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第106話 「今となっては思い出話」

 その後は料理が来る度に、料理名とかの説明を求めてメイドさんたちが会話の種を作ってくれていた。

 私の大きさよく調整できるな、と魚料理が出てきた瞬間に思わず突っ込んでしまったらセシリスさんが胸を張った。ですよね貴方ですよねわかってます。

 それを見たらしいアーヌストさんが咽てたから笑ってしまったんだろうなと思う。アルベヌはもう私同様知っていることなので気にすることなく料理にナイフを入れていた。

 それからの二人は割と当たり障りない会話をし出した気がする。アーヌストさんがお城を出た後の互いの話とか、日常の話とか。

 私はずっと耳を傾けているだけだったが、まぁアルベヌは大変だったらしい。

 成人前で王位継承など前代未聞としばらくはアーヌストさんの捜索隊が組まれてたらしいし。王が変わったことの御触れは出さずに数か月は捜索をしたとか。

 探されていた当の本人は意地の悪い笑みを浮かべてケタケタと愉しそうに笑っていた。アルベヌはげんなりとして呆れと諦めの混じる瞳で見返して、やがて私を疲れたように見て何やら反応を求めてきたものの、私は曖昧に笑って応えるしかない。

 だって親子間のそういう会話に私はあまり混ざらない方が良いだろうと思って。

 

「まぁオマエの過去話もたくさんあるんだろうが、ワタシはフォノァ嬢とアルが出会った時の話も聞きたいなぁ?

 フォノァ嬢。小妖精に転生してしまったアナタは如何(いか)にしてコレと出会ったんだ?」

 

 唐突に会話を振られ、これまた緻密に盛られた私サイズのお肉料理を食べていた私は、驚いて吹き出しそうになるのを堪えて口の中の物を飲み込んだ。喉に詰まらせなくてよかった。本当に。

「えー、と……その、私は気づいたらとある商人の商品としてすでに捕まっていたみたいなので……」

「は? 商品?」

 アーヌストさんが何を言ってるんだ、と言いたげな顔をするが言った通りなので何とも言えない。

 アルベヌを瞳を瞬かせつつ見つめる彼を見返して、金の瞳がゆるりと細まって私を見下ろしては意地悪く笑みを浮かべてくる。

 

「我としては再現をしても良いが? なぁフォノカ。父上にお前のあの面白い言葉を聞かせるか?」

「再現したくないし私そんなに変な言葉言った覚えないんだけど?」

 

 私の返答にアルベヌがクハッ、と愉しそうに笑みを零した。それにアーヌストさんがさらに目を丸くして私と彼を交互に見つめてくるが、口を開くことはなく。

 アルベヌはそんなアーヌストさんに気づいている様子もなく、私をジッと見下ろして口角を持ち上げていた。

「そうか? 残念だ……久々にお前を()めるかと思ったが」

「確かに最近魔力食べられてないけど、もう体調不良とかもないから!」

「お前の魔力はすっきりとした後味で我の好みなのだがなぁ……」

 すでに食べ終えていたらしいアルベヌがカトラリーを皿に置いて、空いた片手を私に伸ばしてやわやわと翼の一枚に指先で触れてくる。

 ビクッと思わず身を震わせた私がその翼でアルベヌの指をバサッと音を立てて叩くものの、指先は何の痛痒も感じていませんと言わんばかりに触り続けてきていた。大きな顔はこちらをからかうことを愉しんでいる表情を崩しもしない。

「いや好み聞いてないんだけど!? それにそろそろ甘いの来るよね!? 多分来るよね!?」

 

「そうなのか? それならば我はお前がデザートでもいいが?」 

「ごめん絶対にないと思うけど別の意味に聞こえるからやめて!?」

 

 アルベヌのとんでもない切り返しに私がぎょっとして思わず声を上げてしまえば、アーヌストさんの咳払いの声が聞こえて。私もアルベヌも思わずそちらに顔を向ける。

 視線の先のアーヌストさんは、困惑した顔で私を見てからアルベヌの方を呆れたような表情で見つめ始める。

「どんな出会いをしたらそんな会話になるんだ。アル。執務室でも思ったがフォノァ嬢を触りすぎじゃないのか?

 いくら小さな小妖精とはいえ、転生者であるんだから女性として扱わなければダメだろう」

「……我としてはこれ以上ないくらい扱っているぞ? なにせ、我が気に入っている(・・・・・・・)のだからな」

「なに? オマエ――……あー……」

 アーヌストさんの苦言にアルベヌが私の翼から手を離したと思ったら今度は頭をつつく様に撫でてくる。それにご飯食べれない、と私が指を押し返せば彼はクツリと笑みを零した。アーヌストさんに対する返答を紡ぎつつ指を私から離して、その手でグラスを持って優雅な仕草で口をつける。

 それを見たアーヌストさんが少ししてから私を見つめてくるが、私は首を傾けて応えた。なんでそんな風に見られるんだろう……あ、そうか。

 

「えっと、経緯と言いますか……アルベヌに商売の許可をもらうための献上品として、私を捕まえてた商人が種族的に希少価値のある私を差し出したみたいで……

 その後、アルベヌに問答無用で食べられかけたことまでが出会い、になるの……ですか、ね?」

 

 そういえば出会いを聞かれてるんだった、と思い出して私が当時を思い出しながら乾いた笑みを浮かべつつ言葉を紡げば。アーヌストさんがギョッとした顔をしてアルベヌを勢いよく見つめて口を戦慄かせた。 

「は……献上……? 問答無用で()……!? おいアル!?」

「空の小妖精だぞ? 観察対象にしても良いとは思ったが、それで何か問題が起こっても厄介だと思ったからな。

 さっさと処理してしまおうとしたときに小腹が空いたから間食にしようかとしただけだ。魔族としては普通だろう」

「そうかもしれないが希少価値のある存在なら普通はすぐ鑑定するだろ!? このものぐさ息子が!

 すまなかったフォノァ嬢! うちの愚息が!! まさかそんな出会いだったとは……!」

 アルベヌの普段通りの淡々とした表情と同等の、当たり前のことを言ってますと言わんばかりの物言いにアーヌストさんが口角を引きつらせながら叱咤に近い声を上げた。それからすぐに申し訳なさそうに私を見つめておろおろと声を上げてくる姿に、私は困ったように苦笑を向けてから首を左右に振って見せた。

 当事者でもないアーヌストさんが謝ることなんて何もないし。


「そんな出会いだったからこそ……私はここにいるんだと思ってますから。今となっては思い出話ですよ?」


「フォノァ嬢、しかしだな」

「それに右も左もわからない私をアルベヌ達はたくさん助けてくれてますから。だから私も、できる限りお返しができればいいなって考えてます」

 私の言葉にそう来るとは思ってなかった。と言わんばかりの呆然唖然とした顔で見つめてくるアーヌストさんに改めて笑みを向けて見つめ返したあと。なんかおかしいこと言った? と思いつつも私は料理の残りを食べ始める。

 そんな私の姿を見つめているだろう大きな二人を気にしないように料理を食べ進めている内に。

 

「……どうするつもりか知らんが、転生者のこの子に変な真似だけはするなよ?」

「父上は我をなんだと思っているんだ? するわけがなかろう。フォノカは我の大事な友だからな」

「……そうか」

 

 静かだった空間に響いた二人の会話に思わず顔を上げれば、二人が顔を見合わせていた。アルベヌは口角を持ち上げて笑んでいるし、アーヌストさんは何とも言えない顔をしている。

 変な真似って何だろう。特に嫌なことはされてはないけどな。

 考えつつもとりあえずお皿の上の物を食べ終えて一息つく。

 私サイズのグラスは流石になかったらしく、ミニチュアの茶器のカップに注がれたレモン水っぽい味の飲み物を飲んでいる時に、扉が開いた。

 セシリスさんがワゴンを押して入ってきて、チェルルさんとエラさんもはいってくる。ワゴンの上のお皿に乗っているものがセシリスさん自身の手でアルベヌの前に置かれた。

「は?」

 思わずアルベヌが目を見開いてそれを見下ろしている中で、私は彼の前に置かれたデザートを見て大きすぎてすごい圧巻だなぁと眺めるだけだった。向かいになるアーヌストさんも瞳を瞬かせている。


「最後のデザートをお持ちしました」


「……オマエ、そんなに甘党になっていたのか?」

「違う。おいセシリス。何だこの大きな菓子は」

 セシリスさんが持って来たものを見てアーヌストさんが声を上げれば、アルベヌは首を左右に振って目の前に置かれた大きな、奇麗にに彩られ飾られたホールケーキを見ながら声を上げる。

 声を上げられたケーキを作っただろう彼は私を見てから、アルベヌを見つめて口角を柔く持ち上げて当たり障りない笑みを向けてから口を開いた。

「俺の故郷ではありきたりだったものですよ。誕生日ケーキです。陛下のご年齢を俺の国で使ってた数字をかたどって作った蝋燭で、飾らせてもらっています」

「……なぜ蝋燭を菓子に立てる?」

 

「それは……はぁ……俺とホノカ様の元居た国の誕生日の定番です」

 

「はっ!?」

 度重なる問いに対する説明に疲れたか、それとも次に行きたいからか。少しげんなりとした様子でセシリスさんが私をチラと見てから声を上げれば、アーヌストさんが声を上げて椅子から立ち上がる。少し離れたところで吹き出す音も聞こえたから、扉横の副団長さんが驚いて咽たのかもしれない。

 そちらは見ずにアルベヌを見上げれば、彼は呆れたようにも見える顔でセシリスさんを見ていた。そのまま疲れたように背もたれに身体を深く預けて深い嘆息をこれ見よがしに零していた。

 うん、明らかにセシリスさんは隠そうとしてたもんね。

「……お前、我が慣れぬ言い訳までしてあえて伏せていたというのに」

 アルベヌが眉間に皺を寄せて言葉を紡げば、セシリスさんは少しジト目気味に言葉を投げた彼を見返して、ケーキを手で示した。それからしっかりと口を動かし始める。

「陛下が次に進ませてくれないからですよ。この世界に冷蔵なんて概念ないんですから。ケーキが傷みますんで早々に次に進ませてください」

 セシリスさん……もともといたカフェでなんかあったんだろうか……食べ物痛むってところですごい語調がきつくなったような気がするんだけど……相手王様だよ大丈夫……?

 私がうわぁ、といった顔でそちらを眺めている中で、アーヌストさんが交互に二人を見て瞳を瞬かせていた。少しして私を見てくるので苦笑を返せば、そのまま大人しく座ってくれる。

「かなり親し気だな……?」

「……フォノカの名前を呼べるようになるための講師にしているからな……

 それで、これをどうするのだ?」

 アーヌストさんの問いかけにアルベヌが言葉を返してからセシリスさんはニコリと良い笑顔を浮かべて人差し指を立てる。ほんの少し後にその指先に火の玉を生み出していて、セシリスさんもそういえば魔法使えるんだったと思い出した。

 それで蠟燭に火をつけるのか……便利に魔法使ってるね……

 私が遠い目をしつつそれを見ていれば、セシリスさんは火を蝋燭に移し始めた。私たちの前世でよく見て使っていた数字。その形の蝋燭に火が灯る。

 誕生日ケーキの定番を久々に見て、懐かしいなぁとこっそり前世を思い返して小さく笑ってしまう。けれどもみんなケーキのほうに興味が向けられているから、気づかれることはなかった。

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