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 馬車はかなり荘厳な感じだった。

 馬車の周りには十匹以上は間違いなくいるであろうサル型の生物が囲むようにしていた。


 何だあのサルは。体毛がかなり黒いのはまぁ普通だが手が四本ないか? 気持ち悪い見た目をしてる……


 そして木陰からよく見てみれば、そんなサルたちと一人の女の子が戦っていた。

 どうやら一人で馬車を守っているようだ。


 えぇ、どういう状況?

 馬車が襲われてるのかな……あ、サルが攻撃した。うまく剣でいなしてる……凄い身のこなしだ。俺だったら何もできずに死んでるな。

 だが流石に多勢に無勢でジリ貧のようだ。

 このままだといずれ体力が付きてやられてしまうかも……


「どうする? 俺も戦うか?」


 固唾をのんで見守る俺だったが、よく考えてみれば魔法を使えないかと思い至る。

 そうだよ、俺は何れ魔王を倒さないといけないんだ。

 いきなりでリスクはあるかもしれないが、今やらないでいつやるんだ。


 俺はサルたちの前に躍り出た。


 でも魔法ってどう使うんだろう。

 てかこの状況で有効な魔法ってなんだ?

 近づくのは流石に怖すぎるよな?

 てことはやっぱり遠距離攻撃か。


 サルたちがこちらに気づいたようだ。

 俺は悩んでも仕方ないと思い、もう思い切って風でも撒き散らしてみることにした。


「い、いけ! ウインドカッター!!」


 ポーズを決めてそれっぽい言葉を放つ。

 これで何も起こらなかったら失笑ものだが、体から何かが抜け出す感覚とともに視界を物凄い刃風が駆け抜けた。


 サルたちは一瞬にして切り刻まれ、血なまぐさい空間へ成り変わった。

 

 こ、これが魔法……思ったよりもあっさり撃てたな。でも臭い最悪。使う魔法間違えたかも。


 俺の魔法により、視界内のサル共は全滅した。

 なんだか自分が自分じゃないみたいだ。


 俺は高揚する気を抑えながら、取り残された少女に近づいていった。


「大丈夫でした?」


「あ、あなたは……」


 少女は身軽な装備に身を包んだ美少女だった。

 髪は金髪ロングって感じ? 近づいてわかったけどめちゃくちゃ可愛くないか? 落ち着いてる雰囲気もなんだか合ってる……

 首についてる紫の首輪だけ少し気になるが、こんな美少女と会話するなんて俺の人生で今までなかった。


「え、えーっと、まぁ俺はこの辺をうろついていた者だ。なんだか物音が聞こえてきたんで気になって来てみたって感じかな」


 変に格好をつけてしまった。

 


「そう、だったんですか。あの、助けていただいたようで、本当にありがとうございます」


 少女はペコリと頭を下げてきた。

 おお、異世界にも頭を下げるという文化が……それに言葉もきちんと通じてる。日本と大差感じないかも。


「いやいやそんな大丈夫ですよ。それより場所を移しませんか? 結構匂いがあれなんで」


「そうですね。更に魔物がこないとも限りませんし」


「これは……」


 そんな中ふと馬車の中から誰かが顔を出した。

 きれいに着飾った、紫の髪の女性だった。

 辺りを見回して驚いているようだ。


 その様子を同じく見ていた少女が言った。


「ひとまず馬車にお乗りください」






 馬車の中はかなり広かった。

 しかもなんというか全体的に豪奢な雰囲気だ。


 場には俺を含め四人の人物がいた。



「本当にありがとうございます。窮地を救っていただいたようで! 本当にもう終わりかと思いました」


 そう言うのは先程の赤紫の髪の女性。

 二十代前半くらいかな。

 ドレスのような気品のある装いをしている。


 そしてその女性の後ろに、二人の女が控えるようにして立っていた。

 一人は背の低い十代前半くらいの自身のなさそうな子で、もう一人は先程戦っていた少女だ。

 ちなみに外には馬車を引いてる初老の男の人がいる。

 馬は標的外だったらしく、二匹いるうちの一匹が少し怪我をした程度で済んだらしい。


「まさかスパイダーモンキーの群れに遭遇するとは思ってもいませんでした……ペルーシャ。お茶を用意してください。自分から気を遣ってくださいね?」


「も、申し訳ございません」


 ペルーシャと呼ばれた子が返事をし近くの棚に向かった。

 この子も首輪をつけている。

 なんか扱いが雑なような……


「高をくくっていた私のミスですね。貴方様がいらっしゃらなければどうなっていたことやら」


「えっと、それは大丈夫なんですけど、あなた方は一体……」


「ああ、自己紹介がまだでしたね、名も名乗らず失礼いたしました。私はアーリスヘルム家の次女、ビィヒム・アーリスヘルムと申します。後ろの者は私の部下で、背の高いほうが戦闘奴隷のアズサ。低いほうが愛玩奴隷のペルーシャです」


 女性の自己紹介に合わせ、後ろの二人も軽く会釈する。

 ど、奴隷って……マジかよ。じゃあ二人が首輪つけてるのってそういう理由?

 さすが異世界……地球ではタブーっぽいことも堂々とやってのける。


 そこでなんだか妙な間が空いたことに気づく。

 女性は俺の方を静かに見ていた。

 ああ、俺の自己紹介ってことかな。


「えーっと、僕は山辺陽路やまのべひろと申します」


「ヤマノベ……さん……?」


「ああ、陽路の方が名前でして」


「あ、大変失礼いたしました。ヒロさんですね。名字持ちということはやはり由緒あるご家柄なんでしょうか」


 名字持ちってこの世界じゃレアなのか? 目立つ要因になるかも気をつけたほうがいいか。


「それにしても高火力の魔法で敵を一瞬で殲滅したとか。一体どういったご職業なのか、気になってしまいますわ」


「いや、全然大したものじゃないですよ。つい最近まで山籠りしていて、そこで師匠に修行をつけても貰ってただけです」


 適当な嘘をでっちあげとこう。不自然がないようにな。


「へー、変わった境遇なんですね! でしたらなおさら出会えてラッキーでした。まぁすみません、はしたない言葉を」


 にっこり微笑むなんとかさん。やべ、この人の名前忘れた。

 金髪の奴隷の子はアズサちゃんだったよな。


「こちらからしてもラッキーでしたよ、どこに行こうか途方にくれてた所だったので」


「まぁ! でしたら我々の館においでになられては如何でしょう? 命の恩人として最上級のおもてなしをさせていただきます」


 そう提案してきた。

 それは助かるかもしれんな。マジでどうしようか困ってたし。利用できるもんは利用しておこう。


「ぜひお願いします」


 そうして俺は偶然出会った高貴な家柄の人に街に連れて行って貰えることになった。


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