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第110話 「言ってみろ」

 私のそんな考えを察しているのかはわからないが、アルベヌが変なことでも言っていたかと思案するような顔になるのを見ていたものの。少ししてクスリと笑う声が聞こえて、私とアルベヌがそちらを見る。

 視線の先には、口元を覆って笑んでいるジャスティアさんの姿が見えた。

「申し訳ありません。陛下とフォノ様が仲睦まじい様子を見て微笑ましく感じてしまいまして」

「そう見えるか?」

「えぇ、とても」

 口元から手を離しつつ、ジャスティアさんが笑んだままで言うその内容にアルベヌが私の頭を指先で突きながら声を上げる。それに私がやめて、と腕を使ってグイッと押しのければ指は大人しく元の位置に戻っていった。

 アルベヌの声に肯定の声を上げたジャスティアさんは、次いで私に視線とその顔を向けてくる。

「そしてフォノ様。私も一応軍人であり、五つある騎士団の中の団長の端くれ。厳しくなければ団員たちの見本になりません」

 ぁ、あの声聞こえてたんだ……そっか……

 言われた言葉に、なんかごめんなさい……と脳内で謝罪をしつつも、上品に笑みを浮かべるジャスティアさんを私が見つめていれば横で動くものを感知して。そちらに顔を向ければアルベヌが机に置いていた紙を摘まみ上げるところだった。

「顔合わせは当日で良いが、簡単に今この場で、選別した中で一番口が軽そうなのは誰か提示しろ」

「それでしたら、みな同列です。と言いたいですが強いていえば……昨日(さくじつ)に私が食事時の護衛として連れて来たレナルになりますね」

「変えろ」

 アルベヌの質問にあっさりと答えたジャスティアさんの言葉に、アルベヌが信じられないものを見る顔と呆れ切った声色で即返答を投げる。

 私も思わず、へ? とジャスティアさんの方をまた見てしまった。きっと私の顔は相当な間抜け面になっているに違いない。

 そんな私たちの様子を見つつ、ジャスティアさんは神妙な顔をして頭を下げるようにその身体を動かした。

「さぼり癖がありますゆえ監視の名目で入れているのでどうか慈悲をいただきたいのですが」

「我の城にそういう者はいらんぞ。首を切ってやっても良いが」

「……陛下。アレについてもう少しお聞き入れいただきたいのですがよろしいでしょうか」

「聞いてやるかはわからんが言ってみろ」

 さぼり癖、と聞いてアルベヌが嫌そうに息を吐いたのが聞こえる。

 そちらを見ればげんなりとした顔でジャスティアさんに受け答えして、最後の言葉の時には私に視線を向けて近くにある手を動かし。私の身体に触れて撫でてくるような動きで手遊びを始めてきた。

 仕方ないと痛みがなくなっていた付け根から魔力を通して翼をまた実体化させれば、モフモフと集中的にそこを触ってくる。

 いやこの感じ、多分本気で聞くつもりないな。私が呆れ気味にアルベヌを見上げれば彼は気にもしない様子で私を見下ろしてくるだけで。私が肩を竦めてジャスティアさんの方を見れば、苦笑を浮かべていたものの。やがて真剣な表情になってその場で跪いた。

「あの男の実力は確かなのです。アレが何か粗相をしましたら、推薦した者として私も罰していただきたく存じます。その方がアレにも痛手となりますので」

「何を言うかと思えば……なぜお前まで責任を(こうむ)る必要がある?

 アレは副団長、お前は騎士団長だ。上のお前が選んだからといって個人の問題になろうことに、なぜお前まで罰せねばならん」

 ジャスティアさんが跪いた状態で頭まで下げて言いだしたことに、アルベヌも驚いたのか手の動きが止まった。見上げれば怪訝そうな顔でジャスティアさんを見つめていて、私も改めて跪いたままの姿を見つめ続けていたが、その金色の頭が上げられることはなかった。

 

「アレは、我がカラドメイル家に婿養子としてやってくる私の婚約者でもあるのです。その婚約者が起こした罪は、伴侶となる私の罪にもなりましょう。

 ですので、どうか……アレが何かをした時は、容赦なく私も罰していただきたく存じます」

 

 しかし、その口は朗々とそのままの体勢で言葉をはっきりと紡いだ。その内容に私も目を瞬かせたし、傍にあるアルベヌの手がヒクリと痙攣したように動いたのも感じる。

 メイドさんたちも、ピシリと音を立てる勢いで固まったようだった。

「は……? 婿……?」

「はい」

 アルベヌが呆然とした声色で呟いて、それにジャスティアさんが返事をする。

 私はそれにアルベヌをゆっくりと見上げて、傍にある手をぺちぺちと叩いて意識をこちらに向けさせようとした。その刺激に彼がぎちぎちと音を立てそうな感覚の動きでこちらを見下ろし、呆然とした目のままで私を見下ろす。

 ぁ、これちょっと意識飛んでる? アルベヌでもフリーズするなんてことあるのね。とちょっと驚きつつ、私は首を傾けて見せた。

 だってアルベヌ、さっき男ばかりの編成って言ってたし。ジャスティアさんは来るだろうと私が勝手に予想してるからではあるんだけど、そうならジャスティアさんも男性ってことだし……

 同性婚か……前世では受け入れられ始めてはいたけど、私の近くにはいなかったな。あの世界では賛否両論あってたしまだ論争あってると思うけど。

 ちなみに私は賛成派。好きな人と結婚して何が悪いというのか。

 そうなってくるとこの世界は寛容なのかな? ファンタジー世界だし愛さえあれば性別なんて、って世界だったりするんだろうか。

 でもそれだったらこの驚き方はちょっと違和感がある。ちょっと考えてから、私は問いかけを投げてみることにした。

 

「ねぇアルベヌ。この世界同性婚は当たり前にあるの? 婚約も同性でも何も言われない世界だったり?」

 

「同性婚……あぁ、まぁ……聞いたことは、あるが……?」

 まさか? と私の言葉にアルベヌがジャスティアさんに顔をまたそっと向け、頭を下げ続けている姿を見る。私もそんな二人を交互に見ていたが、やがてアルベヌが咳ばらいをして重い空気を払拭させようとするかのように頭を左右に振ってはジャスティアさんを改めて見つめていた。

「……騎士団長。頭を上げろ。そしていい加減に立て」

「はい」

 彼の言葉に素直に立ち上がるジャスティアさんは、真剣にアルベヌを見つめていた。その表情にアルベヌはただ視線を返して、片手で私の翼をまた揉み始める。

 いやストレス解消に無言でにぎにぎするのちょっとやめてー……びっくりしたからちょっとぞわって逆立ったよ色々と……

 二人の暫くの見つめ合いを見つつもジャスティアさんの後ろでメイドさんたちが各々の仕事に戻るのを見た私は、私もこの場から離れたい気がする……とこっそりとため息を吐く。

「……お前の事情に深入りする問いだが……お前、男同士で婚約しているのか? さすがに最初から同性での婚約は聞いたことがないが……

 下世話だが、世継ぎはどうするつもりだ? お前の家は騎士の名門だろう」

 

 待ってド直球にえらいこと聞き出した! 相当混乱してるねアルベヌさん!? 貴方そんなこと聞く人じゃないでしょ!?

 

 私が思わず後ろに腕を振ってバチン! と私の翼を触る彼の手を叩けば、彼はハッとした様子で片手で口を覆っていた。

 ついぽろっと出てしまった言葉だったんだろうが、これはいくら王様といえど失礼だと思う。前世なら間違いなくハラスメント行為。

 アルベヌの口から出た言葉に目を瞬かせていたジャスティアさんの紅玉の瞳が静かに細まり。

 

「陛下。やはり勘違いをしておられますね?

 私、ジャスティア・カラドメイルは騎士団の中で……初の女騎士団長でございます」

 

 敬礼のポーズを取りながら細められた瞳に合わせて表情もゆるまり、美麗な顔で楽しそうな声色を発してきた。

 え。ジャスティアさん女性!? なんで知らないの雇用主!?

 私が弾かれたようにアルベヌを見上げれば、彼も口から手を離していて目を丸く見開いていた。口もポカンと半開きの状態で。本当に驚いているような姿に私は頭を抱えたくなった。

 待ってこれ本当に知らなかったというか把握してなかったやつ!!


 私は呆然とアルベヌを見上げていたが、やがてゆっくりとジャスティアさんを見る。表面上は怒ってはいなそうなんだが、よく呼びつけられる偉い人の一柱のはずなのにこの扱い。

 普通なら憤慨しても仕方ないことだと、私は考えてしまう。

「陛下、大丈夫ですか?」

 ジャスティアさんが声を普通に上げてきたと同時に、かた、と私のそばで音がする。アルベヌが身を震わせでもしたんだろうとそちらを見れば、彼は左右に頭を数度振ってからジャスティアさんに改めて視線を向けていた。


「いやすまない……お前の性別を把握していなかったので驚いただけだ。歩き方も姿勢も堂々としているから男だとずっと思っていたのだ……謝罪する」

「お気になさらず。我がカラドメイル家は男所帯でして。

 淑女教育よりは父や兄から教わる剣術や格闘、騎士の心得などの方に力が入っていました。ですので気にしたことなどありません」


 苦笑混じりにアルベヌに返すジャスティアさんは、本音を言ってるんだろう。すらすらと出てくる言葉に楽しげな感じが聞き取れた。

 私もアルベヌに合わせてそちらを見ていたから肩をほっ、と落とせば、それを目ざとく見つけたジャスティアさんと視線がかち合って、笑みが返される。

「陛下。野営込みの行程の中、男所帯にフォノ様を入れることに抵抗があるのですよね?

 ですから人員の説明を求められた、と予想しておりますが……どうでしょうか」

「……そうだ。フォノは女性だからな」

 私に向かって笑みを向けていたジャスティアさんがアルベヌに視線を戻して言葉を投げれば、アルベヌが静かに返す。その様子を交互に見上げる私に気づいているのかいないのか、ジャスティアさんはアルベヌに向けてピシリと姿勢を正してみせる。


「ご安心ください陛下。野営の時はフォノ様には私の天幕にて過ごして頂こうと思っております。

 夜の寝番に私は含まれないように組んでおりますので、フォノ様を1人にすることはございません。お世話も誠心誠意させていただきます。

 ですので、人員の選定のやり直しはどうか……」


 これ以上の人が他にいません、と言いたげにジャスティアさんがそろそろとした声色になる。

 それにアルベヌを見上げれば、彼も私を見下ろしていて。

 背中や翼に添えられていた大きな手指の指先で触れているところをなぞったあと、身体の前面にも伸ばされた指が絡みついて持ち上げられる。


「……お前も見ろ。四日ほど見る顔になるぞ。

 騎士団長。お前の言い分は理解した。人員はこのままで良い……が、説明はしていけ」


「はっ!」

 アルベヌの言葉に敬礼を解いたジャスティアさんが机のすぐ前まで歩み寄っては机の上の書類を指差して一人一人、簡易な説明を始めたのだった。

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