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第四話 浪人と妖刀と座長

江戸八百八町。天下は泰平、なべてこの世は事もなし。

そんな平和な町で、浪人と妖刀は散歩をしている。


「どうでぇ。たまには目的もなく町をぶらつくのも、良いもんだろう」

「ふん。俺は妖刀だぞ。こんな平和な雰囲気は性に合わぬわ」


道すがら、歌舞伎一座の座長に出会った。


「あらお侍さん。ご無沙汰しております」

「ああお久しぶり。でも俺ぁまだ侍じゃないんだけど」

「これは失礼。喋る刀さんもご無沙汰しております」


気付いていたのか。まぁ舞台に誘われたときに大声で答えていたからな。


「ご無沙汰だな座長。この前はいろいろ世話になった」

「いえいえ。しかし面白い刀さんですね、喋る刀さんとは」


刀と普通に会話をしている。この座長、只者ではないのかも知れない。


「座長さんは最近どうでぇ。舞台はうまくいってるのかい」

「おかげ様で。ですが最近、それとは違うところで悩み事がありまして」


座長の友人の飼っている猫の様子がおかしいらしく、相談を受けたという。相談されたからにはどうにかしてあげたい。それで悩んでいたという。


「どうですお侍さん。刀さんと一緒になんとかしてもらえませんか」

「しかしなぁ、俺は猫を飼ったことがねぇんだが」

「例によって、お賃金ははずみますよ」

「その言葉に俺ぁ弱いねぇ。よしわかった。やってみよう」

「ありがとうございます。早速案内しますよ」


場所は本所。案内された場所は大きなお屋敷だった。

尋ねると、出てきたのは恰幅の良い豪商の旦那。


「実は、私が長年飼っている愛猫が行灯の油を舐め、尻尾がふたつに割れたのです」


それは確かに不気味だろう。早速その猫に会ってみる。

確かに尻尾がふたつに割れている。しかしそれ以外は、他の猫と変わりはない。縁側でぬくぬくと日向ぼっこをしている黒猫。


「尻尾以外はこれといって普通の猫のようだが。妖刀、何か感じたりしねぇかい」

「わからないな。本人に聞いてみると良いのではないか」


なるほど、それは良い手だ。

「寝てるとこすまねぇな、猫さん。猫さんは化け猫かい」


猫に話しかける浪人を、豪商の旦那は訝しげに見ている。


猫はあくびをして浪人を見た。

「にゃあ。化け猫ではないと思うにゃあ」


猫が喋ったことに、豪商の旦那は腰を抜かしたらしい。尻もちをついた。


「なんで油なんて舐めるんだい。美味いもんじゃあねぇだろう」

「ご主人は僕の身体を考えてくれて、いつも栄養のあるご飯をくれるにゃ。だけども、たまには脂っこいものとかが食べたくて、それでこっそり油を舐めてたにゃ」


「だそうだぜ、旦那。たまにはおやつでもあげたらどうかね」


「あ、ああ…。クロ。お前、喋れたのかい?」

「喋ったら驚かせてしまうと思って、ずっと隠していたにゃ」

「喋るうえに私を気遣ってくれるクロ…。いいね!」


豪商の旦那はご満悦だ。


化け猫は普通の猫よりも、寿命が格段に延びるという。

これから旦那とクロは、ずっといっしょに暮らしていけるだろう。

旦那はクロに一日一回、おやつをあげることで合意をした。


「これで解決ってことでいいかい、座長さん」

「そうですね。やはり貴方に来ていただいて良かった」

「じゃあ、おいとまするか」


旦那とクロは浪人たちが見えなくなるまで、頭を下げて見送ってくれた。


どうやら子供もいないようだから、これからはもっと満ち足りた生活になるだろう。

愛情を注いで飼っている動物が言葉を喋る。考えてみたら幸せなことかもしれない。


「すまねぇな座長さん。こんな簡単な仕事で賃金をいただいてしまって」

「良いのですよ。しかし猫が喋ったとき、貴方は一切驚いてませんでしたね」

「そりゃあねぇ。こちとら喋る刀がいるもんで。別段可愛くもねぇし愛情もねぇが」

「なんだとこの野郎」


今日もお江戸は平和である。

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