第2話
教室内を這いずり回る、人間大の『ゴキブリ』。
「ん〜、シュールだわね?」
誰もいなくなった室内で、教卓によじ登って立ち上がり、こちらを向いた『それ』と目が合った。
いや、正確にはこちらを向いた『それ』の視線を感じた。
『おい!』
「…………………………」
『おい、そこの女!』
「……………失礼ね。私かしら?」
『そうだ、おまえ、怖くないのか?』
「何をかしら?」
『ゴキブリが怖くないのか?』
「あら、貴方はゴキブリなのかしら?」
『違う!姿はゴキブリだが、違う!!』
「どちらにしても、怖くなんかないわよ?」
『頼む、見逃してくれ!追われてるんだ。何も悪いことなどしてないのに!!』
「…………………………いいわよ、貴方からは悪意を感じないから。」
敷地内全てに認識障害を掛けて、
「はい、これで出られるわ。行きなさい。」
『…………………………いいのか?』
「良いも悪いも、あなた次第よ?」
『感謝する!』
「感謝なんか、要らないわよ。早く行って。」
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帰りの馬車に揺られながら、溜息をつく。
「…………………………ねえ?」
『…………………………俺か?』
「そう、あなた以外に誰が付いてくるのかしら?」
『…………………………こんなに離れているのに見えるのか?聞こえるのか!いつからだ?』
「ん〜、まあね?最初からね。」
『…………………………恩返ししたい。』
「要らないわよ。付いてこないで。」
『………………………………………』
「貴方が出ていった後、大変だったんだからね?」
『………………………………………』
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屋敷内、自室にて。
「ねえ、お姉様?」
「何かな?」
「表門の前にいる『ゴキブリ』、姉様を呼んでるんだけど?」
「…………………………放っておきなさい。」
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「ねえ、姉様?」
「何かな?」
「雨が降ってきたわね。」
「………………………………………」
「可哀想ね?」
「放っておきなさい。」
「まだ何も言ってないわよ?」
「………………………………………」
「…………………………中に入れてあげていい?」
「やめなさい!」
「………………………………………」
「………………………………………」