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第114話 「仕事をさせて」

 テントの中は意外と広かった。

 敷布団のような寝具がもう敷かれているし、折り畳みだろう小さなローテーブルとランタンがある。傍にはなにかの道具が入ってるんだろうバッグのようなものが置かれていた。

 そういえば、みんな手荷物なんて持ってなかった気がするけどどこから出たんだこの物資たち。

 ローテーブルの方にジャスティアさんが歩んで、膝をついて私をその上にゆっくりと下ろした後で目の前に座した。

 

「フォノ様。唐突ですが……なにかお世話をさせていただく上で、気をつけなければいけないことはありますか?」

「え?」 

 そのあとで真剣な様子で見下ろされて問われた内容に、思わず私はきょとんとした顔を返してしまう。

 ジャスティアさんは困ったような笑みを浮かべ、頬を指先で掻くような仕草を見せて。

 

「申し訳ありません。一応メイドの方々に聞いてはいるのですが……

 部下以外の人――いえ、女性の世話など初めてでして。なにかフォノ様の中で気にして欲しいことがあるのでしたら、お教えいただければと……」

 

 情けないと言いたげな声色で言われる言葉に、それはそう。と納得してしまう。

 ジャスティアさんは人間で、男所帯の体育会系っぽいお家柄なお貴族様のご令嬢らしいし。この間性別明かしてくれた時に小さい頃から騎士道とか学んで育ったと言ってたもんね……きっとお人形とか触ってないんだろうなぁ……

 そんなことを思いつつジャスティアさんを見上げていれば、慣れない様子でそろりと顔を寄せられる。


「……フォノ様、なにか気をつけることは?」

「えっと……羽根は結構、敏感? だから……そこだけ注意して欲しいです……」

「その翼に気をつければ良いのですね。触らなければ大丈夫ですか?」

「触っても良いけど、あまり触り続けられるのは嫌、ってくらいですから。程々でしたら大丈夫です」

「かしこまりました」


 ホッ、と美麗な顔が安堵に息を漏らす。

 その吐息で私の髪が揺れる。それを見たのか、ジャスティアさんは手で口元を覆ってから顔を素早く遠ざけていた。


「も、申し訳ありません」

「気にしないでください。アルベヌ……陛下にもよくされますから」

「お気になさっていないのなら、良いのですが……

 あぁ、そうです。フォノ様のお荷物を出さなければいけませんね。少し失礼します」


 会話の最中にふと思い出したといった様子で脇の荷物をガサガサと漁るような動きを見せたあと。テーブルの上にゴトゴトと私から見たら結構大きさのある包まれたものを置き始めた。

「……? ジャスティアさん?」

「はい。フォノ様」

「これはなんでしょう……? 私には重い音がするんですが」

 置かれていく荷物らしいものを見ながらの問いかけに応えてくれるように、幅が広めの物を片手で持ち上げたジャスティアさんの手を思わず追いかけるように見上げる。

 そんな私の様子を見下ろした彼女が笑みを浮かべれば、その包みを丁寧に剥がしだして。

 そうして出したものを傍においてくれたのだけれど。それを見た私は思わず目を瞬かせてしまった。

「……立派なベッド出てきた」


「班長補佐であるエラさんがこの日のためにと職人に注文されたそうですよ」


「エラさん……!!」

 シンプルで普段使うベッドより幅は狭い物の、装飾がオシャレなフレームの立派なベッドが出てきて呆けた声を上げた私にジャスティアさんがにこやかに声を上げる。

 その内容に私は思わずエラさんだけでなく第3班全員の笑顔を頭に浮かべながら声を上げて頭を抱えてしまうも、私の耳には重い音でゴトゴトと置かれていく家具に口を引き結んでなんとも言えない顔になる。

 ベッドだけでなくテーブルに椅子に、何かが詰まってそうな小箱。衝立のようなものや深皿のような器まである。

 器のつるりとした陶器っぽい質感のそれは、普段使ってる猫足バスタブのそれと似ていた。


「……もしかしてお風呂……!? え、他の人は入らないでしょう!?」


「そうですね。私は身体を後ほど拭かせていただきます。部下たちも同様でしょう」

 いや私のサイズなら皆さんからしたら僅かな水量でしかないから気にしないのかもしれないけど、さすがに気まずい。

 でもこれでアルベヌもお湯を使って簡易に身を清める予定があるんだったら気にしなくて良いんだろうか。

「アルベヌは……?」

「陛下も身体を拭かれるか水を浴びるかされるだけかと」

 

「ですよね!? ならしまってください!」

 

 一人だけぬくぬくお風呂入るとか嫌すぎる!!

 私の声にジャスティアさんは広げていた細々した私用の道具類を置く手をピタリと止めて――ってどれだけ用意されてるの!?

 準備してくれたメイドのみなさん!! これただの旅行じゃないよ!?

 

「フォノ様。もしや、ご不安ですか? メイドたちのように上手くは出来ないと思いますが……」

「い、いやジャスティアさん。不安とかじゃなくて!

 私前世じゃただの一般人……つまり平民ですから! 自分で出来ることは自分でしますし――……?」

 

 声が上から掛けられ、そちらを見上げながら言葉を返していくが尻すぼみになる。

 見上げたジャスティアさんが少ししょんぼりとしているように見える表情を浮かべているのが見えたから。


「フォノ様。私はしがない一人の騎士ですが……今この時は、あなた様の世話役です。どうか、私に仕事(・・)をさせていただけませんか?」


「う……」

 仕事。その言葉が強調されたのを感じて、少し前にメイドさんたちから仕事をさせてくれと思われていたことを思い出す。

 意図的に強調されたように聞こえるそれに苦虫を嚙み潰したような顔でジャスティアさんを見上げれば、彼女はしょんぼりとした顔を崩してニコリと笑顔を浮かべてきた。

「……聞いて来たんですよね……?」

「はい、お世話をさせていただく上で……第3班のメイドさんたちに色々と」

 私の言葉にいい笑顔で返してくる姿に唇を引き結んだ。メイドさん達……私が断れないようにする方法考えてジャスティアさんに伝えやがりましたね……

 人の仕事の邪魔とかするなんて嫌だしでも自分のことで手間かけさせるとか……しかも今回は騎士団長さんにお世話されるって……

 考え込む私の足元に、大きな手指が添えられるように置かれ。また考えながら俯いていたと自分で理解して顔をあげれば、笑みを浮かべたままのジャスティアさんが柔和な笑みを浮かべつつに見下ろしてきてるのが視界に入る。


「フォノ様。この遠征の中で一番大事なことはわかりますか?」


「へ?」

 表情が変わらないまま、唐突に問われるその内容に思わず呆けた声を上げてしまう。

 それに首を傾けられて見下ろされれば、返事を待っていると理解して思考を回し始めた。

「大事なこと……? 聖域に入れるかどうか、とか……?」

「……確かに、目的は聖域の調査ですが……その前に、検証せねばならないことがありましたよね?」

 

「…………私が道案内、できるか」

 

「はい。だからこそ陛下は我々騎士団に言ったのです。

 陛下ではなく、フォノ様を優先しろと。

 ……この意味は、お分かりいただけますね?」

 だんだんと真剣になっていくジャスティアさんの声色と表情。

 その顔にあるルビーのような瞳が自分を真剣に見下ろして来るのを見上げ、私は唇をまた引き結んだ。

 

 道案内をする私が身勝手に動いて、その結果で身動き取れなくなった場合。ここに来た意味すらなくなる。

 

 だからこそ、何も無いように護衛兼世話役として、夜はジャスティアさんが付いててくれる、ということなんだろう。

 怪我ならアルベヌが治癒してくれるだろうが、病気や毒物等に当たった時はどうなるか分からない。前二日酔い治してくれた治療魔法? っていうのも万能じゃないだろうし……

 

「……ご理解いただけましたようで、安心致しました」

 

 私の考えていた事が表情に出ていたらしく、ジャスティアさんの表情と声が緩まった。

 そして、荷解きされた私サイズの家具の一つを摘んで持ち上げ私の傍に置き始める。

 1人がけのテーブルと椅子のセット。私から見たら幅が大きめのガーデンテーブルっぽいがかなりオシャレ。


「では、食事をお出ししますね。携帯食ですがセシリス様が味にはこだわったと言っておりましたので問題はないかと……形と量は許せ、と言っておりましたが」


 そちらを見ていたらゴソゴソと何かを出す音が聞こえて、テーブルに包みを載せられる。

 私から見たら一抱え以上の大きさの包み。その小さな結び目を手袋を外したジャスティアさんが爪の先で開いて、甘い匂いが広がった。

 出てきた固形のキューブみたいな形の、匂いからして焼き菓子に近いそれは何となく見たことがある。

 

「……前世の栄養補助食品……」

 

 よくお受験のお供としてCMが出ていた某メーカーの食品にそっくりな見た目の携帯食に、思わず私は声をこぼしてしまうも。頭を数度振ってとりあえず椅子に座って、それが載せられるテーブルに向き合って。

 

「いや形と量以前にかじりにくいんですが!?」

 

 椅子に座った私の胸から上と同等の高さがある固形の物体に私が思いっきりツッコんでしまい、その様子に上からプフッ、と吹き出したような音が聞こえて弾かれたように首を動かして見上げれば。ジャスティアさんがそっぽを向いて肩を震わせていた。

 ……面白かったなら何よりです。

リアル事情でバタバタ忙しくてなかなか時間が取れておりませんです……

大変お待たせいたしました……!

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