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第111話 「出立するぞ!」

 ジャスティアさんから騎士たちの説明を受けた3日後の今日。聖域に向かうために動き始めた。

 大々的な行軍でもないし、城下の面積は城の前面の方が広い。聖域も街の裏の山の一部の森にあるということで、時短のために裏門の方に集まってから初の顔合わせになっていた。

 

「陛下。フォノ様。おはようございます」

「……揃っているな」

 

 先んじて待っていた様子の……といっても、それが当然なんだろうけど。ジャスティアさんと他の騎士たちが敬礼を見せて一礼してから姿勢を正した。

 ジャスティアさんの後ろに、四名。

 一人は副団長さん……レナルさんだ。まだ私を信じられないものを見るように見て来てる。でもほかの三名も度合いは違えど、私を探るように見る目をしているのはわかった。

 みんなジャスティアさん同様、動きやすそうな軽装備。そんな面々を見回しつつアルベヌの肩に乗っていた私は、アルベヌの息を吐く音にそちらを見る。

 彼の顔は私を見ていなかったが、私同様に騎士たちを見回しているのか。その顔はしっかりと正面を向いていた。

 

「聞いているだろうが……これから我らはあの聖域へ向かう。極秘でも何でもない普段の巡回業務に、我の視察が入るだけとでも思え」

 

 アルベヌの言葉に、空気が張り詰めたようなものになった気がした。騎士さんたちの顔も少し強ばった気がする。


「ただ……今回は別で検証せねばならないこともあるのでな。それを踏まえて、第一騎士団の中から選ばせた精鋭がお前たちだ。我は個でどうとでもなるが……騎士団長と共に、肩にいるコレをしっかりと守れ。

 それがお前たちにとって一番の重要な任務となる」

 

 アルベヌの淡々とした声色に、どこか怖いものが後半の言葉に混ざるのを感じる。

 私がそれに肩を竦めてから兵士さん達を見て頭を下げようとすれば、ジャスティアさんがジッと私を見つめていて思わず動きを止める。

 

 動かないで。やらないで。と言外に言われているような圧を感じてしまって。

 

 私が固まっていたらそれを見たジャスティアさんの方から感じるその圧が緩んだような気がした。

 心なしか肩も僅かに落とされてるような、と考えていたところで。さらにアルベヌの言葉は続いた。


「お前たちの説明はしっかりと騎士団長から聞いている。口は堅い者たちだとな。

 この選別の理由は当然理解していると我は考えているが……失望だけはさせてくれるなよ」


 アルベヌの表情は私には見えないものの、目の前の騎士さんたちの表情が引き締まったのは見えた。

「ハッ!!」

 声を同時に上げ、ビシッと敬礼を決める騎士たちを見てから、アルベヌはジャスティアさんの前に歩みを進めた。

 今はまだ拘束魔法は掛けられてない。アルベヌの動きに合わせて揺れる私は彼の髪と服を掴んで落ちないように対応する。

「馬車のご用意はできています」

 ジャスティアさんが声を上げて先導して歩く先にあったのは、見た目は普通の馬車だった。この間街で見たような、幌付きの馬車。

 アルベヌが自分で布を持ち上げて中に入れば、ぴたりと一瞬動きを止めたものの、すぐに身体を滑り込ませた。私も目に入った光景にぽかんと口を開けてしまう。

 何故か。街で商人が使ってるような幌馬車の見た目にそぐわないクッション機能抜群そうな座席が左右にあるし、床には上等そうなボルドー色の絨毯も敷かれているから。


「……中身と見た目の差がえぐいんだけど……」

「変なところに金をかけおって……はぁ、帰ったら宰相に一言言わねば……」


 アルベヌが思わず呟いた私の言葉に返すように嘆息を交えながら声を発したところで、ジャスティアさんが馬車に乗り上げてくる。

「陛下。皆、配置につきました」

「ならば、()く出せ」

「ハッ! お前たち、出立するぞ!」

 威勢のいいジャスティアさんの声を聞きつつもアルベヌは見た目に反した豪奢な座席に腰を下ろした。それと同時に、馬の嘶く声と動き出す馬車に身体が揺れる。


「申し訳ありません。外観は普通の商人のようなものにしましたので、揺れの軽減のためと座面にだけはこだわったのですが」

「待て。宰相がしたことかと思ったがお前か騎士団長」

「宰相殿? この馬車は私が手配し、私の財を使って改修させたものですが……あまりお気に召しませんでしたか?」


 ガタゴトと大きく揺れる乗り心地がいいとは言えない馬車の中、言われた言葉にアルベヌが重いため息を吐き出した。

 それに反対側の座席に座って向かい合う形になっていたジャスティアさんが失敗したかと不安そうな顔になるが、アルベヌもそれを見たのか。彼の腕が持ち上げられてひらりと一度振られる。

「コレが任務のために、民からの税で賄われたとしたら一言言わねばならんと思っていただけだ。お前の個人的なモノなら構わん」

「左様でしたか……陛下にそのように考えさせてしまう結果になるとは……申し訳ありません」

「よいと言っている。気に病むことはない。

 ……しかし、世の商人たちはこのような揺れるものでよく荷を運べるものだ。そういえばフォノカ……お前が初めに気づいたときは商人の荷物の中だったのだろう? どっちがマシだ?」

 会話の中でふと思い出したように肩の私をつつきながら言ってくるアルベヌに肩を竦める。

 側面をついてくる指をグイッと押そうとした所でガタンと馬車が揺れて、その振動で浮いた身体が反射的に押しのけようとした指に腕を絡めて宙ぶらりんになる。

 待って。これ私、落ち着いて座るどころじゃない気がする。揺れが大きくてどうあがこうと身体が絶対に浮く。

 肩から落ちて思わず指に縋りついた動きを感知したらしい彼が、そのまま手指を動かして自身の指にぶら下がる私を眼前に持っていった。見上げたその顔は至極愉しげである。

「返答がないな?」

 言いながら反対の手で宙ぶらりんな私をツンツンとつついて遊び始める様子に、私はげんなりとした顔を向けてから翼で突いてくる指を叩いてから浮遊する。

 そうしてアルベヌの顔の前に飛んでは、ぺちぺちと高い鼻の頭を仕返しと言わんばかりに叩いてから彼の角の方に移動してその付け根に座った。

「おい」 

「はい返答ね。飼育箱の中じゃない分コッチに決まってんでしょ。何言いだしてんの」

 

「飼育箱!?」

 

 私とアルベヌのやり取りを聞いていたジャスティアさんが素っ頓狂な声を上げる。

 あれ。私とアルベヌの馴れ初めはアーヌストさんに食事の時に教えたはずだけどな……?

 私が角にしっかりと抱き着いて落ちないようにしているところで、下のアルベヌの顔の方から嘆息が聞こえた。

「お前。全部言ったと思っているだろうが、飼育箱なるものの中にいたことは言っていないぞ。商人の商品になっていた、とは言っていたがな……ちなみに、我も初耳な気がするのだが?」

 あら、そうだったっけ。言われてみればそうだった気も……? メイドさんたちには言ったような……ぁ、あと同郷の人たちにしか言ってなかったっけ……?

 私が思案している中で、またガタガタと大きく馬車が揺れて角に凭れている身体が浮く。

 捕まえている部位に感覚があるからか、アルベヌの手がすぐに私を角に押さえつけるように後ろに回されてやんわりと包み込んでくる。

「落ちるぞ。座面の上ではお前の小ささなら揺れで跳ねてしまうであろうから……我の手でも肩でも、好きなところでジッとしていろ」

「わかった」

 アルベヌの言葉に了承の言葉を投げたところで、大きな手が背から離れる。

 角の上から降りるにしてもガタガタと揺れる馬車の中、どこが安定するかと考え始めた。

 座りやすいのは肩だけど。でもそういえば、ついさっき肩の上でも跳ねたんだよな、と考えて。

「……アルベヌ。手で捕まえててくれない? 肩でもさっき跳ねたし、足の上に座らせてもらっても跳ねそう」

 考えた末に言葉を投げた私を見上げるようにアルベヌの頭が動く。それからまた大きな手が背後から被せられ、曲げられる長い指に小さな身体はあっさりと片手の中に包まれた。

「まぁ、それが無難だろうな……だが、いつものように触れるぞ?」

「それは織り込み済みだから」

「フハッ、そうか……さて。お前の位置が決まったところでだ、フォノカ」

 包まれた身体が彼の動かす腕の動きに合わせてゆっくりと移動し、いつもの高さと言える胸部の前に持っていかれる。

 反対の手に降ろされて座らされるが、片方の手も離すことはなく傍で背もたれのように添えてくれていた。おかげでアルベヌの身体が馬車の揺れで揺れるのに合わせて私も揺らされるものの、酷く跳ねることはない。

 添えられる手を眺めながらようやっと落ち着いて座れそう、と息をついたと同時に言葉を投げられて。私がアルベヌを改めて見上げれば。

 

「転生直後の様子を改めて言ってみろ」

「え、なん」

 

 見下ろしているからというだけではないはずの目元の濃い影を私に見せつけながら、すぅわりと瞳を細めたアルベヌの問いかけというよりは命令の言い回し。

 それに対して、思わずなんで? と答えそうになった私を見下ろしていた瞳が、危ない嗜虐心に満ちた色を浮かべてゆるりと笑みに歪むのがわかって、私はブルリと身を震わせた。なんで!?

 

「何に怯える? ん? ……怖いことでもあったか?」

 

 背もたれにしていた手を動かし、私の横に持ってきてはその人差し指の爪の背を私の顎に添えた。くすぐるように滑らせ始めてきて、意地の悪い声色でからかうように言葉を降り注がせてくる。

 脅しみたいなことやめて、と考えつつもたまに鋭利な爪の先端が視界にちらつくから、ちょっと怖くて言い返せないでいた。

 いやほんと怖い。下手なこと言った瞬間に喉にぷす、って悪戯感覚で爪刺してきそう。

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