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第1話 「望んでないんですけど」

 頬に何かが当たる感触。

 ゆるりとそれに意識が浮上しかければ、体が何かに包まれて持ち上げられる感覚。

 それに目を開ければ、左右で形の違う角を額から生やした、大きな男性の顔があった。


「起きたか」

「……ん」


 顔の横に大きなものがきて、やや力強く顔の輪郭をなぞられる。無感情な顔を見上げつつ、自分が寝転がっているところから上体を起こして座る。

「今日はよく寝ていたな……食事は入るか?」

「蜜なら」

「そうか」

 淡々とした会話。そして、自分の座る方と反対側に柱のようなものが下から伸びて、その先にある細い柱が蛇のように動く。そのうち2本が先端部を合わせて弾くような動きをすれば、バチンと勢いのいい音が響いた。


 そう。わかる人にはわかっただろう。


 この柱は腕で、その先にあるのは指。もちろんその持ち主は、自分を文字通り手のひらに座らせているこの無表情の異形様。

 指を鳴らされただけだというのに、勢い良くて鼓膜が破れるかとされる度に思う。


 しかし鳴らした瞬間にごとりと何かがどこかに落ちる音がして、指を鳴らした腕が下に降りる。

 それを身体をねじって視線で追いかけようとすれば、下を覗き込む前に手のひらが傾けられて止められる。

 いや、そんなに心配されなくても落ちないのに。

 思わずじとりと手の持ち主を見上げれば、異形は指を鳴らして出したものしか見ていなかった。


 下で何かがされている音が響き、やがて持ち上がったその手には、蜜が零れない程度に掬われた小さい匙があった。

 緩やかな動きで自分の顔に寄せられる匙を見て、巨大な顔を見上げる。

「どうした」

「いい加減、自分で」

「我がしたい。お前は我のなんだ?」

「……ペットの小妖精」


「違う。外向けはそれであっているが今は我と2人だぞ」


 巨大な顔が少しムッと歪む。

 まるで子供が癇癪を起こす寸前のその顔に私は盛大にため息を吐いて見せ。


「あなただけのお友達だよ。殿下……じゃない、アルベヌ」

「ああその通りだ。特異な生まれを果たした特異な小妖精(ピクシー)

 お前が我から離れようとしない限り、我はお前を捨てはしない。それに我はお前に魔界やこの世界、お前の種族を教えて。お前は我の暇潰し……遊び相手になる。そういう約束だ。なぁ? フォノ」


 手慣れたもので、顔の少し前で傾けられる先の細い匙の先端に口をつければ、とろりと口に蜜が流れ込む。

 口の端から垂れた蜜をそのままに上目で見上げれば、ムッとしていた顔からは一転し、どこか楽しげな顔になっていた。


 パッと見は見目麗しい美丈夫。

 左右非対称の黒い角が額から伸び、瞳は縦長瞳孔で金の三白眼。ただし、白目は真っ黒だ。魔族の特徴らしい。それに紫がかった黒髪の長髪。サラサラのストレートヘア。

 着衣は金銀の糸でさりげなく豪奢な刺繍のされているゆったりとしたローブを着ている。


 スプーンの蜜を垂らせながらも飲み切れば匙が離され、蜜が流れる顎から口元に大きな鋭利に整えられた爪の先が滑って拭いとる。


 蜜がまとわりついたその爪は、その爪の持ち主の口に持っていかれ含まれ。


「……甘い」

「糖蜜だもの」


 指が薄い唇から引き抜かれれば、ぼんやりと呟かれるその言葉に何を当たり前なことをと言い返す。

 しかしその言葉を紡ぐと同時に、自分を乗せた手が巨大な顔に寄せられて、金の瞳に自分の顔が鏡のように映りこんだ。


「お前も魔族からしたら垂涎ものの馳走だぞ?

 お前と我が邂逅した出来事をもう忘れたか?」


 瞳がうっそりと細められ、反対の手の爪先で顎下をなぞられる。

 それにゲンナリと私は顔を歪めて呆れ気味に見つめていると、クハ、と楽しそうな呼気が下から聞こえた。

「そんな顔をするな。言葉を解してさらに話す小妖精なぞ、我ですら存在するとは思っていなかった。

 言っただろう? お前の種族は」


「精霊のなりぞこないで自然の魔力そのものが凝り固まった存在だから、魔力枯渇に近しい魔族からしたら特上のご飯兼特効薬、なのよね?」


「よく覚えていたな。それを教えたあとのお前の返答がおかしくてな」

「“ 異世界転生したと思ったら特定の種族にとってはご飯になる種族とか何その人生ハードモード。望んでないんですけど ”」


「グッ……!」


 本気で心の内を淡々と言っただけなのだが、邂逅当時のこの異形様には大変面白い返答だったらしい。

 現在も顔を横に向けて反対の手で口元を抑えてぷるぷると震えている。自分の座る手もバイブレーションだ。やめて。落ちる。


 異世界転生。


 そう、私は元々は人間であったし、こんな魔法や魔力なんて存在しない世界に生きていた、彼氏無しの独身のしがないOLだった。


 この異形様のところに私が置かれることになった経緯を、遅ればせながら説明させていただこう。






 私は穂花(ほのか)鴻崎 穂花(こうさき ほのか)

 しがない普段をなあなあに過ごしていたOLだった私だけれど。

 気が付いたら巨人達に囲まれていた。

 なんて酷いジョークだったらよかったが、現実問題。ジョークでもなんでもなく、事実だった。


 どうしてこうなった。


 周りを見回せば、自分と同じサイズの人がちらほらといる。が、その背中には様々な羽が生えていた。

 トンボのような羽もいれば、蝶のような羽、蛾のような羽、本当に様々だ。

 まさかと自分の背を見るように体をねじれば、その背中には白い半透明な鳥のような羽……というより、翼に近い形のものが生えていた。


 いつの間にこんなコスプレみたいな格好に?


 服は簡素な貫頭衣みたいなものになっているし、なんなんだ。

 

 ちょっと整理しよう。こうなる前、私は何をしていたか。

 出勤。そう、出勤中だった。

 いつものように簡素なメイクと言うのも烏滸がましいようなメイクしてスーツ着て、駅に行って、ホームで立ってた。

 到着間際のベルがなって、アナウンスが響いて、電車が来たなぁって首だけ傾けて車体見てて。そして。


 背中に衝撃。


 身体が傾く。足が浮く。線路に飛び込まされた。

 周りの悲鳴が、喧騒が響く。


『なんてことを』


 そんな言葉が聞こえた気がした瞬間、身体に来た痛みと衝撃で、私の意識は消えた。


 で、起きたらこの状況。


 いや。いやいやいやいや。

 待って待って。ほんと待って。

 確かに異世界転生とかそういう小説は読んでました。俺TUEEEE展開とかなんでそうなったとかそういうの読んでましたけども。


 自分の身に降りかかるなんて誰が思うものか。あれはあくまで空想だから面白いのである。と、私は思って過ごしていた。その夢のなさの罰とでもいうのですか、いるかどうかも分からない神様よ。


 多分自分は妖精辺りに転生したんだろう。しかし、この状況を見るに、恐らくいい扱いでは無い。

 目の前に巨人らしき存在はいる。しかしこれはきっと普通のサイズだ。私の種族が小さいだけだと思う。

 そして何より、私とあちらの間には柵のようなものがある。恐らく、檻……というより、虫かごのようなものに入れられているのではないかと推測した。

 いやほんと、なんだこの状況。

 思わずため息を吐き出せば、トト、と横に何かがやってくる。

 自分より幼そうな、半透明のトンボ羽を持つ少女みたいな妖精だった。

『大丈夫? 具合悪いの?』

 音と形容していいかも分からない、妙な音がその口からこぼれる。

 しかし言ってることは分かる。同種族ゆえか。

「大丈夫。ありがとう」

『あなた声どうかしたの? 音が違うね?』

「え、音?」

『大きいヤツらと似たような音。でも分かる。不思議な仲間だね』

「ふ、不思議なのかぁ」

『うん』

『不思議、不思議』

『あいつらと似てるけど、あなたの音は嫌いじゃないわ』

『ボクも』

 1人が来たのが皮切りになったのか、周りに集まりだした同族たち。あれ、これかなりまずいのでは? そう思った矢先、籠にドゴンと形容しがたい音と衝撃が来て、驚いて息を呑んだり、声を上げたりと周りがすれば。


「うるせぇぞチビども! 黙ってろ!!」


 怒声が上から叩きつけられ、見上げれば男の顔が柵越しに見えた。

 

『ぼくらのせい。ごめん』

「えむぐ」

『君はシー。不思議な子だから目をつけられちゃう』

『喋るダメ』

『ダメ』


 横からかけられた声に思わず顔を向けようとすれば、後ろから頭にのしかかられて変な声をあげてしまう。

 周りの子達がシャラシャラキュルキュルと上げる音の言葉に何が、と思っていたが、また籠を叩く音にみんなが固まる。

 シン……と静寂が響けば満足したのか離れていったらしい。僅かに響く重い音にそう思った。

 頭の重みが消えてそちらを見れば、自分と同い年くらいに見える可愛い顔の、蛾の羽を持っている妖精が1人。


『ねぇ、あの男の言ってたこと、わかる?』

「え? うるさい黙れって言ってたじゃない」

『分かるんだ』

『すごいや』


 自分が答えれば周りの妖精達は褒めちぎってくる。

 何でか。

 どうも大きな種族の言葉はうまく聞き取れないらしい。

 自分が説明をするまで、ただ汚く吠えるしかできない種族なんだと思っていたそう。

 あちらもこちらの言葉はわかっていないみたいだから、毎回からかう存在でしかなかったと聞いて。

「そりゃこういう扱いにもなる……」

 私が項垂れて言葉をもらせば、周りの子らは不思議そうに顔を見合せたりするだけなのであった。



 うるさければ怒鳴ったりしてくるが、巨人はこちらに危害を加えることは無かった。

 食事だろう蜂蜜みたいなのが詰まった壺や何かを砕いたものを乗せた皿を入れるくらいしかこちらに干渉もしない。


 しかしそんな日が数日続く中で、籠の中の子らも巨人の手により籠の外に持っていかれ。減って行った。

 そうして今度は私の番らしい。

 外に握られ持っていかれれば、何やら豪華そうな籠につめられた。


 籠にカバーをかけられ、暗闇の中もっていかれる。


 バッグを持つように持つのではなく、まるで商品を持つかのように抱えて持っていかれてるようで、縦揺れがひどい。

 やがて、少しして止まったところで変な動きが加わった。

『―――れ――う様――けん――』

『――――』

 カバーのせいで声が上手く聞こえない。

 ぐらりと揺れた感覚を覚えて、また縦揺れを起こした後。

 またぐらりと揺れて、どこかに置かれた感覚。

 そして、陰になってた空間がわずかに光がさして、思わずそちらを見て。


 ひっ。


 と息を飲んだ。

 逆光になって良く全貌は見えないが、カバーを少し開けてのぞき込んでいる、金の眼球のようなもの。

 思わずブルリと身を震わせれば、ゆっくりと金色が離れて、カバーが戻される。


『――空の―――珍しい』


 自分を見て思ったことを述べているのか、珍しいとは。

 私そんな珍種に転生しているのか。

 ざりざりと上の方で音がする。カバー越しにおそらく籠を撫でているんだろう。

 聞き取りにくい声が数回飛び交った後、また縦揺れが始まる。

 流れ的に、自分は今自分入りの籠を持つ何者かに売られたのだろうとなんとなく理解していた。

 ペットか、研究対象かどっちだろうか。

 はぁ、と深いため息を吐き出す。それと同時に、ガン、と何かに設置した音と衝撃。

 そしてカバーがはがされて、巨人の一部が見えてきた。

 左右非対称の角が額から生え、白目部分が黒く、その中に光る瞳は金色。それでいて瞳孔は獣のように縦に長い。少し冷たい雰囲気を出す美麗な顔を持つ男が、自分入りの籠の左右に手をついて自分をのぞき込んでいた。

「空の小妖精は初めて見たが……文献通りの羽だな」

 ガタゴトと大きな音がして、巨躯の位置が下方に落ちる。

 どうやらここは机で、椅子に座ったらしい。それでも籠よりははるかに高い位置に顔はあるが。

 無表情にこちらを見下ろすその瞳に感情らしい色はない。ただ物を見ている感覚のように見受けられる。

 どうするべきかと思案しかけたところで、ぎぃ、と籠の扉が開く音。

 そちらを見れば、やや鋭利に整えられた爪のある巨大な指先とそれと繋がっている手のひらが自分に向かってきていた。

 目を見開いて逃げる間もなく、無遠慮に握りこまれる。

 改めて小ささを認識する。この巨大な男の手のひらくらいの大きさしかないこの身体。

 微妙に痛いような痛くないような、そんな絶妙な圧迫に息を吐きだそうとしたところで、口に指先が押し付けられる。


「妖精たちの言語は鈴のようだからこそ、大声はうるさいからな。悪く思うな」


 あぁ甲高い音うるさく聞こえるときあるよねそれはわかるよ。

 分かるけど塞ぐの早すぎないかな!? 私まだ声上げてないんだが!?


 そんな抗議をしたいのに声が出ないからむぐぐとくぐもった音しか漏らせない。


 器用に口をふさいだまま、大きな2つの手で自分の体や羽を摘まんだり触ったり、前後左右隅々まで見て何かしらを確認する。

「確かに上物だな、羽の付け根の色が濃い。魔力が潤沢な証拠……垂涎ものといったところか。

 長く鑑賞用として置いておきたいところだが……厄介ごとも増えると面倒だ」

 少し残念そうな声色で呟きつつ自分を見つめるその瞳が、妙な色を帯びていくのが小さいからこそわかる。

 思わずひくりと体をひきつらせたところで、鋭利な爪がびり、と貫頭衣を背中から切り裂いた感触がした。体からずるりと荒い布が滑り落ちる感触がするが、確認している余裕がない。

「~~~っ!?」

「ただでさえ忙しいんだ、煩わされるのは他国からで十分なのでな……安心しろ、無駄にはしない」

 言葉を上げながら口を寄せてくる。すん、と上で吸い上げられる音。


「お前は格段に甘い匂いだな。普段はそのまま呑んでしまうが……味わっていただくとしよう」


 ゾッとした。食われる。

 目の前の唇から囁くように漏らされる言葉に硬直している最中、その唇から粘液を纏う真っ赤な舌が出てくる。

 ぺろりと頬をなめられ。恐怖に背筋が粟立つ。は? 転生して何もしないで即食われて退場とかなんですかそれ。

 グパ、と効果音が付きそうな勢いで目の前で口が開く。

 同じ大きさだったら視認できないだろう唾液の糸が上下に伸び、綺麗な白い歯が羅列している。

 舌で自分の胸が抑えられ、ねちゃりと粘液が体に付着してくる。気持ち悪い。そう思った瞬間に体が口内にさらに押し込まれ上半身が舌に倒されると同時に、指先が顔から離れた。

 そう、離れた。その瞬間に、恐怖よりも気持ち悪さと自分の身に降りかかっている理不尽なのか何なのか、境遇に対する怒りやらが混ざって何かが切れたのを頭の隅で理解した。


「いやいやいや待ってなんでこうなんのなんで転生したらこんな扱いされる種族になっててその上誰かもわからん奇麗だけど男に食われないけないのいや女でも獣でもいやだけど!! ってか食べるな!! なんで大きさ違うけど人型のモノ食べるのに抵抗ないのよ! 暴れるぞアンタの食道はいる前に気管支に入り込んでやるから!!」


「!!?」


 理解した瞬間に声を上げ、自分の上体を乗せた舌に頭突きする勢いで感情に任せて額を叩きつける。

 べちゃべちゃと音がするし気持ち悪いが知ったことではない。両手はまだ手の中で握られているからそれくらいしかできない。唾液で目が焼けると思って両目はつぶっているからどうなってるかわからないが。男の動きが止まったのはわかった。

 どれくらい頭突きしただろう。時間が良く分からない。

 そんな感覚に陥ったところで、自分の上体からあのクッションみたいな感触が消えた。

 何か布みたいな感触が顔をこそぐ感覚を覚えて、それがなくなった時に目を開けば、驚愕に目を見開いているあの角をはやしたご尊顔があった。

「……お前。共通語がわかるのか」

「いや共通語ってなに」

「知らぬと? いや、まて……転生、といっていたか……?」

「言ったわよ私一度死んだ覚えあるし」

「……自分の種族や我の事もしらないと……?」

「知るわけないわよ気づいたらアンタに私を売った奴らの籠の中なんだから」


「なんと雑な……! ここまで半端で特異な転生は聞いたこともないぞ……!」


「いやどんだけ運ないのよ私」

 それから目の前の男はジィ、と自分を見つめて、何かを読むかのように視線を流したところで凄く不憫そうに自分を見てくる。

 そして何やら神妙に申し訳なさそうな雰囲気で自分を机の上にそろりとおろして、ぱちんと指を鳴らしてワンピースタイプの白い服を纏わせてきた。魔法か。すごいな。

 服を眺めていたらトン、と背中を小突かれてそちらを見て上を向く。


「……この世界の知識を、転生者のお前に教えよう。まず、この世界のことだが」


 そうして始まった口頭での説明会。

 途中で座ろうとしたらなんか上等なクッションも指パッチン出だしてきた。便利に使えるんだね魔法。


 まずこの世界。テラリノーツって名前の世界で、ここは魔物や魔族、人間が混合して暮らすペンダイル国。どうやら魔界と呼ばれているらしい。

 目の前の彼は、その国の現国王様で、魔王と呼ばれているとのことだった。

 私不敬罪では? と思わず言ったら目の前の国王は頭を抱えて首を振っていた。どうやら違うらしい。良かった。

 それから自分の種族のことを聞いたのだが、彼は何とも言いにくそうに口を引き結ぶ。

 しばらく真顔で口を結んでいたが、やがて重苦しく呼気を零すと同時に。


「お前の種族は小妖精だ……それも、希少な空の属性、魔力が潤沢な種となる。特徴はお前の髪、瞳の色と翼の形状と色だ。風の小妖精もそのような翼をもつがあちらは緑っぽい色をしているから見分けはつく。

 小妖精とは、自然の魔力そのものが凝り固まった存在である精霊がなりそこなった姿だと言われていてな……だからこそ、捕まえてしまえばその扱いは最底辺だ。命など思慮もされず、好き勝手扱われる存在……それに、我ら魔族にとっては食料となる時もある……大きさなど関係なく、魔力量に応じて腹も膨れるし、何より魔力でできているのだから、喰らってしまえば魔力がばらつきはあるが回復する。即効性があるだけに特効薬扱いだ」


「異世界転生したと思ったら特定の種族にとってはご飯になる種族とか何その人生ハードモード。望んでないんですけど」


 魔力枯渇に最適な特効薬扱いでお腹も膨れるから食料扱いとかなんだそれ。生きていける気がしない。

 と純粋に思って呟いた言葉だが、上にある男の顔はぽかんとしたものになった。

 なにか? と見上げていたら。


「いやお前……悲観するでもなんでもなくそう淡々と……本当にわかっているか? お前は弱者に成り下がっているんだぞ?」


 顔を寄せて心配そうに声を紡いでくる男に、私は逆に小首をかしげて見せる。

「いやだってなっちゃったものはしょうがないし」

「しょうがないと……? お前は、それを受け入れるのか……?」

 驚いたような、ポカンとした顔の男。

 だってそれ以外ないじゃない、と表情で訴えてみれば、くッ、と目の前で巨躯の喉が震えた。

「クハッ……フ、クク……!!」

 吹き出す寸前に顔を横に向けて、笑う男に呆然とする。

 今笑う要素があったっけ……?

 そんな顔をしていれば、大きな手が左右に添えられて持ち上げられる。

「面白いやつだな、お前は……もう一度さっきの言葉を言ってくれないか? はーどもーど、だったか」

 顔を寄せられ、無表情の顔が柔らに笑んで瞳が細められる。

 未知を体験して楽しんでいるような、そんな感じの目だ。


「異世界転生したと思ったら特定の種族にとってはご飯になる種族とか何その人生ハードモード。望んでないんですけど」

「ふぐっ……!」


 望まれるままに言葉を紡げば、また笑いが漏れる。

 ひとしきりクツクツと笑った後、はぁと楽しそうに息を吐き出して獣のような瞳を向けてくる。

 うっそりと酩酊したような瞳。色っぽいってこういう目を言うんだろうなと思いつつ、今の大きさだと捕食するものとされるものの関係の位置づけで獲物を狙う目にしか見えない。


「特異な小妖精。我と友にならないか? そして、約束をしよう」

「友……? 約束……?」

「あぁ。我はお前から離れたりしない限り、お前を手放したりはしないと約束しよう。お前がわからない、知りたいといった知識も、我が知ってる範囲であれば教えよう。

 そのかわり、お前は我の暇つぶし相手……話し相手、遊び相手になる。そういう約束は、嫌いか?」


 顔を向け、ゆるりと目元を細めて自分に寄せて見つめてくる。大きな双眸に自分の今の顔が映りこんで、目を見ているのか自分を見ているのかわからなくなった。

「こんなに楽しい時間は久々でな……約束を交わしてくれるなら、良い待遇をするぞ? まぁ、交わしてもらえないなら放り出すか……間食にでもするだけだが」

「待って最後友達にする必要のない脅しじゃないの」

「我の立場を知ってなお、物怖じせずそのように返すか。ますます欲しいな」

 さぁ、どうする?

 欲に満ちた大きな目が自分を見つめる。自分の大きさなら目の前の顔の口に入れられて、丸呑みするのも苦じゃないだろう

 乗せられている手がゆるゆると自分をつかむような形になりつつあるのを感じたところで。


「分かった。わかりました! 友にも遊び相手にもなるからじわじわ脅すのやめて!」


 声を張り上げたところで、ぴたりと手が止まる。

 その後、大きな顔が寄せられて数度頬ずりされてから先ほどいたクッションにゆっくりと降ろされる。

「その言葉が聞けて嬉しい限りだ。よろしく頼むぞ、我の小妖精。我の友」

「その小妖精ってやめて。私は穂花って名前があるの!」

「……フォノァ?」

「穂花!」

「フォノア……ふむ、不思議な響きすぎて言える気がしないが」

「えぇ……じゃぁ言いやすくしていいよ……」

「では、フォノと。ちゃんと呼べるように練習はしておこう。

 我はアルベヌ……いや、正式に名乗ろうか。ペンダイル国現国王、アルベヌ・サーペンダイルだ。好きに呼ぶといい」

「わかった……今日からお世話になるね。アルベヌ」

「あぁ。よろしくフォノ……お前の寝床や小物、衣服も用意せねばな……楽しみだ」


 クツリと喉を震わせて爪の先で自分の顎から顔のラインをなぞり見下ろしてくるその表情は、その時は凄く言葉通りに楽しそうに見えていた。

 こうして、自分とこの魔王様との関係はスタートしたのである。





おまけ


「勢いで名前呼びしちゃったけど、陛下って呼ぶのは?」

「友になる気はあるのか? 友を陛下と呼ぶのか?」

「いやだって私あの時いろいろハイだったし、あなた国王だし?」

「はい……とはなんだ……? むぅ。しかし、よそよそしいだろう」


「感情が昂ってたってこと。それに好きに呼べって言ったじゃん」


「ぐ……っ、殿下や陛下以外なら許す」

「えぇぇ……」


見切り発車なのでプロットがまだ出来上がりきっておりません('ω')

できるだけ更新できるように頑張りますのでよろしくお願いいたします。

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