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第116話 「行くのやめるからね!!」

 テントの中でジャスティアさんと食事したり、外の騎士さんが持ってきてくれたお湯をガッツリ私用のお風呂で使われて身を清められたりした後。私は即、寝かされた。

 

 いやジャスティアさん。すごく器用だった。

 

 ぎこちなかったところはあるけどあのメイドさん達と似た身体の揉みほぐしされて、思いっきり手の中でくったりと身を任せきって脱力してしまった。

 身体を手の中で拭われながら半分寝かけていた状態を述べた上で謝罪をすれば、眼福でございました。と謎の言葉までもらったし……なんで?

 疑問を頭で浮かべている間にこれまた手早く寝巻きらしい服に指先で着替えさせられ、ベッドに転がされてすやぁしてしまった。


 朝に起きた時、その一連を思い返して呆然としてしまった私は悪くない。


 起きて少ししてから朝食として簡素なスープとパンが出され、食べ終えた後にテントからジャスティアさんに連れ出されたあと。

 もう外に出ていたアルベヌの方に連れて行かれては挨拶もそこそこに彼の手に乗せられて撫でられつつ、騎士さん達がテントなどを片付けるのを眺めながら待っていた。

 そのおかげで荷物が少ない理由が分かった。騎士さん達の下げてる腰のポーチが質量無視で色々と入るマジックバック的な物らしい。空間魔法が付与されているとのこと。

 全てを片付け終わってから再び森の中を歩き始めて、少しした現在。

 

  ――チリリン……チリリン――

 

「……っ」

 昨日聞こえた鈴音のようなものが断続的に聞こえてくるようになってきていた。

 奥に進むほどに暗くなるのと同時に、音が明瞭になってくる。けれども。

 

 アルベヌ達にはどうも聞こえていないらしい。

 

 私がその音にアルベヌの肩の上で身体をひねっても、音の出所は今のところわからない。

 なんだろう。これ。

 私が耳に手を当てて聞こえる方向を探ろうとしたところで、腕を絡めているアルベヌの髪が動いた。それにバランスを取ろうと髪の房を両手で掴んで彼を見上げると。

「先ほどから動いているみたいだが……なにか起きているのか?」

 肩の上の私を歩きつつ、見下ろしている顔が見える。金色が細められるのを見て、私は肩を竦めた。

 これは言わないと駄目なやつ……何かわからないからまだ言いたくなかったんだけど、反応しすぎたなぁ……

 

「その……音が聞こえて」

 

「音? ……お前たち、少し止まれ」

 アルベヌが私の言葉を聞いて眉を動かした。それから周りの足を止めさせると、私の方に手を寄せてくる。

 こっちに移れというように手を揺らす仕草を見て、彼の髪を離してそちらに軽く飛び移る私を見えやすい位置に持って行ってはジッと見下ろしてきた。

「どんな音が聞こえている? ……そして、いつからだ」

「えっと、鈴音みたいな音で……

 いつから……えっと、昨日の野営地につく少し前……かな」

 

「……――あの時か」

 

 問いかけに対する内容に、彼が眉根を寄せて嘆息交じりに言葉を零す。同時に反対の手が寄ってきて私の顔を指先でむにりと挟みこんできた。

 朝なのに仄暗い森の中で彼の顔が余計に影を帯びて、奥にある金色が爛々と光っているのを見上げた私が肩を竦めると同時に、その瞳がゆっくりと瞬いてから細められ。


「お前は本当に……はぁ……なぜこうも言うのが遅い」

「ご、ごめん……昨日はあの一回だけだったから……」

「それでも言え。お前と聖域に関係のあることかもしれんのだぞ」

「う……軽率でした……」


 ムニムニと指先で頬をこね回されながら声を上げれば、何度目かの嘆息が響いてから指先が離された。

 ほんのりと痛みがある頬を私が両手で擦りつつ彼を改めて見上げれば、すでに顔や視線を私から外して周りを見回していた。

「待たせた。進むぞ」

 彼の言葉に騎士たちの是の声が返され、また彼らが動き出した。

 アルベヌが肩にまた私を戻すように手を動かし、大人しくそこに戻ると同時に指先が離れていく。

「次に聴こえたらちゃんと言え」

「分かった……」

 返事に反応を返すことなくアルベヌが前を向いて歩き続ける。

 肩から落ちないように気を付けつつ髪をまた掴み、耳を澄ませて集中しようとしたところで。

 

 ――チリリン……――

 

「っ! 聴こえた」

「……足音が邪魔なら止まるが」

 音に反応して声を上げた私に、アルベヌが反応して彼の動きが緩やかになったのを感じる。

 横目にこちらを見下ろす彼を見上げて、私は首を横に振って見せてからぐるりと周りを見るように頭を動かす。

「いや、今まで歩きながらでも聞こえてるから大丈夫……なんだけど……

 アルベヌ達は聞こえないんだよね?」

「あぁ。鈴の音など聞こえていない」

 にベもないその言葉に軽く肩を竦めてから、動きを戻したアルベヌ達の動きを感じつつ。私は耳に集中することにする。

 会話の最中にもあの鈴音は断続的に聞こえていたけど……


 ――チリリン――


 耳に音が届いたところで、後ろに何かが来た感じがして振り向く。

 ふよりと、あの聖域魔法内部で見たようなあの光が通り過ぎるところだった。

 思わず私が目を瞬かせたところで、それがぴたりと止まってから勢いよく顔の所にやってくる。

 考えもしてなかったものの存在に視線を外せずにいると、騎士の数名から驚いたような声が聞こえた。

 

 ――ミツカッチャッタ、ミツカッチャッタ――

 ――オ気ニ入リニ見ツカッチャッタ――

 

 聖域魔法内の中で聞いたような声が耳に入ると同時にアルベヌの身体が止まる。

 

「……こんな現象は初めてだと思うが。

 お前たち……知っていることは」

「我らも初めてです。陛下」

 

 アルベヌに言葉を返すジャスティアさんの声。その会話内容に何事か起こったんだと遅ればせながら察した私が顔を上げれば。

 色とりどりの燐光が私たちの周りを舞い踊るように浮遊していた。

 まるで聖域魔法内部で見た様子に近い。

 

「……フォノ」

 

 横から投げられる少し警戒した空気を混ぜられた声色と、下から私に向かって伸びてきた彼の指先。

 だんだんと近づいてくるその指先に手を当てて、前から私を捕まえようとしていたんだろう手を止める。

 

「……お気に入りに見つかっちゃった……って言ってる」

「やはり小妖精か……確かに禁足地は近くなってはいるが……」

 

 私が手を止めたことで顔をグッとこちらに向けただろう彼の動きを感じつつも、そちらは見ない。というか見れない。

 

 だってお気に入り以外に何するか分かったもんじゃない!!

 

 自分以外の同族と接する回数は少なかったけどこれだけは分かる。

 

 私は身体の入れ替えなんてとんでもないことされたことあるし。

 聖域魔法内部では自分たちが治したアルベヌすらも、お気に入りが嫌な思いしてるっぽいから……って感覚でどこぞへ放りだそうとしたんだよ?

 

 絶対他の人にはするでしょ、イタズラなんて可愛い言葉で済めば良い悪ふざけ!!

 

「え、小妖精!?」

「この光が……!?」

 

 アルベヌと私の後方、レナルさんともう一人の騎士さんがギョッとした声を上げるのを聴いて、バッと振り返りそちらに意識を向ける。

 

 レナルさんともう一人が燐光を見回しているその頭上。

 濃緑の色合いの燐光が二つ、私と同じ様に人型になってその両腕を動かそうとしたところが見えて。

 

「その人たちに何かしたら私、行くのやめるからね!!」

 

 私が咄嗟にフェレノラの時に使った拡声魔法を使用しつつ声を張りあげれば、アルベヌの身体がビクンと大きく揺れる。

 顔の向きは私に向かれているままに視線が痛いものに変わったのは、分かった。何となくだけど。

 

 ごめん。うるさかったよね。わかってます……!

 

 私の張り上げた声に騎士さんたちが硬直し、その頭上の小妖精達もピタリと動きを止めて。互いに顔を見合わせてから、私を見て落ち込んだように肩を竦めた。

 

 ――ソレハ駄目。怒ラレチャウ――

 ――アノ人、怒ルトスゴーク、怖クナル――

 

 しゅんとした様子でそんな声を私に投げてきて、何を思ったかそれぞれレナルさんともう一人の頭にストンと降りて座り込んだ。髪も握っているのか、驚いて頭を振る二人の動きに楽しそうに振り回されてる上に掴まれても離れようとしていない。

 むしろ引っ張ってる騎士さん達が痛そう。髪の毛引っ張られてるから。

 

 いやさっきしょんぼりしてたよね君たちー!?

 同族二人が元気にその人達に絡み出すその様子に戸惑ってしまう。

 私、どうすれば……? やめさせるべき……?

 

「……どういう状況だ」

 横から投げられる声にアルベヌを見上げれば、その顔の周りで舞い踊る燐光と、ちらほら人型になる姿が視界に映った。

 改めて私は小妖精って自由なものだね……と考えてしまう。肩の私に気をつけつつ、アルベヌが顔と私の間に飛び込みかけた燐光をパッと手で払いのける仕草を見て。私もそのまま肩を竦めて見せた。

 

「……分かんない、けど……あの人たちにイタズラしそうなのを咄嗟に出た言葉で止めたら、それはダメって言われたから……

 私が禁足地に向かうのは正解……みたい」

「ふむ……ならば、このまま進むとしよう。

 目的地は近いのだ。お前たち、足を動かせ」

 

 拡声魔法を解いて彼の先ほどの言葉に返答を述べれば、アルベヌの指が私から離れる。

 その後、すぐに足を動かし始めた彼に習って騎士たちも動き出すも、私の耳に届くその足音には先程までの勢いと言えばいいのか。力強い感じは響かなかった。

 

「しかし陛下、これでは少し移動が……」

「……さらに慣れない行程となったが、小妖精たちは我らの邪魔をすることは無いはずだ。

 我らに手を出せば問答無用で帰る、と啖呵を切った後……駄目と言われようだからな。コレらは、フォノに帰られるのは困るらしい」


「ではこれは……出迎えということなのでしょうか……?」


 ジャスティアさんの疑問符に、視線が私に集中するのがわかる。

 燐光も、たまにそれが人型になったものも周りで飛び回っていて、大多数笑んでいる様子だ。何が嬉しい……いや、楽しい……の?

 私と視線が合ってもその表情が崩れることがないから、あまりうまく読み取れない。

 さっき悪戯(いたずら)しようとしたんだろう片割れが、あの人って言葉を出してたし……コレ、本当にお出迎え的な物なんだろうか。アルベヌ達も淀みなく歩くから禁足地の入口らしい場所への道はわかってるみたいだし、その上で初めてって言葉が出てるんだし……

 

「アルベヌ……この辺りでこんなに小妖精が出るの、初めてなんだよね?」

 

 声を上げつつ横のアルベヌの顔を見上げ、私の声を聞いていた彼が横目に私を見つめたままで首肯を示したのを見て。

 それなら、と私は彼の髪から手を離して肩の上から飛び立った。

 彼が足を止め、その動きに合わせて騎士さん達が止まるのも目に入ったところで私は同族たちを見回す。

 

「ちょっとこの子たちと話してみてもいいかな……?」

「なっ」

「フォノ様! 危険が過ぎます!」

 

 私の声にアルベヌがギョッとした顔をして。ジャスティアさんも声量を調整はしているものの、何をいうのですかと言わんばかりの声を上げてきた。

 いやだって初めて尽くし続いてるんだったら聞いた方が早いじゃん!?

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