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第12話 「これ、冤罪、だから!」

身体が触られている。撫でられているような感覚を覚えて、目をぼんやりと開ける。

 定まらない視界に、黒と金色が揺れた。目を数回瞬かせて、視界を慣らした後に映ったものに久しぶりと思わず言いそうになってしまう。眉根をギュッと寄せてる魔王様の顔が覗き込んでいるのが視界に映ったから。 

 でも、身体が異常に疲れている。声も出ない。眉間のシワが残るぞ、と手を伸ばそうとしても、腕すら動かなかった。なんでこうなったんだろう。

「我の小妖精、我の小鳥よ。起きてくれたか……身体は辛いだろうが、気分はどうだ」

 名前を言ってこない。恐らく周りに誰かいるんだろう。青年だろうか。

 そんなことを考えながら、表情を何とか笑みにしようと試みる。上手くいってるだろうか。全体が鉛のように重いので分からなかった。

 大きな手指が伸びてきて、緩やかな動きで私の側頭部から体の輪郭をなぞる様に撫でる。

 久しぶりに感じた気がするその感触にほう、と安堵の息を吐いた。

「お前の背を治そうと魔法薬を使った上に、お前の魔力を皮膚や骨の再生や造血などに多大に使ったからな……普段魔力を使わないお前だ。倦怠感がすごいだろう?」

 私の背中、想像以上に酷かったらしい。魔法薬ってなんかすごいネーミングのもの使われてる。

 口を動かそうとすると、そろりと頭を撫でられる。喋ってほしくないらしい。あぁ、そうか人いるんだった。そう思い出して深く息を吐く。

 魔王様のところに戻ってこれて、命が助かって。でもなんか忘れてる気がする。そういえば、あのメイドさんは? どうなった?

 私が視線をさまよわせると、私を撫でていた手指の動きが止まる。思わずそれにまた魔王様を見れば、私を見ていた瞳が険を帯びて別の方に向けられていた。 

 

「さて……我の小鳥は一命を取り留めたわけだが……我の小鳥を連れ出したらしいお前たちに問う。なぜこいつを連れ出せた?」

 

 待って。もしかして私の治療して起きるまでメイドさんずっといたの? しかもお前たち? どの人たちが集まってるのか教えて。というか見せて。

 寝っ転がってるため私の視界は真上に魔王様がいるか、横を見たらクッションの膨らみしかないので何も見えない。ジーザス。

 それになぜ連れ出せたって! 貴方の魔法なかったから鍵かかってなかったんだよ!! 何とか、何とか声を出さなければ。

「で、ですから、その、この子の角が鳥籠に引っ掛かって落としてしまって」

「思わず……受け止めたんですけど……っ、アタシが受け止めた反動で扉が開いて……!」

「我の施錠魔法がその位で解除されるとでも言いたいのか?」

 だから魔法かかってなかったんだってば!!

 苛立ったような魔王様の言葉に複数の女性の怯えた声が聞こえる。この声の感じ、私を手厚く保護してくれてた人たちだ。完全に冤罪が出来上がってしまう。

 近くで断続的に何かを叩きつける音が聞こえる。魔王様がイライラして指で机をたたいているんだろう。やめなさいってその人たちほんと何もしてないんだから。

「ほ、本当に、それだけ、なんです……っ」

 あぁぁ私を必死に抱きしめて逃げて守ってくれてた泣き虫のメイドさん! 一番の功労者なのに怖がっている声が聞こえてすごく申し訳なくなってくる。

 いや動かないとか言ってる場合じゃない。無理にでも動く。大丈夫もともと社畜だったんだこれくらいで音を上げてどうする穂花!

「嘘を塗り重ねるか、いい度胸をしているな……ルミ。見つけたときはコレはどういう状況だったのだ」

「うーん、私としてはまぁ、貴方様の小鳥を必死に守ってるようには見えていたのですが……小鳥も懐いてるようでしたし」

「ほう? ……こいつが懐く、か。ありえんな。我以外の大きな生き物を恐れる、可愛らしい小鳥なのだぞ? ……魅了でも付与したか? それとも精神操作か……いったいどんな魔具を依頼者から渡された?」 

「そ、そんなことしてません……!」

「依頼者なんて、そんなもの……! 私、私たちは、ただのメイドでございます……!」

 ドン、とひときわ強く机が叩かれた。おそらくタイムリミット。あぁぁだからダメだって勘違いだから冤罪だから!!

 身体を捩る。動いた。仰向けからうつぶせになって、そのままクッションの盛り上がってるところに這い上がる。乗り上げる。

 魔王様がガタリと机から立ち上がって、机から離れようとしていた手に。私は思いっきりクッションをトランポリン代わりにして飛びついた。火事場の馬鹿力というモノだろう。これ気を抜いたらまた私動けなくなるかもしれない。

「!? なっ、に……!?」

 思わぬ感触に驚いた魔王様が驚愕の目でこちらを見下ろしている。魔王様の手はもう机から離れていて、結構な高さに私は宙ぶらりんになっている。

 あー、体が重い。手が震えるが。呆然としてる魔王様がこちらを見下ろしてる間に。

「これ、冤罪、だから!」

 思いっきり声を上げる。周りに人がいる? 知るか。助けてくれた人に変な冤罪掛けられる方が嫌だ。

 周りがシンと静まり返る。魔王様もポカンとしていたがやがてハッとして私を反対の手で掬い上げて眼前にもっていった。ぐわんと勢いよく視界が変わる。さすがに私の負荷を気にする余裕がなかったらしい。

「おまえ、なにを」

「こっちのセリフだよ! 私がこうなったの、半分は! アルベヌの! せいなの!!!」

 私が上げた渾身の大声に魔王様も、周りの数名も固まった。空気が少し凍った気がする。しかし気にしてられない。

「アルベヌは魔法かけた気だったかもしれないけど、施錠魔法されてなかったの! だから私鳥籠から放り出されて床に叩きつけられたの!!」

「なっ」

「落ちた私見てせめて治療してから誠心誠意謝罪してお返ししようって無断で連れて行ったこの子たちも問題だけど! でもこの子たちは私を手厚く看病したりしてもてなしてくれてただけなの!! だから、これは冤罪です!!!」

 

 ぜぃ、ぜいと大声を出して肩で息をつく私を見て魔王様が目をまん丸に見開く。

 あなた以外と大きい目してたんだね、なんて考えたのも束の間、言いたいことを言いきって気が抜けてしまった私は手の上でふらりと身体を傾がせる。

 ぽすりと横に添えられていた手に身を預けて、肩で息をする。

 信じられないものを見る目で魔王様に見られているが、つい、と顔を背ける。

「えー……と? 陛下? その小妖精……本当に、喋るのですか……」

 聞こえた青年の声にそちらをチラと見たら、顔をポカンとしたものにしている貴公子の仮面をかぶっているルミさんがそこにいた。まぁいるのは知ってました。わかってて喋ったから別にいいんだけどね。

 魔王様の手は微動だにしなかった。しかししばらくして、はぁ、と近くの口から深いため息が吐き出される音が聞こえる。

「フォノ」

 愛称を呼ばれて視線を向ければ、何とも言えない顔をしている大きな顔がそこにあった。

「なぜ声を上げた」

「冤罪が生まれそうだったからですね」

「お前は攫われたんだぞ」

「アルベヌが施錠魔法忘れたせいでもあるし」

「あんな、一歩間違えば死ぬような状態にまで」

「あれをした人は別のメイドだし。この部屋にいないみたいだからいいじゃん」

 

「あれは明らかに殺そうとしてたからね……即座に陛下が牢にぶち込めってそれはすごい顔で言ってたよ……」

 

「情報ありがとうルミさんその顔すごく見たかった」

「ほんとにしゃべってるね!? そして名前覚えてた!?」

「我が喋ってるだろう間に入るな……!」

 魔王様との押し問答のようなやり取りの間に入ってきた青年の言葉にもしっかりと反応し、それに驚愕されると同時に魔王様の青年を睨みながらの声があげられる。

 それにうわぁ怖いと青年が顔で表現してくれば、魔王様は渋面を作って私に向き直った。

「はぁ……念のためと防音魔法を部屋に仕込んでおいてよかったというべきか。お前は本当に突飛なことをしでかすな」

「なんか決めつけて糾弾してるからだよ……命の恩人の怖がってる様子なんて見たくないし聞きたくもないし」

「我とルミが喋っていたことを忘れたのか。我の大事なものを盗むというのははっきり言えば反意ありということだぞ」

「これは窃盗でも誘拐でもないのでノーカンですね」

「のぉかんとはなんだ」

「数に入りませんってこと」

 私が問いかけにはっきりと言い切った言葉に魔王様が唇を引き結ぶが、やがてその口を薄く開いて疲れ切ったような吐息を漏らした。

「……譲ってそうだったとしよう。だがな。どれだけ我が気を揉んだと思っている」

 息を吐き出しきった後で少し怒った顔になって真剣に声を投げられる。それに私も少し斜に構えていた体勢から魔王様と向き直った。

 改めて、よく見ているところに戻ってこれたなぁと感じる。胸がジワリと暖かくなった。安心している。

「うん、はっきり言うと私も怖かった。アルベヌ私のことすごい大事に扱ってくれてたんだなって痛感したよ……心配かけて、ごめんね。また助けてくれて、ありがとう」

 謝罪と感謝を投げれば、魔王様は瞳を瞬かせた後に細めて、私を支える手の指で頭に触れてくる。

 ほんの少しの掠めるような指の動きに、本当に考えて触ってきているんだなと改めて痛感した。

「あぁ……我も、すまなかったな。恐ろしい目に合わせてしまった……そして、お前たち」

 魔王様も謝罪を述べ返してくるが後半。私から視線を外す。私の身体も丁寧にくるりと後ろに向けさせて、そこにへたりと座り込んでいるメイドたちの顔をやっと見せてくれていた。やっぱりあの、はじめに見た女性たちだった。

「勘違いをして無用な糾弾をしてしまったな……が、そうされるだけのことをしたという自覚も持て。なにせ、この国の王のモノなのだから。

 ……すまなかったな。守ってくれたことに礼を言う」

「そ、そんなっ私たちの方こそ、申し訳ありませんです……!」

「勝手をして申し訳ありませんでした……!」

 魔王の言葉に、私を持ち出した二人が深く頭を下げる。そろりと頭を上げた二人をほっとした様子で私が見ていれば、魔王様が頭を指先でつついてくる。なんだと見上げればメイドたちを指さして見せ。 

「フォノ。この中にはお前を狙う目で見てくるものはいなかったのか」

「いたらここまでやらないよ……この中にいたら話し合い終わってから声上げるくらいかな。身体これでもきついんだから」

「ククッ、それもそうか」

 身体を手にくたりと預けながら出した声に、魔王様がクツクツと愉しそうに笑いを零して私を撫でつつ、メイドさんたちの前に改めて移動する。

 何かを思いついたような、そんな瞳でメイドさんたちを順繰りに見下ろしているようだった。

「ならば、こうしよう。部屋付きのメイドなど誰でもいいと思って任せるがままにしていたが、この者らに任じることにする。お前の秘密もバラしているのだ。我が不在時の話し相手くらい欲しかろう?」

 思わぬ方向の話にメイドたちと青年、私が魔王様を思わずガン見するのも仕方ないと思う。全員に見られた魔王様は何を驚く、といった顔をして私の左右の頬を指で挟んだ。

「こうしてしまえば、もうお前が鳥籠の中で一人恐ろしい思いをせずともよくなるだろう? お前のあの安堵の顔をもう見れなくなるのは残念だが……友の安全が第一だからなぁ」

 ふにふにと顔を揉まれながら言われた言葉に肩を落とす。

 ほんと、この魔王様は見た目のわりにとてもやさしい人だ。

「あ、あの……私たちが、陛下の部屋付きに……? 普段は、交代制だったの、ですが」

「不満か? ならば罰だとでも思え」

「不満なんて滅相も……!」

「こ、これが罰だなんて、いいんでしょうか……!?」

 おろおろとするメイド達にまだ納得しないかと魔王様が嘆息したところで。パン、と手を鳴らす音。

 そちらを見れば青年が両手を合わせた形でこちらを見ていた。

「はいはい、お嬢様方の沙汰は決まったわけでしょ? ならもうどうこう言わないで、明日からか今からか、部屋付きのメイドとしてのお仕事をしたらいいんじゃない?

 それに、私も少しお話したいことがありますので会話に混ざっても?」

 青年に言われた言葉にメイドたちは顔を見合わせて頷きあう。どうやら青年の言うとおりにするらしい。まぁいきなり部屋付きメイド。しかも王様付きって結構な出世をしてしまったわけだからそりゃ驚くし戸惑うよね。

「なんだ、さっきは混ざってきていたくせに律儀なものだな?」

「そりゃぁ弁えますよ? 私は陛下に仕えるものですからね」

「よく回る口だ。さて、話したいこととは?」

 魔王様が青年に言葉を投げる。軽い感じで応えていた青年だったが、ふいに私を見て、少し真剣な目になった。

 ぴりっ、と空気がひりつく。待って。私疲れてるからこれ以上負担はちょっと。

「なんだ、ずいぶんと無粋な目を向けてくるな?」

「それ、本当に小妖精です? なにかが化けてるんじゃなくて?」

「なるほど、魔性と見たか。だが残念だったな。フォノは小妖精で間違いはない」

 頬をつままれていた指が離れて、また私の頭部から背中を一本の指で撫で下ろし始める。

 青年の目は変わらない。見定めるように少し剣呑な目を向け続ける。

「小妖精がなぜ共通語を?」

「フォノ。もう言ってしまうぞ」

「どうぞ。別に隠したいわけじゃないから」

 魔王様と青年の言葉の応酬にハラハラしているメイドたちに気づいているのかいないのか。二人は少し剣呑な見つめあいをして問答に興じている。

 その中で許可を得ようと投げられた言葉にはあっさりと私は返す。ばれたらもう隠す必要ないし。その人たちには。

 そう思って、ただ成り行きを魔王の手の中で見つめるだけ。

「フォノは、転生者だ。共通語はおそらく、転生特典(ギフト)といったところだろう」

『転生者!?』

 魔王が告げた言葉に、青年もメイド達もぎょっとした声を上げて私をガン見してくる。

 いや何なんかあんの転生者って!?そしてアルベヌさん。ギフトってなに。私が知らない言葉を出されたために、私は手の中で魔王様のご尊顔を勢いよく見上げた。

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