前編
4月、桜散る頃。
ここ、黒桜高校にも新入生がやって来る。
別れの時は過ぎ、新しい風が吹く。
そんな軽やかな雰囲気の中を、武藤咲良は一人鬱々とした気持ちで歩いている。
上りなれた学校へと続く階段を行く足が重い。
一番上まで上った所で、咲良は大きくため息を吐いた。
疲れたからではない。
(またいる・・・)
咲良の視線の先、黒桜高等学校の名前が掲げられた門柱に、生徒が一人寄りかかって立っているのが見えた。
銀色の髪に、色白の端正な顔立ちをした生徒である。
身長は咲良よりも高い。
学年は一つ下。
礼門左妃。
4月から黒桜高校へ編入してきた転校生である。
―転校生が校門で誰かを待っている―
それだけならば、何のことはない。
むしろ女生徒たちが騒ぎだしそうな容貌を彼はしているし、こんな時間にこんな場所で立っているなんて、
誰を待っているのかしら・・・、などと想像も膨らむだろう。
「・・・・・」
咲良は重いため息をもう一度吐いた。
周りを行く生徒たちが、確実に彼を避けている。
見ないように、視線を合わせないようにしている。
咲良は知っている。
あいつが待っているのはオレだ。
近寄ってみれば分かる。
いや、近寄らなくても分かる・・・。
彼のこめかみには明らかに四つ角が立っているのが。
その瞳がギラギラと憎々しげに殺気をたたえているのが。
どう考えても、恋愛小説にはほど遠い闘気がその身に渦巻いているのが。
だから誰も近寄らないのだ。
帰っちゃおうかな、とも思ったが、今日逃れた所で先は見えている。
咲良は仕方なく、前へ進んだ。
そんな咲良の気配を敏感に察知したのか、石のように動かなかった左妃がぴくりと反応を見せた。門柱からゆっくりと身を起こすと、咲良と向き合うように仁王立ちになる。
少し距離を置いて、咲良は立ち止まった。
「昨日言ったはずだがな」
高飛車な口調で左妃は言った。
「何のことだ?」
とっさに咲良はすっとぼけることにした。
「貴様・・・、忘れたとは言わせないぞ」
眉間にまでシワを寄せて左妃は怒った。
時は昨日の登校時間に遡る。
いつも通りに学校へと続く階段を咲良は上った。
礼門左妃は今日と同じ位置に、今日と同じ時間に、同じ姿勢で待っていた。
初めて見る顔だった。
ただ今日のような殺気だった風ではなかったから、咲良は目には留めたが誰かを待っているんだろうと思い、通り過ぎた。
「武藤咲良というのはお前か」
彼の目の前まで咲良が来た時、ふいに左妃が口を開いた。
「初対面の相手に呼び捨てはないだろう」
咲良は言った。お前もないよな・・・言いながら思った。
「誰だお前は」
「俺の名は礼門左妃だ。今日の放課後、体育館裏の空き地に来い」
左妃は咲良の言葉は全く無視した。一方的に用件を突きつけ、去って行った。
なぜかは知らないが、左妃の気配からは戦う気が充ち満ちていた。行ったところで面倒なことになりそうだったし、
また、咲良自身が面倒だったから・・・・・すっぽかした。
(ひょっとして、ずっと待ってたのか・・・)
咲良はとりあえず謝っておいた。
「いや、本当に忘れていた。すまなかったな」
「言い切るつもりか・・・」
左妃は気分を相当悪くしたが、かろうじてこらえた。
「まあ、いい。昨日のことは水に流してやる」
身長差を利用して、見下すように咲良を睨みつけるとふいに嗤った。
「回りくどいやり方をした俺にも原因があるしな」
左妃の周りに力の気配が立ちこめる。
「すまないと思ってくれるならちょうどいい。今ここで決着をつけてもらおうか」
「何?」
「ここならば、逃げられる心配もない」
「おい、ここはソレ禁止されてるんだぞ」
一般の生徒もいるので、言葉を濁しながら、咲良は困ったようにたしなめた。
「関係ないな」
左妃は組んでいた腕を下ろした。
「停学だの退学になる」
「フン、もともと学校なんぞという所に通う気などないわ」
完全に戦る気になっている。
「・・・・仕方ない」
咲良は間合いを取った。ここは目立ち過ぎる。昨日左妃に指定された場所に行っていれば良かったと少し後悔した。
空気が緊張する。
まさに一触即発。
と。
間の抜けた声がした。
「へ~え、左妃ちゃんすっぽかされたんだ」
殺伐とした雰囲気が一気にぶち壊される。
声の方向へ視線をやれば、校舎の壁から半身だけをのぞかせて長髪の生徒がにやにやと笑っていた。
(あれは千条院の・・・・白賀千暁か)
咲良は記憶を手繰る。
「折角告白しようと思って呼び出したのに、残念だったね」
千暁はそのままの状態で左妃を挑発するように言った。
「呼び出したのに待ちぼうけ」
フフッ。口に片手をやって千暁は笑った。
「貴様ッ、黙れ!!」
左妃が怒鳴った。しかしその威圧も千暁には全く効かないようだ。
「ま~ちぼうけ~で、ま~ちぶせ~~~~~」
妙な韻をふみながらさらに左妃をからかった。左妃は咲良と睨み合っていたことなど頭からすっぽぬけたように、ずかずかと千暁の方へ歩いて行く。
「黙れと言っているんだ」
「や~い、フラれんぼ~~~~」
言うだけ言って、千暁は軽い足取りで逃げて行く。
「待てッ!!」
左妃はそれを追って校舎へ姿を消した。
後には放心した咲良だけが残された。
(とりあえず助かった・・・・)
ほっと胸を撫で下ろす。
でも、これで終わりじゃないよな・・・・。
これから毎日こんなことが続くのだろうか。
「やだな・・・」
いつもは取り乱さない咲良が、少しうんざりした表情になった。
end.
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words.
武藤咲良
礼門左妃
白賀千暁
黒桜高校




