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第107話 「おまじないに近いかな」

 ケーキの状態を見つめてはセシリスさんが指先の炎を消して。

 それからまたアルベヌに満足げな顔を向けてはどうぞ、といった手の動きで火のついた蝋燭を指し示す。


「暗くするのは安全面に問題があるのでやりませんが、火は付けましたので。陛下には蝋燭の火を吹き消して貰おうかと」


 促されて大人しくケーキを見ていたアルベヌだったが、セシリスさんの言葉に顔を持ち上げて怪訝な表情を隠そうともせずにそちらに向ける。

「吹き消す? 風魔法でも使えと?」

「アルベヌ、それケーキ吹き飛ばさない? 口で吹き消すんだよこういうのは」

 蠟燭の灯を消すのに風魔法なんていらないでしょ。私が飛ばされるやつだよね絶対。

 思わず私が声を挟んでしまえば、その声を耳に入れたかアルベヌは私を見下ろして、怪訝な顔をしたままで渋面を作り、警戒するようにケーキを横目に見つめた。いや何が問題なの。

 少し放置された蝋燭の火がチリ、と音を立てる。それを聞きつつもアルベヌは私とセシリスさんを交互に見てから、嘆息交じりに唇を動かした。


「……何かの儀式みたいな様式に見えるのだが? これは祝いなのだよな?」


 儀式。言われてみれば確かにそう感じられなくもないかもしれない。

 だって、こういう蝋燭を吹き消すときは一息に消さないとだめと言われてたりもするし。まぁ気にしないところも多いけど。あとお願い事を浮かべながらとかも言われるしね。

 私がそう思い至って席から立ち上がり、アルベヌのの顔の高さに飛び上がって近寄れば。彼は当たり前のように手を差し出してくる。

 食事中だけどまぁいいかとその手に乗ってから彼を見上げれば、彼は返答を求めているような顔で見下ろして来ていた。

「……ある種の儀式めいた感じではあるかも。吹き消す人は願い事をしながら一息にすべて消しなさい、って言われるしね……

 ……でも私個人としては、これから良いことがあるといいなって感じのおまじないに近いかな」

「おまじない……ふむ」

 私なりの考えを交えた返答に私をジッと見下ろしてから、少し思案した素振りを見せるが。やがて、私を一度覆うように反対の手を被せて撫でるように動かしてからテーブルに降ろされた。

 アルベヌと距離が近いから、私と同じくらいの高さのケーキもすごく近い。

「……フォノカの言うとおりにすればいいのだな?」

「はい、陛下。どうぞ一息に!」

 アルベヌとセシリスさんの会話の後で、アルベヌが立ちあがった。さすがに座った状態では吹き消し難いと思ったらしい。大きいしね。

 私が翼を動かしてケーキの蝋燭が見えるくらいの高さに飛んでからアルベヌを見れば、私を横目に瞳を細めて眺めた後にケーキを見下ろして。その口元を動かしていた。

 蠟燭の火が四つとも全て消えて、セシリスさんと私と。準備の時に教えられていたのかメイドさんたちとジャスティアさん、副団長さんも拍手を送り始める。

「陛下、お誕生日おめでとうございます!」

「おめでとうございます! 陛下!」

 セシリスさんの言葉を皮切りにメイドさんたちが同時に声を上げ、それに瞳を瞬かせていたアルベヌだったが。

 やがてまた私をゆっくりと顔を動かして呆然と見つめてくる。何が起こっているのか理解が追い付いていない言いたげな色を浮かべたその、きょとんとした獣のような金色の瞳を見返して。私はできるだけの笑顔を彼に向けた。

 

「お誕生日おめでとう、アルベヌ!」

 

 アルベヌの部屋でも疑問符をつけて言ってはいたが、こういうお祝いは何度言ってもいいはずだ。

 しかし、当人の反応が私からすれば不思議過ぎた。私を見て瞳を瞬かせ、微動だにしなくなった。何も言わないし動かないアルベヌに首を傾げて手を振って見せたりしたところで。こほんとわざとらしい咳払いが聞こえる。

「アル。こういう時は礼をいうのが筋だと思うぞ? なんとも、素敵なおまじないまで教えてくれているのだからな!」

 咳払いにかそれに続いた声にか。肩を震わせたアルベヌがそれを発したアーヌストさんを振り返ってその言葉を聞いて、少し静止した後にゆっくりと座席に座る。

 それから少しぎこちなく、珍しくやりにくそうな動きで周りを見回しては最後に私を見つめ。しばらくジッと何とも言えない表情で見つめられていたが。

「……感謝する……」

 ぼそ、と小さく漏らした言葉の後で、顔を僅かに俯けた。

 俯けたときの顔に僅かな朱が混じっていた気がするが、照れているんだろうかこの魔王様。覗き込んだら思いっきり捕まえられそうだからやめておくけども。

 その様子を見ていたアーヌストさんはニヤニヤと意地悪く笑ってアルベヌを見つめている。きっと私の想像通りなんだろうな、と考えつつもその場から動かずにアルベヌを見ていたところで。

 

「じゃぁ、ケーキを切り分けますね。

 ……ホノカ様の分はいつも通りに陛下がお分けしてはいかがです?」

 

「ッ!? 今それを言うか……!」

「分け!?」 

 セシリスさんがメイドさんたちとアルベヌの前からホールケーキをどかしてワゴンに戻し、ケーキを切り分けながらヘラリと笑って言ってくるからかいにも近い言葉に、アルベヌが上半身をそちらに向けて抗議するように声を発する。

 セシリスさんはそれを聞いても気にしてないようにケーキを皿に移していて、その移されたケーキをエラさんとチェルルさんが少しずつ毒味していた。毒味と言ってもセシリスさんが作って管理してここまで運んでるなら毒なんてないはずだけど。その証拠に二人ともニコニコしてるし。普通にスイーツを楽しむメイドの姿である。

 そしてそんなセシリスさんとアルベヌの会話に反応したアーヌストさんが、信じられないものを見る目でアルベヌを見つめている。

「アル……フォノァ嬢に餌付け」

「断じて違う」

「え。偽装のための餌やりかと」

 

「フォノカ。それが冗談でなかったら食むぞ」

 

「冗談です一緒にご飯食べてるだけだからいつもありがとう」

 ケーキが運ばれてくる合間にされるアーヌストさんとアルベヌの会話に何となくからかえるタイミングかと思って声を挟めば、アルベヌが獲物を狙うような目で私を見つめて淡々と言葉を上げてくるので思わず片言に近い発声で一息に謝罪を述べてしまう。

 いやだって怖い。久々にあんな目見た。本気で食われると思える眼光だった。ごめんて。

「アル。オマエいつもそんな脅しをしているのか?」

「脅し? 我は友と戯れているだけだが? ……なぁ?」

「そーですね……ねぇアルベヌ。逃げないから。逃げないから静かに後ろに大きな手回してくるのやめてもらって」

 アーヌストさんに言葉を返しつつ、アルベヌは片手を飛んでいる私に伸ばしていた。後ろで羽根が肌に触れるのを感じて言ったところで、アルベヌの瞳が意地悪く細まる。

 

「却下だ。この席の主役は我なのだろう? 望むとおりにしてもらおうか」

 

 さっき言ったことしっかり覚えてやがりましたこのお方!

 私がいい加減に少し離れようとしたところで、背後にある手指が丸まってその中に捕まえられた。

 そのまま普段の位置まで持っていかれてしまい、手のひらに寝転がるような感じにされればその上で上体を起こして座ったものの。その後すぐにズイッと眼前に差し出された甘い匂いのする固まりに思わず身体を後ろにのけぞらせる。

「お前の食べる姿を見たいのでな。そら、食べるといい」

「いやそれどんな要望」

「皿の上の方に突っ込まれたいか?」

「……イタダキマス」

 差し出されたクリームに塗れたスポンジに口をつける。食べなければケーキの一切れの塊に押し込むと言われてしまえば食べるしかない。

 味は普通に美味しかった。クリームも程よく甘みが抑えられてるからアルベヌ好みの味だと思う。スポンジもよく焼けたねと思えるほどふわふわだった。私も普通に噛める。

 セシリスさんのお菓子や料理以外だと、やっぱり大きさの違いで食べ物の固さが全部固く感じがちなんだよね……何とか噛めてるけど。

 私が口を離せば、フォークに残ったその塊が持っていかれて。思わず顔で追ったらそれはアルベヌの口に入った。

「……ふむ、悪くない加減だな」

 一口食べてしっかりと吟味しては簡素な感想を述べる。それにセシリスさんがホッと肩を落としたのが見えた。やっぱ感想聞くまで不安だよね。

「お気に召したなら幸いです……ホノカさん突っ込んで遊ばないでくださいね?」

「大人しく食べてくれたのでな。そのようなことはせぬ……しかし、我らだけでは食いきれん。残りはお前たちが後程でも食べると良い」

「ありがとうございます」

 アルベヌの言葉にセシリスさんが礼を述べれば、メイド一同も頭を下げる。

 そんなやり取りの間に手早く準備されてた紅茶が注がれたカップがアルベヌとアーヌストさんの傍に置かれた。

 アーヌストさんの方を見れば、ケーキを眺めては食べて驚いた顔をしていたり笑んでいたりと忙しく表情が動いていたが。一切れを食べ終えて紅茶を飲むとこちらを……というより、アルベヌを見つめて頬杖をつく。

「しかし、転生者が二人もこの国にいたとは……アル? ほかにワタシに隠してることは?」

「隠してはいないが。帝国が召喚した子供二人を城仕えにしたな。そらフォノカ。次はこれだ」

「なんだって!? オマエそれも結構重要じゃないかもうちょっと報連相をだな、ってフォノァ嬢を餌付けするんじゃない!」

「報連相。ふむ、一番できていない父上に言われる義理がないが。それにこれは餌付けではない。代わりに持ってやってるだけだ」

 

「さっき食べないなら一切れに突っ込むとか脅していなかったか?」

「知らんな」

 

 アーヌストさんの言葉をさらりと流して、私に彩りで置かれていたクリームが付いたフルーツ……匂いからしてリンゴだろうものを寄せるアルベヌが薄らと瞳を楽しげに細める。

 なんか、からかってる様子じゃないコレに何となく弱い気がする……だってなんかさぁ……無下にできない感じがするのよね……

 そんなことを思いつつ、私は楽しそうなアルベヌの瞳を見上げつつ、差し出されたそれをシャクシャクと口に含んで大人しく食べることにするのだった。

久々の2話連続投下…(/・ω・)/ ソイヤ

お祝いパートはこれにて終了です。


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