上げれば、真剣な顔でこちらを見下ろしているご尊顔がある。

「フォノ。向かえないなら進まなくても我らは構わぬのだが……お前は先ほど歓迎されると言われたのだろう」

「……うん」

「こことあそこは近い場所、という言葉も気になりますね」

「そう、だね……ん、考えてみる」

 アルベヌとジャスティアさんがかけてくれる言葉に、一度深呼吸してから考えてみる。

 近い場所。確かにあのカーテンみたいな霧は私が前使ったというか、使わされた? 聖域魔法と似たものは感じる。

 あそこは聖域とも言われているし、あながち間違いじゃないのかもしれないけど……だとしたら、望めば歓迎されるっていうのは……

 聖域魔法内部は私が望むことができる空間、ということで。私が嫌な気持ちにされてるなら追い出す、とさりげなく小妖精にアルベヌがどこぞに落とされかけてはいたけど、やめてと言ったらやめてくれた。私がアルベヌを留めることを願ったからあの空間に彼を留めておくことはできた。

 

 聖域魔法と聖域と呼ばれる禁足地の構造が近い物なら、リンクさせることができたりしないんだろうか。

 

 もし繋げられるなら、私がこの人たちを入れて。と願えば禁足地に入ることもできるかもしれない。

 でもこれをどう説明したらいいものか。まずは聖域魔法発動させてみて確認することからスタートなんだけど……

「何か思いついたらしいな?」

「っふぁ!? なんで!?」

 考えていたところで背をつつかれながら掛けられる声に、ビクッと身を震わせてからアルベヌを見上げる。彼は口角を持ち上げて薄い笑みを浮かべながら私を見下ろして、翼の輪郭を指先でなぞり始めた。

 待ってなんかくすぐったいからやめてもらって。


「お前は一喜一憂すると翼に出ると言ったであろう? ぱさぱさと小刻みに揺れていたぞ」

「私の翼は尻尾じゃないんだけど……?」


 まるで犬の扱い……と率直に返しつつ翼を動かして指先を外せば、クツリと小さく笑われた。私の乗る手の高さも変えたのか、ちょっとした重力を感じつつ近づいた彼の顔を見つめる私を見下ろして、彼は翼から外された指先をまた寄せては後頭部から背中を撫で始める。

「我らはこの場所にお前を連れてくるための案内人と警護人だ。検証をするのはお前だからな……

 思いついたことがあるのなら、我らを気にせずにやってみるといい」

 言葉が終わると同時に頭頂部に指先をポスリと当てられてから離された。そこに両手を当てて擦りつつ、私は彼から視線を外してまた柱を見つめて。

「……わかった。やってみる」

 一言呟いて、彼の手の上で立ち上がっては翼を動かして移動する。二本の柱と、その奥の霧のようなものが私の視界にも見える位置に浮かんだところで、周りの人たちも動いていた。

 私の前にはだれも来なかったから少しありがたかった。多分音的に後方に待機してくれていることだろう。これで集中しやすくなる。

 ちょっとやったことないイメージだし、内部がわからないからうまくいくかわからないけど。

 自分が使える聖域魔法。創造神様があの時私に言わせただろう言葉は、はっきり言うとうろ覚えだ。でも、この世界の魔法の呪文はあくまでより強くするための補助。本来は動作一つとイメージでどうとでもなる世界線。


「……拒まないで……私たちをどうか、天ノ揺籃(あまのゆりかご)に」


 思わず両手を組み、祈るように胸の前に持って行って。私の聖域魔法と、禁足地の聖域が似たようなものであることを願いつつ、繋げることを意識して魔法を発した。

 その瞬間に、ブワッと柱の奥の空間から強めの風が吹きつける。

「っ!?」

 思わず声を上げた私同様、周りの人たちも各々驚愕の声を上げるのを聞きつつ。風が吹いたと同時にギュッと目を瞑って頭を腕で覆うようにしていたものの、風が落ち着いたところでそちらに視線を向ける。

 柱の向こうの霧が、聖域魔法内部のようなあのオーロラのようなカーテンになっていて。奥で飛び交うなにかの姿もちらちらと見えるようになっていた。

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